第23話 共鳴
アルシェリアside
ルーヴァとの共闘の後、私は発煙筒が上がった方向へと急いで向かった。
道中、教師陣が民間人を避難誘導してるのが確認できた。
だが明らかに様子がおかしい。
(騒動については把握してる筈。なのに何故直接介入しない?)
(まるでわざと泳がせてるような……)
まさか、夜蓮の力の真髄を引き出す為?
だとすれば、一体誰が?
レオンハルト? いやあの教師はクールに見えて、意外と内に熱いものを感じた。それに正義感が強いタイプに見える。真っ先に生徒を守る為介入していてもおかしくはない。
もっと上の立場──学院長。
全力で走りながら思考を高速で回転させる。
仮説の域を出ないが、しかし論理的でもあった。
(何か嫌な予感がする)
(学院長がもし黒幕なら、彼の狙いも夜蓮の因子?)
(当然と言えば当然か。何せとんでもない代物だものね)
私も彼の能力を知った時、内心驚いた。表情にはなるべく出さなかったが。
何せあれはただのコピーじゃない。理論上全てを複製、上書き、そして創造すらも可能だ。とても人間が持っていい代物ではなかった。
(確か夜蓮は別の世界から来たと言っていた。つまり異世界人)
(待って……昔どこかで)
何かを思い出そうとした時、眼前に信じられない光景が浮かんできた。
「何あれ!? 一体どうなって」
私が発煙筒が上がった場所付近まで到着すると、夜蓮が一人の少年を足蹴にして見下ろしていた。
夜蓮達の周辺だけ、あらゆる物質が消失している。まるでそこだけ空間が切り取られたような。異様な光景と言わざるを得ない。かろうじて一部粉々になった建築物と思わしき残骸や、ひび割れた地面、そして地面に付着している血痕が残されていた。
私は夜蓮にゆっくりと近づく。だが大きな異変を感じ取る。
「待って、あなた誰? 夜蓮じゃないわね」
「ホウ、ヨクキヅイタナ。ソレニオマエ……」
遠目には夜蓮に見えるが、近づくと明らかに人間のそれじゃない何か。
異形とも呼ぶべき、悍ましい何か。直感で関わってはいけないと常人なら理解する。
一体何があった?
「ソウオビエルナ。オマエニナニカスルキハナイ」
「信じるまではいかないけど、疑うこともしないわ」
「カシコイオンナダ。キニイッタ」
私は敵意を向けず、警戒心も解いた。
それと同時に視線を下に向ける。
「信じて欲しいなら事情くらい説明してくれる?」
「ソレモソウダナ。イイダロウセツメイシテヤル」
「一ついいかしら? なんでカタコトなの?」
「ヒトノコトバヲハナスノハヒサシイカラダ」
人の言葉? つまり目の前のこれは人ではない何かという事?
それが何故夜蓮の姿でいるのかしら。詳しく事情を聞いて判断するしかないわね。
夜蓮の姿をした何かが事情を簡単に説明する。
説明された事情を要約すると、どうやら夜蓮が前回学院襲撃時に使用した、虚重反転球を再度使用したようだ。
しかし制御できず自身すらも飲み込まれそうになり、目の前のこいつが出てきた。
倒れてる敵は襲撃者の一人で恐らく首謀者との事だ。
「それで、夜蓮は無事なのよね?」
「モンダイナイ。シカシフォージコードノシヨウニヨリ、ニクタイニオオキナフカガカカッテイル。コノママタヨウシツヅケレバ、ヤガテニクタイハタエキレズホロビユク」
「……そう分かったわ。ところで貴方は何者?」
私は警戒心を抱かないように冷静を保ち、落ち着いた口調で問いかける。
目の前の異形は僅かに眉を下に動かす。
「ワタシハシンギャクシャ。カミニソムイタモノ」
「しんぎゃくしゃ!? 待って貴方まさか──」
「モウジカンダ。ワタシガイナイアイダコイツノコトハマカセタゾ」
「ちょっと待って──」
まだ聞きたいことがある。眠って貰っては困るのよ。
私は必死で異形に呼び掛ける。しかし返答はない。
そして数拍後、彼が目覚めた。
「アルシェリア!? 反重力球はどうなった!?」
状況が分からず混乱しているのか、動揺を隠せていない。
異形に変わってからの記憶がないのか?
「見ての通り無事片付いたわ。それより本当に何も覚えていないの?」
「変な声が内側から響いて、気づいたらこうなってて」
どこまで話すべきか。今は無闇に話すべきではないのか?
だけど隠す意味はあるのか? 変に隠すことで亀裂が走ることは避けたい。
打算的だが私は夜蓮の力が必要不可欠だ。親密度は上げておいた方がいい。
何より私の直感が告げている──敵に回すなと。
────
「という事があって、現状こうなってるわけ。理解した?」
「あ、ああ。つまり俺の中に化け物がいて、そいつが助けてくれたと」
「簡潔に言えばそうなるわね。肉体、精神問題ない?」
「ああ何とか。疲労は溜まってるけどな」
ついでに私は神逆者の事、複写展開の多用を避けるべき理由、異形が眠ってる?間、夜蓮を任された事も全て包み隠さず話した。
「そうか、ありがとな」
「全然いいわよ。持ちつ持たれつってことで」
「アルシェリアには世話になりっぱなしだな。いつかまとめて恩は返す」
「期待して待ってるわ。もっと恩を売ってからでもいいけど」
「えー、そこは恩なんて思わなくていいわって言わないのかよ」
「ざんねーん。私そこまで性格良くありません」
「ぷっ」
「ふふっ」
私と夜蓮は思わず顔を見て笑みを溢す。彼の笑顔を見てどこか安心した私がいた。
「で、これからどうする?」
「そうね。一度学院に戻るのが得策かも。学院長にも聞きたい事があるし」
「学院長? まあ指示を仰ぐ必要があるか」
学院長についてはまだ確信が持てない。
夜蓮にはそれとなく伝えるだけでいい。
「これは私の偏見だけど、学院長の事あまり信用しない方がいいわ」
「? レオンハルトと似たような事言うんだな」
「レオンハルト先生も同じことを?」
「警戒だけはしておけみたいな事言ってた」
成程ね。これでレオンハルトの黒幕の可能性はほぼ消えた。
やはり学院長は何かを企んでいる。調べる必要がありそうね。
「こいつどうしたらいい? 連れて帰るべきだよな」
目の前に傷だらけで意識を失い倒れている男。
異形が恐らく首謀者だと言っていた男。
「ええ連れ帰るわ。拘束しましょ」
「OK」
私は拘束魔法白銀封鎖を使用する。
対象の四肢・魔力回路・因子の流れを白銀の光鎖で同時拘束する。
物理・魔法・転移すべてに干渉する為、相手は動くことを拒絶される。
最上級魔法の一種で私のオリジナル魔法。
「あ!? 忘れてた。神眼書の所有権俺に移ったんだった」
「え!? 詳しく教えてくれる?」
「詳しくも何も、カインが持ってた神眼書を奪ったら熱帯びて光り出して、それでこいつが神眼書を使えなくなって、取り乱して、別の人格にって感じ。理解できた?」
「まあOK。後で状況整理するわ」
正直この事態は異常すぎる。立て続けに襲撃が起こり、その襲撃の要因は彼、大凪夜蓮。複写展開と言い、神眼書と言い、おまけに異形が内に同居している。
思った以上に事態は複雑で、何より彼の正体が謎すぎる。まるで神の子──いや創造主のアンチテーゼとも呼ぶべき存在。
「ルーヴァやフィオナは無事だろうか」
「ルーヴァは無事。私と途中まで一緒だったから。フィオナは会ってないけど、死ぬようなタマではないでしょ」
「まあ確かにな」
拘束したカインを夜蓮が抱えて、一緒に学院へと戻ろうとする。
その時だった。
「がっ!」
「ぐっ!」
私と夜蓮二人して胸を押さえ座り込む。
何これ!? まるで覇気を当てられてるような。
息が苦しい。動けない。
「はあ、はあ。アルシェリア大丈夫か?」
「え、ええ何とかね。でも一体何が」
「上を見ろアルシェリア。何だあれ?」
「え? つっ──」
夜蓮に言われて私は上空を見上げる。
するとそこにいたのは、黒い鎧を身に纏った異形──いやそんな生温い者ではない。
言葉で形容できない程に異質だった。
「おいアルシェリア、あれには勝てない」
「ええ同感ね。私の直感もそう告げてるわ」
「動けるか?」
「無理かも」
「同感だ」
黒い鎧の外側に、漆黒と紫を混ぜたような悍ましい色の、目にみえるオーラを纏い立ち尽くしている。
この言葉で形容できない程の存在は、私達と共鳴し現れた。
その事実を知ったのは随分後になる。




