第2話 王立都市『アルヴェリア』
「ここまで来ればもう安全だから」
俺を助けてくれた目の前の美少女こと、アルシェリア・ルミナリアはそう軽く微笑んで俺を安心させる。
その言葉一つが俺の心臓の鼓動を少しだけ遅くした。
「ここって!?」
「まさか本当に知らないの?」
俺の驚き具合を見て、心底びっくりするアルシェリア。
どうやらここはこの世界では有名な場所なようだ。
「ここは王立都市アルヴェリア。別名魔の都とも呼ばれてるわ」
「王立都市アルヴェリア⋯⋯ ⋯⋯ 」
目の前には多くのファンタジー世界で見た建築物が所狭しと点在している。建物は白い石材と鈍い銀色の金属で構成されており、所々の壁面には奇妙な二本の剣を組み合わせたシンボルが刻まれている。
窓ガラスの類もきちんと備わっており、この世界が一定以上の文明を持つことは疑いようもない。
また多くの喧騒で賑わっており、露天も多数立ち並んでいる。
商売人が通行人を捕まえては、自身の物をどうにかこうにか売りつけている様が見て取れる。
街の人々の服装は白と黒を基調とした軽くて薄い布地の服を着用している者が多く見受けられる。
「ざっと100万人はここで生活しているわ」
「すっご。まじでゲームみたい」
「ゲーム? 球技?」
「あっ、いや忘れてくれ」
俺の口から出た言葉を耳にして首を傾げるアルシェリア。
当然だがこの世界は異世界で、どうやらビデオゲームの類はないらしい。
彼女が連想したゲームは恐らく、球技などのアナログな遊びの類だろう。
「行く宛はあるの?」
何かを察したアルシェリアは俺を心配そうな目で見つめてくる。
「いや、正直路頭に迷ってて」
いきなり異世界に放り出されて、これからどうすればいいかまるで見当もついていない。だが帰ろうにも帰り方も当然知らない。
「うーん、これは仕方ないか」
「え?」
何かを考え、小声で喋るアルシェリア。その間黙ることしかできない俺。
「取り敢えず私が泊まってる宿に来る?」
「え、いいのか?」
「流石に路頭に迷ってる人を放っては置けないしね」
「まじで、ありがとう」
俺は思わず嬉しすぎて、アルシェリアの両肩に手を置き、前のめりでお礼を言う。
アルシェリアはそんな俺を見て、思わず笑みを溢した。
彼女が宿泊している宿は、こじんまりとした、だが清潔感のある綺麗な外装と内装の宿だった。
酒場と食堂が併設されており、昼間から多くの人々がお酒を嗜んでいた。
「あまり関わらないほうがいいわよ。彼らの多くはならず者だから」
そう忠告すると、アルシェリアは宿屋の主人に何かを伝えている。
察するに俺のことであろう。
「許可が降りたわ。今日から同じ部屋で寝泊まりできるから」
「お、同じ部屋!? そ、それは流石にまずいんじゃ⋯⋯ 」
「意味がわからないわ。他に行く当てないんでしょ?」
「まあそうだけど」
日本では年頃の男女が一つ屋根の下はまずいと思うんだが、この世界では普通なのだろうか。
まあ、行く宛もないので心変わりされたら困るっちゃ困るんだが。
「204号室が私達の借りてる部屋。鍵は一つしかないから勝手に外出しないこと。わかった?」
「OK。それで色々聞きたいことあるんだけど」
俺は204号室に入って、床にちょこんと正座で座る。
アルシェリアは硬くも柔らかくもなさそうな、普通のベッドに腰をかける。
「床でいいの?」と聞かれたが首を縦に振った。
流石に一緒のベッドで座るのは俺の心臓が持たない。
「なあここって地球か?」
「地球? 聞いたことないわね。どこの国の名前?」
「国じゃなく、星なんだが」
「ああ、そう言うこと」
アルシェリアは納得したような表情を見せる。そして俺は彼女を通して少しだけだがこの世界の詳細を知れた。
どうやらこの星は地球ではなく、アストレイアと言うらしい。そしてその事実と同時にこの世界が異世界であると言うことが確定した。
科学より、魔法が圧倒的に発展してるこの世界では、文化も生活様式も微妙に異なってると言える。少なくとも魔法を扱えないと生きる上ではとても不便を強いられる筈。
「つまりヤレンは別の世界から来たってこと? 俄かには信じ難いけど」
「まあ、証拠はないけど」
「でも嘘じゃなさそうなのは確かね。何の知識もなく、服装も異質だし」
「そう言ってくれると助かる」
どうやらアルシェリアは信じてくれそうだ。
その事実だけでも俺の心は軽くなる。
「それでこれからどうするつもり?」
「取り敢えず帰る術を探そうかと」
「まあそうよね。だったら、アルヴェリア王立魔道学院に入学してみる? 私も実は受けようと思ってて」
「魔導学院?」
アルヴェリア王立魔導学院──それは歴史ある由緒正しき魔法使いを育成、出荷する名門学院である。世界魔導機関に定められた六つのうちの一つの学院であり、毎年多くの生徒が受験する有名な学院である。
「いや、待て。俺魔法なんて使えないし、頭だって良くないし」
「大丈夫、大丈夫。まだ少し時間あるから」
そう不適な笑みを浮かべる彼女は、どこからか数冊の本を俺の目の前に置く。
小難しいタイトルの本が嫌でも視界に入る。
「絶対間に合わせてあげる」
「はあ〜」
何で異世界に来てまで勉強しないといけないんだ。
異世界ってもっといいところの筈じゃないのかよおおおお。
試験開始まで残り30日。




