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『隠しクエスト突破で本物の異世界へ──複製スキル〈フォージ・コード〉が世界の法則を上書きする』  作者: 風白春音


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第15話 新たな敵

 俺は寮生活をしている。一般寮、月影寮に。

 

 月影寮──学院敷地の北側、少し奥まった林の縁に建てられている。

 白銀寮のような威厳も、紅蓮寮のような豪奢さもないが、どこか落ち着いた空気を纏っている。

 建物は三階建てで、外壁は薄い灰色の石材。

 夜になると、壁に刻まれた簡素な魔法紋が月明かりを受けてほのかに光り、寮全体が静かに浮かび上がるように見える。


 中に入ると共用ホールがあり、木製の椅子や長机、ソファなどが完備されている。

 壁際には掲示板や簡易な魔道具が置かれており、必要な連絡事項はそこに記入される。


 寮部屋は基本的に男女別々の4人部屋。

 簡素なベッド、最低限の収納棚と決して豪華ではない仕様だ。

 しかし別段困る事はない。

 窓を開ければ学院の敷地と夜空が綺麗に見える。

 黄昏るにはもってこいの場所だ。


 月影寮は、比較的特別な家柄も才能も持たない者が多く集まる場所だ。


 そして俺はここの生活に少しずつ慣れ始めていた。


 「おい、オオナギヤレン。事件があったって本当か?」

 「は?」

 「は? じゃない。数日前に学院が襲撃されたと聞いたぞ」

 「ああ、一応本当だ。で、それが何だ?」

 「どうだった。強かったのか?」


 朝からしつこく話しかけてくるこいつの名前は ロイグ・フェルナート。

 同室の生徒だ。馴れ馴れしい。


 「ああ、やばいくらいめっちゃ強かった」

 「本当か? 是非とも戦ってみたい相手だ」

 「すぐ死ぬぞ」

 「いや俺は強い。死ぬ事はないだろう」


 どこから来るんだ、その自信は。

 ポジティブすぎて羨ましいぜ。


 「悪いけど、用事があるから、また今度な」

 「用事とは何だ? 今日は休日だぞ」

 「何でもいいだろ」

 「あっ、おい──」


 朝からうるさっ。

 俺は部屋を出て、共用ホールへと降りてくる。

 

 「あれ? 誰もいねえ」


 珍しいな。いつもは必ず1人はいるのに。

 まっ、いいか。支度して、朝食済まして行くか。


 ────


 俺は休日の朝から王都アルヴェリアの街をブラブラと探索していた。

 ある情報が欲しくて。


 「図書館ってこっちだったっけ」


 ある情報とは神域について。

 神選者の証が刻まれている場所がどうしても気になった。


 「紙の地図、わかりにく」


 地球にいた頃は、もっぱら電子ナビだ。

 紙の地図など、ほとんど使用したことがなかった。

 その為持ち出した紙の地図を読むのに苦戦していた。


 まあいうて、引きこもってたから電子すら使ってないんだが。


 少し開けた街角で紙の地図を広げ、眺める。

 そこで俺はある疑問が浮かぶ。


 何で文字が読み書きできるんだと。

 考えてみれば不思議である。知らない異世界に落とされ、文字の勉強も最初はしていない。それでも言葉の意味は理解でき、話すこともできた。

 まるで、この世界が母世界であるようなスムーズさ。


 「何か困り事ですか?」

 「うわっ!?」


 即座に、警戒、反応し後方へ後ずさる俺。

 そんな俺をみて慌てふためく一人の少女。


 「ご、ごめんなさい。驚かす気は全くなく」

 「あ、いやこっちこそごめん。考え事してて、気づかなかった」

 

 歳の頃は15、16前後か。

 亜麻色の髪を肩口で揃え、その下の旅装束は簡素だが、無駄が一切ない。

 所作からして街慣れしているのがわかる。


 「い、いえこちらこそすみません。何か困っているのかなと見受けたんで」

 「図書館の場所を探しててさ」

 

 純粋な深翠の瞳は見たものを吸い込みそうになる程美しい。


 「だったら案内しますよ」

 「いいのか? 見ず知らずの人間なのに」

 「はい。助け合いは大事だと思うんです」

 「じゃあお言葉に甘えて」


 凄い、いい子だな。

 アルシェリアといい、この世界にも当たり前だが善人は少なからずいるようだ。


 「俺の名前は大凪夜蓮。短い間だけど宜しくな」

 「はい宜しくです。私の名前はセレナ・ノクティルーア。セレナでいいですよ」

 「いい名前だな」

 「え、へへそうですか。褒めるの上手ですね」


 不思議な少女だ。心が落ち着く。


 「ところで図書館には何をしに? あっ、言いたくないなら言わなくていいですからね」

 「いや隠すことではないからいいよ。神域について知りたくて」

 

 神域という言葉に反応するセレナ。

 瞳が少しだけ揺れ動いた気がした。


 「神域ですか。もし、場所を知りたいというなら図書館では残念ながら」

 「やっぱりダメか」

 「でも知れる可能性はあるには、あります」


 人通りが少ない、建物の影の中に置かれた木箱にちょこんと座るセレナ。

 簡素な旅装束の下が少しだけ見えそうになり、思わず目を逸らす。


 「神域は秘匿された場所なんで、基本一般公開されてないんです」

 「ああ、それは知ってる。それでも図書館に行けば何かわかるかと思ったんだが……」

 「残念ですが。しかし裏の情報を持つ者たちなら恐らく知っています」

 「裏の者?」


 思わず声が上擦り、大きくなる。

 セレナはほんのり色づいた桜色の唇に細白い人差し指を当てて「しーっ」とジェスチャーする。


 「情報屋と呼ばれる人たちですね。情報の売買を生業にしてる者の事です」


 情報屋か。確かにいてもおかしくはなさそうだが。


 「具体的に聞きたい。どうやって会える? 相場は?」

 「相場は残念ながら分かりません。しかし会う方法なら幾つか」

 「聞かせてくれないか」

 

 俺は真剣な表情で、セレナを見つめる。

 セレナは俺の真剣さを汲み取ったのかニコッと可愛らしく笑う。


 「勿論です。お代も結構です」

 「いや、そんなわけには」

 「いいんです。持ちつ持たれつです」

 「じゃあ、お言葉に甘えて」


 俺の両手を、両手で握り返してくる。

 思わずドキッとした。


 「あっ、ついすみません」

 「あっ、いや問題ない」


 少しの間両者恥ずかしそうに顔を逸らす。

 そして数秒の後、セレナが切り出した。


 「恐らく闇市にいるかと」

 「闇市!?」

 「はい。普通じゃ買えないような物が売ってる場所の事です」

 「それはどこにあるんだ?」

 「地下です」


 セレナが真下に指を指し示す。


 「地下があるのか?」

 「はい。しかし表立っては伝わってません。くれぐれも内密に」


 地下は盲点だった。発想すら無かった。

 しかし、あっても不思議ではないか。

 何せここは異世界だしな。


 「わかった。行き方を教えてくれ」

 「案内します。ついて来てください」

 「いや、危ないだろ。道さえ教えてくれれば」

 「いえ、そう単純ではなくて」


 セレナが今までに見せたことない、真剣な表情で言葉を紡ぐ。

 木箱から降りて、旅装束をパンパンと両手で払う。


 「じゃあ、いきましょうか」

 「あ、ああ」


 何故そんな詳しく知ってるんだ。

 その言葉が喉から出かかったが、すんでのところで飲み込んだ。

 きっとその言葉は今の関係を崩壊させる。

 そう直感が告げていた。


 「なあ最後にいいか?」

 「はい、何ですか?」

 「くれぐれも危────」


 俺の言葉を遮るように、学院の方角からとんでもない爆発音が轟く。


 「何だ、今の音!?」

 「ヤレンさんあれを見てください」

 「!?」


 アルヴェリア王立魔導学院がある場所ら辺から、濃い黒煙がモクモクと上空へ向かって立ち昇る。

 周囲が一気に騒がしくなる。


 「悪いセレナ。地下は後だ」

 「は、はい。しかしどうするおつもりですか」

 「分からないけど放って置けないだろ」


 俺はセレナを置いて急いで学院へと戻る。

 

 「くそ、一体何が起きてんだ!」


 新たな火種がこの街で爆発する。

 俺という存在を中心にして。


 ────


 エリス・アポクリファside


 「本当に学院にいるんだろうなあ?」

 「そう記されてる」

 「まーたそのくっだらねえ本の言いなりかよ」

 「口を慎め。この本の冒涜は万死に値する」

 「ちっ、わーったよ。すみませんでしたあ」


 私の名前はエリス・アポクリファ。

 誰よりも可愛くて、美しくて、強くて、聡明で、どうしようもない程才に溢れた存在だ。

 そんな私は今、ある男の命を狙っている。

 そう大凪夜蓮というガキだ。


 「めっちゃ騒ぎになってるじゃねえか。いいのかよ?」

 「ああこれでいい。計画は順調だ」

 「そうかよ。じゃあ始めんぜ」


 いつ見てもつまんねー男。

 よくわかんねー神眼書とかいう本に取り憑かれた哀れな奴。

 でも、今はこいつの存在が私に必要だ。


 こいつの名はカイン・ヴォルグラード。

 私の家族を殺した奴。

 そして、十剣の一人でもある。


 「大凪夜蓮、てめえに恨みはねえが死んで貰うぜ」


 私は豪快に笑いながら、再び学院に向けて攻撃を放つ。


 開戦と行こうぜ。


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