第12話 覚醒
俺たち生徒が謎の侵入者である青年に、圧倒され危機的状況を迎えた時、教師であるレオンハルト・クロイツがどこからともなく現れた。
「悪いが、今はあんたに用はない。邪魔をしないでくれないか」
「人の職域に足を踏み込み、勝手を言うのは少し傲慢すぎやしないだろうか」
「ふっ、成程一理ある。だが少し客観的すぎるがな」
青年はレオンハルト・クロイツの方を見て、人差し指と中指の二本をくっつけ下におろすジェスチャーをした。
その瞬間、空間が歪みレオンハルトの体が沈み込む。
「少し大人しくしていてもらおうか教師風情よ」
レオンハルトの姿を見て、俺は顔を歪ませる。
偉そうに出てきて何してやがる。
教師だろうが。
「オオナギヤレン。君は最初から教師に頼るのか?」
「!?」
青年が再びレオンハルトの方向を見やる。
すると、そこには先ほどとは打って変わり、平然と立ち尽くす教師の姿が見える。
「よく立ち上がれたな。俺の能力を無効化したのか?」
「無効化するまでもない。筋トレの方がまだ負荷がかかると言うものだ」
「成程、随分と口が悪いようだ」
地面を蹴り、レオンハルトへと急接近する青年。
青年の右足蹴りがレオンハルトの頭部を狙う。
レオンハルトはそれを右手の甲で受け止める。
「やるな」
青年は続け様に今度は左足の蹴りでレオンハルトの左頭部を狙う。
レオンハルトは再び難なく、左手の甲でそれを受け止める。
そして逆に受け止めた左足を掴み、青年の体全体を地面に叩きつける。
「ギリギリで逃れたか」
「流石に強いな」
レオンハルトから逃れた青年は数メートル距離を取る。
お互い不用意には近づかない。
強者の戦い方だ。
「──術式を確認。
構造、干渉、因子固定。
……断律」
その瞬間、俺の体がスッと嘘のように軽くなる。
すぐさま俺は起き上がる。
少し離れた場所で俺と同じく、地面にひれ伏していたアルシェリアもスッと起き上がる。
「俺の能力を分解したのか!? この短時間で」
「どんな魔法も能力も基本の構造は同じであることが多い。知識と経験さえあれば容易だ」
「その様子じゃ、衰えてはいないようだな」
青年は嬉しそうに微笑む。一方のレオンハルトは真顔だ。
「おい、オオナギヤレン。何を掴んだ?」
「は!?」
「何かを掴み取ったはずだ。見せてみろ」
レオンハルトが真顔で俺に言い放つ。
何を言ってやがるこいつは?
確かに先刻の二人による魔力の衝突の時、俺の中で何かが弾ける感覚があった。
だが具体的には何が弾けたかは自覚できない。
何を掴んだんだ俺は?
「お前のユニークスキル、まさか魔法だけを複製するとでも思っているのか?」
「違うのか?」
「お前は自覚したはずだ。先程の私とあの青年の魔力の衝突の際に」
「そうか」
俺の言葉を聞いて、レオンハルトは微かに口元を上げた気がした。
「これ以上時間を無駄にする気はない」
そう述べると、青年は宙に浮き始め、自身の頭上に赤黒い高密度の巨大な球体を創り出す。
「さあどうする、レオンハルト・クロイツ」
青年の問いにレオンハルトは答えない。
横目で俺を見る。
「オオナギヤレン」
「分かってる」
俺は一度大きく深呼吸をする。
「仕方ない。少し破壊させてもらう」
青年が赤黒い高密度の巨大な球体を学院に向かって投げる。
この球体に周囲の物質が吸い寄せられ、物質は形を奪われ球体に取り込まれる。
「理解した。
魔法だけでは意味がない。
魔粒子だけでは圧倒的に足りない。
因子そのものを――複製すればいい」
「複写展開
対象:魔粒子構造、魔法因子……
制限解除。完全同期」
「複写展開」
「対象ユニークスキル:反重力干渉……解析完了」
「魔粒子・因子・重力定義、完全再現」
「虚重反転球 ──起動」
俺の数秒によって生み出された反重力の球体が、青年が放った重力球と衝突し、対消滅する。
その際に生み出された衝撃によって大きく後方に吹っ飛ばされる。
「っつ、いてて。まだ未完成か」
衝撃的な出来事により、その場の空気が異質となる。
「ははははっ。これがお前の能力。素晴らしい。まさに神の所業。流石選──」
「十分良いものが見れました。今日はこれ以上は望むべきではないですよ、ノクス・ヴァルディオン」
その瞬間、どこからともなく一人の幼き少女が姿を表す。
ノクスと呼ばれる青年の声は掻き消され、静寂だけが場に残る。
「あなた一体!?」
「アルシェリア・ルミナリア。申し訳ありませんが、今はその質問には答えられないのです。フィオナ・ラクス。貴方に対しても同様です」
フィオナは考えを読まれて、不快な表情をする。
その場にいる彼女以外の誰もが動くことができない。
それほどこの少女は異質だった。
「申し訳ありませんが、今日の所は撤退させて頂きます。この度は私の部下が大変失礼致しました」
そう言った後、ゆっくりと少女は俺の方へと近づいてくる。
息が止まる、苦しい。
怖い、いやそんな言葉で説明できる感情ではない。
「そんな思い詰めた表情をしなくても大丈夫ですよ。今日はヤレン、貴方に挨拶を伺いにきただけなんですから」
「はあ、はあ。お前、一体?」
「申し訳ありません。先程申しましたとおり、今は名乗る事はできないのです。またいずれお会い出来ますので、その日まで健やかに」
レオンハルトが息を呑み、喉を鳴らす。
そして僅かに指が動く。
「レオンハルト・クロイツ。その先の行動はあまりお勧めできませんよ」
「助言感謝しよう。しかし、どうしても一つだけ聞かせて貰いたい」
「仕方ありません。特別ですよ」
「貴様は神選者か?」
「残念ながら違います。ですがその名をよくご存知で」
少女は今度は一瞬で、元のいた位置に戻る。
「丁度いいタイミングですね。ノクス・ヴァルディオン帰りますよ」
「ああ、了解した」
二人が消えたタイミングで高度数千メートルから勢いよく落下して地面に着地するルーヴァ。
あの高さで無傷かよ。
すげえな、全く。
「すまない、知らない場所まで飛ばされていた。戻るのに手間が掛かってね」
「いや問題ない。それより無事で良かった」
「あの侵入者はどこへ消えた?」
「変な少女と帰ったよ」
「そうか」
空気を読んだのか、詳しい事情をすぐには聞いてこなかった。
俺は緊張の糸が切れたのか、立っていられなくなる。
思わずその場に座り込んだ。
「はあ、はあ。つっ」
「オオナギヤレン。どうやらそのスキルは負担が大きいようだ。多用は身を滅ぼすぞ」
「あんたが、それを言える立場かよ。使わせやがって」
「確かにそれもそうだ。すまない」
レオンハルト・クロイツは、
「実習はこれで終了だ。単位は習得される」
そう一言言い残し学院内へと消えていく。
「大丈夫? 相当負担大きそうだったけど」
「どうだろうな。咄嗟のあまりデメリットの事考えてなかったからな」
「まあお陰で助かったけど。ありがとう」
「全員無事で取り敢えず良かった」
まさかの実習訓練が、こんな形に変貌するとはな。
レオンハルトもノクスも俺より遥かに強い。まだ全然本気ではないだろう。
そしてあの少女。名前は分からないが次元が違う。
正直いつでも俺を殺すことは出来た。
くそ、俺は弱い。正直どこかこの世界を甘く見ていた。
何とでもなると、心のどこかで思っていた。
だが今日、その幻想は脆くも崩れ去った。
「ルーヴァは見てへんやろうけど、ヤレン君の魔法凄かったわ。あの巨大な球体消滅させるんやからね。ほんま助かったわ、ありがとね」
「ほう、そんな凄かったのか。僕も是非見てみたかったよ」
「ほんま凄かったんやで。ヤレン君いなかったら学院消し飛んでたんやから」
「そうか。君は僕らの救世主だな」
いやそんなわけ無いだろ。
レオンハルト・クロイツならきっと何とか出来ていた。
敢えて俺に任せただけだ。
「どうしたアルシェリア?」
「え!?」
「いやぼーっとして。まさか怪我でもしてるのか?」
「あー大丈夫大丈夫。ちょっとぼーっとしてただけ」
「ならいいが」
戦闘が終わった後、アルシェリアの様子が少しおかしい。
とても心配だが、今は深く聞いてはいけない気がした。
「取り敢えず学院に戻りましょ」
「そうだな」
「そうだね」
「せやね」
俺たちは何とか無事ハプニングを乗り越え、生存できた。
だがこれは嵐の前の静けさに過ぎない。
世界はそれぞれの思惑を乗せて動き出そうとしていた。
次回から新章突入です。お楽しみに!




