第21話 反応と消失
発煙筒が上空に打ち上げられ、ピンク色の煙がモクモクと宙を漂う。
「発煙筒!? 救援を呼んでいるのか」
だとするなら、致命傷を与えた可能性が高い。
問題は二人のうちどちらかだ。
それによって対策がまた変わってくる。
可能性がより高いのはカイン・ヴォルグラードの負傷だ。
何故なら恐らくあの男がリーダーだからだ。
それにあの男は、俺が見るからに部下を大切に思う輩ではない。
他人は使い捨ての駒と見ているはずだ。
「近距離は避けた方がいいな。あの女の能力で動けなくなる可能性がある」
先刻の攻撃で半壊した建物から、急ぎ降りて別な建物の屋上へと移動する。
雷魔法、雷紋スタティック・ステップを使用して移動時間のロスを限りなく無くす。
「複写展開」
「術式番号03、ルーヴァ式・光魔法……起動!」
「白域感知」
ぐっ、鋭い痛みが右腕に走る。肉体が徐々に悲鳴を上げているのがわかる。
だがそれでも──ここで決着をつける。
「殆ど動いてないな。やはり救援を待っている状態か」
ここからなら狙える。周囲に一般人はいない。
魔粒子もまだ取り込める。因子と共鳴もできる。
「雷穿スラスト・ボルト」
感知した相手の位置情報の直線上に立ち、掌を向ける。
出来る限り魔粒子を多く取り込み、威力を上げる。
掌に極細の雷光が一点に収束し、バチバチと派手に音を立てると、槍のように射出される。
高密度の雷槍が音速を超えて獲物に襲いかかる。
途中にある建物が抉れ焦げ、雷槍は勢いを止める事なく相手を貫く。
着弾点で爆弾のように高エネルギーが弾け飛び、大爆発を起こす。
「さーどうなったか」
雷紋スタティック・ステップを使用して、相手の下へと急接近する。
あの女の能力に気をつけながら。
「見つけた」
俺は雷紋スタティック・ステップの連続使用で、建物と建物の間を壁キックの反動で一気に移動する。
そしてカインの下へと降り立つ。
「よう、結構重症そうだな」
「はあ、はあ。つっ──大凪夜蓮」
カインの横にお仲間の女が口から血を流し倒れている。
腹部に俺の先刻の雷穿スラスト・ボルトが命中したようだ。
まだかろうじて息がある。
「もしかして、お前仲間を盾にしたのか?」
「だったらなんだ。所詮俺の駒でしかない。利用しただけだ」
「なるほど。人としてはゴミだと言うわけか」
俺の言葉に鋭く睨みを利かせるカイン。
この女を治療するべきか? 最も俺に治療手段はないんだが。
「その神眼書は全然役に立たない代物らしいな」
「黙れ──お前如きが、この本の何がわかる。穢す発言をすることは到底許されない」
「確かに何も知らないな。お前を殺した後にゆっくり知ることにするよ」
「貴様!」
俺がカイン・ヴォルグラードに向けて、雷魔法を使用する。
トドメを刺すために。
「じゃあな」
「つっ──待て、神眼書が何か知りたくはないか?」
「何?」
「どうだ。大凪夜蓮、俺と交渉しないか?」
俺は咄嗟に魔法の使用を取りやめる。
そして、同時に目の前の男から神眼書を取り上げた。
「お前、自分が何をしているか分かっているのか!! その手を離せ!」
「そんな大声出すと傷口開くぞ。そんなに大事な本なのか?」
「当然だ。その本は──!?」
俺が奪った神眼書が突如として熱を帯び光り出す。
それと同時に自身の体内に何かが刻まれるのを感じた。
「うわっ、何だこれ!?」
「ど、どう言うことだ!? な、何故お前が所持者に?」
「所持者? 何を言ってる」
今までとは違い、動揺を隠せないカイン。
無理やり体を動かしたのか、俺から本を奪い取る。
「あ、ああ、あっ。な、何故!? お前何をした!!」
「は? 何もしてねえよ。ただ奪っただけで」
「嘘をつくな! 何もしていないのに、何故俺じゃなくなってる……」
取り乱し始めるカイン・ヴォルグラード。
俺が手にした時とは違い、光らず、熱も帯びてない様子の本。
まるで静寂した様子だ。
「はあ、はあ。う、う、嘘だ。ああ、ああ、あり得ない。そんな筈はない」
息が思うように入っていかないのか、過呼吸になるカイン。
手にしていた本を地面に落とすと、両手で頭を抱えて震え始める。
何だこいつ、さっきまでとまるで違う。
神眼書って一体何なんだ?
「は、は、ああああああああっ──」
「お、おい」
いや、待てよ。俺が手にして光ったと言う事は、まさか──。
「俺に所有権が移ったのか?」
だとするなら、合点がいく。
こいつが神眼書に依存していたのは間違いない。選ばれた事実にアイデンティティを感じていてもおかしくはない。
それが消えた今、こいつが縋る物はもうない。
「あ、あが、うあ、はあっ、うあああああああああっ!!」
「!?」
俺は咄嗟に重傷を負った女を抱えて、建物の上へと避難する。
女を地面に置いて、下の様子を見る。
「何だあれは?」
カイン・ヴォルグラードの体内が漆黒の渦で包まれ、赤黒い光を放つ。
渦に呑まれた周囲の物質が塵として粉々になり、吸い込まれる。
「表に出るのは久しぶりだ」
「表!? 何を言ってる」
「教えてやろう。何故俺が十剣なのかをな」
その言葉と同時に俺の視界が回転し、揺れる。
その理由は顔面を思い切り蹴られたからだ。
「がはっ!」
「よく、受け身をとったな」
くっ、反応しきれなかった。
咄嗟に蹴られた後、何とか体全体で受け身を取れたが。
「お前まさか、二重人格なのか?」
「ほう。察しがいいな」
これは予想外だ。まさか二重人格が実在するとは。
だが、問題はそこじゃない。さっきまでとは比較できない程の強さだ。
戦って勝てるか?
複写展開をこれ以上多用するのも避けたい。
「何だ? 迷っているのか?」
「だったらどうだってんだ。見逃してくれるのかよ?」
「はっ、ないな。ここで死ね」
「チッ、だろうな」
どのみち俺の命が目的なら逃げる意味はない。
やるしかねえ。
例えこの命失おうと。抗ってやる。
「複写展開」
「術式番号01、アルシェリア式・光魔法……起動!」
「光槍」
「はっ、いいぜこいよ。決着の時だ」
俺とカイン・ヴォルグラードの最終決戦が始まる。




