第16話 激戦
※学院が襲撃される30分前。
アルシェリアside
私は今王都アルヴェリアの北東区を訪れていた。
ある人物と連絡を取るために。
「もしもし、聞こえる?」
『聞こえてるよー。それで今日は何の用件?』
魔法道具の一つ、連絡魔水晶。
遠く離れた場所とのやり取りが可能であり、魔水晶には相手の顔を映し出す。
魔法使いにとっての優れた代物だ。
弱点は距離に限度があるのと、魔力消費量がそこそこあること。
「大凪夜蓮について調べて欲しいの」
『あーこないだ言ってた例の彼だっけ。調べてみてもいいけど、少し時間かかるよ』
「なるべく急いで」
『どうしたの? 随分焦ってるじゃん』
「悠長な事言ってられなくなった」
魔水晶に映った私の表情を見たのか、何かを察する。
『仕方ない、親友の頼みって事で頑張ってあげる。この借りは大きくて重いよ』
「OK。少し怖いけど私に出来ることなら何でもするわ」
『言ったなー。後で泣いても知らないよー』
そう笑いながら言って、連絡を切る彼女。
魔水晶を、腰に紐づけてある小柄なポーチに仕舞い込む。
「さてそろそろ────」
「きゃあああああああ、あ、た、助けて」
「!?」
私の言葉を遮るように、右前方数十メートルの場所から、女性の甲高い、切羽詰まった悲鳴が聞こえてくる。
急いで向かう。
「これは!?」
「あれ、君からいい匂いがする」
何、こいつ。気持ち悪い。
それより、この大量の死体、こいつが一人で。
「エイド、落ち着きなさい。それと無闇に人を殺すなと言っていますよね」
「えー? だってカインが神眼書に記されてることはやっていいって」
「あの男、余計な事を。まあ、それなら構いません」
「やったー。じゃあこの女の人も食べてもいい?」
「好きにしなさい」
こいつら一体? それに今、神眼書って。
あれは神が記す特別な書物。伝説の類じゃ?
「貴方達の目的は何? こんな事が許されると思ってるわけ?」
「許す、許さないではなく、必要か、不必要かのお話ですので」
「まあいいわ。つまり殲滅対象って事よね」
「貴方から見ればそうかもしれませんね」
即座に腰に帯同していた剣を鞘から抜く。
万が一の為持ってきていて正解だったわね。
「女の子と遊ぶの楽しい〜」
「外道が」
私に襲いかかってくる、エイドとかいう気持ち悪い男。
常に薄く笑みを浮かべた長身の青年だ。腰以上に真っ黒な髪が伸び続けており、清潔感がまるでない。
視線は常にブレブレで、口から涎を垂らしている。女性そのものに興味がるというよりは、恐怖や、痛み、匂いなどに反応している。
「ああ、いい匂いだー」
「気持ち悪い」
私の剣とエイドの鉤爪がぶつかり合い、火花を散らす。
思った以上に素早い。そして何より動きが読みづらい。
「一つ聞いても宜しいですか?」
「何? 自首する気になった?」
「残念ですが違います。オオナギヤレンという人を知っていますか?」
「!?」
思わぬ言葉に僅かに動揺を見せてしまった。
目の前の男はその童謡に気付いてはいない様子だが、もう一人の女性には気付かれた。
「今、僅かに動揺しましたね。エイド彼女を殺してはいけません。生捕りにしなさい」
「えー。何で? それじゃ僕喜べないよ?」
「カイン・ヴォルグラードの命令です」
「? そっかあ。わかった、それなら仕方ないね」
狙いは夜蓮で間違いない。だが目的は?
やはりあのユニークスキルか? どちらにせよ渡すわけにはいかない。
ここで二人を殺すしかない。
「目つきが変わりましたね」
「悪いけど貴方達には死んで貰うわ」
「貴方一人でですか?」
「ええ、一人で十分」
「随分と生意気な小娘ですね」
私が改めて剣を握り、構え直す。
その時だった──巨大な爆発音が魔導学院側から轟く。
「何!?」
「あー」
「あらこれは」
その場にいる三者が学院側の方角へ視線を向ける。
爆発? まさか他にも敵が?
あの二人か? いやそれ以外の可能性も。
「光槍」
圧倒的な密度で構成された光の槍が、音を置き去りにする速度でエイドへと飛んでいく。
エイドの頭部が光速によって貫かれる。
「残るは一人」
「それはどうでしょうか」
確かに貫いた頭部。ぐちゃぐちゃになって崩れ落ちた顔面。
しかし、目の前のこの男は気持ち悪い声で呟きながら、息を吹き返す。
「痛いなー。酷いなー。速いなー」
こいつまさか。
仕組みはわからないが、尋常じゃない速さで再生する頭部と顔面。
「化け物が」
「それはお互い様でしょう」
「何が言いたい?」
「うまく、隠してるつもりですが、滲み出てますよ」
私の目つきが鋭くなる。
「化け物なのに、実力を隠して行う生徒ごっこはどうですか?」
「何を勘違いしているのか知らないけど、言ってる意味がわからないわ」
「その手の甲にある紋様はアルヴェリア王立魔導学院の生徒である証ですよね」
「ええ、それが何か?」
少し冷静さが欠けているのが自分でも分かる。
取り乱すな。相手の思う壺になる。
「ねえ、ミレイア。そろそろ殺してもいい?」
「はあ〜、馬鹿ですか? さっき生捕りにしろと言いましたよね」
「あれそうだっけ?」
「頭鶏ですか? そんなのでよく人間やれてますね」
「それ、悪口? 酷い。でも嬉しい」
悍ましいやり取りを繰り広げている。
全く何でこんな頭のおかしい連中と出くわしたのか。
私の運勢悪すぎでしょ。
「じゃあ、いじめるだけにするね」
そうエイドが気持ち悪い声で、真顔で言う。
そして私に向かって飛んで襲いかかってくる。
「それは感心しないな」
「がはっ、誰だ?」
私の前に一人の少年が現れる。
エイドを軽く蹴り飛ばす。
「ルーヴァ!? 何で?」
「偶然通りかかってね。それよりこの人達は敵という認識で合ってるかな?」
「ええ、殺していいそうよ」
「それは助かるね」
ラッキー。私の運はどうやら豪運だったようで。
実力を隠し通せそうで何よりね。
「また目障りな方が増えましたね」
「あの爆破も君たちが関わっているのか?」
「だとするならどうなのでしょうか?」
「これはれっきとしたテロ行為だ。その意味がわかっているのか?」
ミレイアと呼ばれる修道服を身に纏う女性は、不快そうにルーヴァを見る。
「私、貴方みたいな人間を見ると凄く、凄く不快になります」
「それは一度落ち着くべきだ。君の心が乱れている証拠だ」
「ちっ」
ミレイアは大きく舌打ちをする。その舌打ちに怯えるエイド。
「エイド、一人を生捕りにすれば問題ありません。この不快な男をさっさと殺しなさい」
「わ、わかった。だから落ち着いてミレイア」
あー本当に面倒くさい展開。
夜蓮の方は無事だといいけど。




