第19話 圧倒
※ 発煙筒が上がる少し前
アルシェリアside
「あのエイドって男、再生するわ。頭部と顔面吹き飛ばしたけど、すぐ元通り」
「再生能力持ちか。それは厄介だな」
「コアがあるかも」
「なるほど、試してみよう」
私とルーヴァは小声でやり取りを交わす。
早急に決着をつけるために。
何せ悠長に戦ってる場合ではない。
狙いが夜蓮なら、他のお仲間は既にそっちへ向かってる筈。
「エイド、あの不快な男を殺しなさい」
「わかったよ。だから落ち着いてね。ミレイア怖い顔してる」
「無駄口叩かずさっさとやりなさい」
「う、うん」
エイドと呼ばれる気持ち悪い青年は、少し怯えながらミレイアに従う。
主従関係がはっきりしているようだ。
「白刃ノ律シルヴァ・レギュレート」
「!?」
空間を走る数本の白銀の線がエイドに襲い掛かる。
鉤爪で弾こうと試みるエイドに対して、ミレイアが叫ぶ。
「触れてはいけません! 避けなさい」
「?」
エイドは叫びを聞いて、咄嗟に回避する。
しかし、左耳に僅かに触れてしまう。
「成程理解した。どうやら君の再生能力には限界があるようだ」
「ううっ」
左耳が消失し、左手で呻き声を上げながら押さえ込んでいる。
真っ赤な血液が地面に勢いよく流れ落ちる。
「ちっ、やってくれましたね。まさか原子レベルにまで分解できるとは」
「流石に原子レベルまで分解すれば再生は無理なようだね。彼の明確な弱点だ」
「ふふっ、それはどうでしょうか」
「何!?」
ルーヴァは一度距離を取る。
エイドが左手を、損傷した左耳から取ると、完全に再生していた。
「あれは、どんな状態でも再生しますよ。例え原子レベルに分解されようと、関係ありません」
自信満々に薄ら笑いを浮かべるミレイア。
しかし、彼女の言葉には『仲間』ではなく『駒』としての意味しか宿っていない。
「彼女の言葉には嘘があるわ。気づいてる?」
「ああ気づいてる。僕の攻撃に対して焦りを見せていたからな。恐らくコアがどこかに存在しているんだろう」
「ええ、恐らくね。それに左耳の再生が頭部の時より若干だけど遅かった。再生速度にも限界がある筈」
「わかった。君は彼女の方を警戒していてくれ。あの男は僕が殺そう」
私はルーヴァの言葉に頷き、剣を構える。
ミレイアの眉が僅かに動く。
「いつまで隠し通すおつもりで?」
「その挑発には乗らないわ」
「あらそうですか。つまらない女ですね」
こいつの能力がわからない以上、油断はできない。
戦闘に加わらないという事は、攻撃手段がないのか?
試してみる価値はあるか。
「光槍」
圧倒的な密度で構成され、光の槍が私の手元に出来上がる。
その光槍を私から見て直線方向に撃ち出す。
音すらも置き去りにして。
「位置書換」
「!?」
撃ち出した次の瞬間、何故か直進方向に私がいた。
まずい、これは。
「へえ、それが貴方が隠していた実力の一片ですか」
「……」
私は自身の光槍をギリギリで回避する。
光槍が背後の建物を貫き破壊する。
そして同時に瞳の紋様が変化する。
「その瞳の紋様見たことがありませんね。貴方何者ですか?」
「死に行く者に語る意味はないでしょ」
「ちっ、凄く不快です。今日は本当にストレスが溜まる日ですね」
「死ねばストレスからも解放されるわよ」
私の言葉にイラつきを見せるミレイア。歯軋りをするのが確認できる。
しかしそんな事はどうでもいい。これを見られたからには殺すしかない。
場合によってはルーヴァの口封じも──いやそれは後回しだ。余計なことは考えるな。
「白域・断光」
「うがああああっ!」
「!?」
私はエイドの叫び声を聞いて驚き、振り向く。
私とミレイアが戦闘を繰り広げる一方、もう一方では戦闘とは到底呼べない出来事が起きていた。
「大丈夫か?」
「ええ、まあ何とか。そっちは終わったようね」
「ああ。空間ごとあの男を切断した。一部ではなく全てを原子レベルでバラバラにしたから、再生はできないだろう。それにコアは腹部にあるのを確認している」
「敵じゃなくて良かったわ」
白域・断光────恐らく指定、若しくは感知対象の存在座標を基軸にして、その空間ごと切断する技。
最早畏怖すら超えて感心すら覚える。
「で、君はどうする? 降参するかい?」
「ははっ、とんだ化け物ですね。神眼書には記載は無かったはずですが」
「神眼書? そうかあれを持った者が君たちの中にいるのか」
「だったら何ですか?」
「一つ忠告しておこう。神眼書は決して完璧ではない。それに縋るのは愚の骨頂だ」
「ああ、本当に不快です貴方みたいな男は。顔しか取り柄がない男は嫌われますよ」
「それはすまない。不快にする気はないんだ」
ルーヴァの天然じみた言葉がミレイアをかつてないほど激怒させる。
だがそんな事は私にとってどうでもいい。
こいつだけは始末しないと。
「ルーヴァ、悪いけどこの瞳を見られたからにはあの女は生かしておけない」
「それは僕も殺すということか?」
「そこまで非道じゃないわ。それに簡単に殺される男じゃないでしょ」
「確かにそれもそうだ」
はあ〜結構な天然。頼りになるけど疲れる。
「どうですか? 善良な一般人を見逃す気はありませんか?」
「それはできない。君たちの事情がどうあれ、やった事はれっきとした犯罪だ」
「そうですか、それは残念です」
ミレイアは床に謎の玉を投げつける。
その瞬間、その玉から真っ黒の煙幕が展開される。
「仕方がありません。一度撤退を──!?」
「残念だけど今の私に煙幕は意味ないわ」
「速いですね。ですが、位置書換」
ミレイアが私ではなくルーヴァと位置を入れ替える。
ルーヴァが私の横に現れる。
「では、私はこれで。次会った──!?」
ミレイアは急に言葉を詰まらせる。
冷や汗をかき、視線を私たちの方へと向ける。
「まさか、これは!?」
「ああ、白域拘束、別名【アルベド・チェイン】。捕縛魔法の一つさ」
「入れ替えを読んでいたんですか?」
「ああ。君は戦闘向きの魔法使いではないと見ていたからね。エイドという男が死んだ今、逃げに徹するしかない筈。必ず使ってくると睨んでいた」
「そうですか。では殺しますか?」
「いや、少し眠っていてもらう」
「がっっ────」
ルーヴァが拘束されたミレイアの腹部を軽く殴る。
衝撃で呻き声を漏らすと同時に彼女は気絶した。
「取り敢えず生かしておきたい。ダメかな?」
「はあ〜。どうせ私に権限ないでしょ。生かしてていいわよ。最悪こっちで対処するから」
「助かる。君の瞳については何も聞かないでおこう。誰かに言う事もしない。約束しよう」
「ありがとう、助かるわ」
取り敢えず一件落着、ではないけど難所は過ぎた。
このまま夜蓮の下へ急がないと。
「アルシェリア、上を見ろ」
「? 発煙筒?」
「何かの合図だろう。問題は誰が打ち上げたかだが」
あの発煙筒が上がった方角、学院から少し離れた場所ら辺。
煙の色がピンク色の発煙筒を学院では扱っていない。
つまりあれはこいつらの仲間。
「私が行くわ。ルーヴァは彼女の身柄を学院に」
「わかった。僕も置き次第、向かおう」
「ええ」
私はルーヴァと別れて発煙筒が上がった方角へと走り出す。
夜蓮、無事でいなさいよ。




