第10話 実習訓練開始
入学式から一夜が明けた。
アルヴェリア王立魔導学院では、入学式の翌日から容赦なく授業が始まる。
新入生限定講義が幾つかの教師の下で行われる。
俺はアルヴェリア王立魔導学院最強とも謳われる講師、レオンハルト・クロイツの下で学ぶことにした。
「ふぁあっ」
「何寝れなかったの?」
「環境変わって初日だからな」
「ヤレンって結構繊細よね」
他愛もない会話を一番奥の席でアルシェリアと話す。
そこに一人の少女が割り込んできた。
「受験以来にゃ〜。よろしくにゃ〜」
「あ!?」
俺の右隣に遠慮なく座った少女は、実技試験で戦った猫耳少女だった。
今日も、フードの隙間から見せる猫耳がぴょんぴょんと跳ねている。
宝石エメラルドのような緑色の綺麗な瞳がこちらを覗いてくる度吸い込まれそうになる。
「お前も合格してたのか」
「まあ、何とかにゃりましたにゃ〜」
「ところで、名前なんだっけ?」
「…………はっ!?」
名乗るのを忘れていたと言わんばかりの表情で固まった。
ぴょんぴょんと可愛らしく動いていた猫耳も直立不動している。
「いやはやお恥ずかしいにゃ〜。すっかり名乗るの忘れてたにゃ〜」
再び動き出した表情と猫耳。どうやら驚くと静止するようだ。
「私の名前はミルファ・カーニャ。今後ともよろしくにゃ〜」
「俺は大凪夜蓮だ。よろしくな」
「変わった名前にゃ〜」
ミルファ・カーニャとアルシェリアの目が合う。
だがお互い言葉を交わすことはなかった。
(仲が悪いのか?)
少し気まずくなった空気が俺たちの周囲に漂う。
その時、講義室の扉がゆっくりと開いた。
「静粛に」
その一斉で講義室全体が無音に包まれる。
空気が一変した。
演壇に立ち、授業用の分厚い本を講卓に置く。
「私が今日この講義を担当するレオンハルト・クロイツだ」
少し低く、しかしよく通る声。
新入生たちの間に、ざわりと緊張が走る。
「新入生だからと言って気を抜くなよ。私の講義は厳しい」
レオンハルトが本を開き、黒板に文字を書いていく。
今日の講義は基礎理論I(新入生限定)。
主に魔粒子について学ぶ。
「どう、理解できてる?」
「何となく。目に見えないけど存在する物だろ」
「OK。簡潔に纏めてるわね」
魔粒子──それは目に見えない極小の物質だ。地球で言う素粒子みたいな物だろう、多分。
不思議なのは脳内で体内に取り入れるイメージをすると、体内の器官に刻まれた魔法因子が共鳴する点だ。
「で──」
レオンハルトの少し低い声が、大きな鐘の音に掻き消される。
「もうこんな時間か。今日の講義はここまでとする。各自しっかり復習しておくように」
レオンハルト・クロイツの周囲に多くの女子生徒が群がる。
その群がる彼女らの表情は、恍惚の様である。
レオンハルト・クロイツは中性的な容姿で、色白の肌、紅蓮の瞳も相まって同性、異性問わず人気がある。
だが俺から見て彼は、教師という肩書きが似合わない男だった。
何せ髪は鉄色を帯びた黒色と、鈍い金色の二色。戦場でも邪魔にならない実用性重視の長さ。
紅蓮の瞳に反し、感情をほとんど表に出さない。
だが視線を向けられると畏怖の念を感じ、背筋が凍る。
身に纏うのは学院教師用の外套──だが、
その下に見える装束は明らかに戦闘仕様で、
布地の一部には実戦用の魔導補強が施されているのが分かる。
──この男は、
「教えるために強い」のではなく、「強すぎた結果、教壇に立っている」
そういう存在だ。
少なくとも俺の第一印象はこうである。
「忘れていた。次の私の講義は座学ではなく実習だ。興味があるなら受けにくるといい」
レオンハルトはそう言い残し、講義室を出ていく。
群がっていた女子生徒はまだざわついていた。
「実習だってにゃ〜。面白そうにゃ〜」
そう言いながら手をブンブン振って、講義室を出ていくミルファ。
「うー終わったあ」
「お疲れ。どうだった初授業は?」
「難しいけど、新鮮で結構楽しいよ」
「そっ、なら良かった」
I限目が終了して、講義室から生徒が消えていく。
俺たちもその後に続いた。
「次、このままレオンハルト先生の実習受ける感じ?」
「俺は受けようと思ってるが」
「じゃあ私も受けようかな。必修科目だし」
15分の休憩を挟んだ後、再びレオンハルト・クロイツの授業を受ける。今度は実習という形で。
「これから4人1組となって、学院内に放たれる聖獣を捕獲してもらう。この実習の目的は、君たち新入生の基礎力を図るためでもある」
「レオンハルト先生、質問いいですか?」
「構わない。続けろ」
「必修科目ですが、この実習に参加した全員に単位は貰えるんですか?」
一人の生徒の質問が、演習場全体に緊張を走らせる。
「いい質問だ。結論から述べよう。全員には単位は与えない」
「な!?」
思わず声が漏れた。だがそれは俺だけには限らない。
何となくは理解していたが、厳しさの現実を突きつけられた気分だ。
「到達基準型とする。私から見て一定の水準に満たした者にのみ単位を付与する」
レオンハルトの言葉で生徒たちの顔つきが変わる。
先刻までの緩んだ空気は、緊張へと姿を変貌させる。
「これ以上質問がなければ始めるぞ。先ずは4人1組を作れ。余った場合は5人1組でもいい」
まじかよ。あまりこういうグループ作り得意じゃねえんだが。
俺は横に座ってるアルシェリアに目で助けを求める。
アルシェリアはそれに気付き、思わず口元を崩す。
「いいわよ。一緒に組みましょう」
「まじで助かる。何から何まで」
「別に気にしなくていいわよ。それよりあと二人」
俺は偶然右斜め前に座っていたルーヴァと目が合う。
何かを察したルーヴァはこちらへ近づいてくる。
「僕でよければ協力しよう」
「まじで助かる」
「あと一人は横の彼女でいいだろう」
ルーヴァの横に座っていたのは、関西弁のような独特な喋りで話す少女フィオナだった。
「なに、うちを仲間に入れてくれるん?」
「是非協力を頼みたいところだ。どうかなヤレン?」
俺は軽く頷く。
「ああ、顔見知りがいると気が楽で助かる」
「ほんま、人たらしやねー」
「いや違うから」
「そんな照れんでええよー」
相変わらず不思議な女だ。
独特なオーラを纏っている。底知れぬ何かを感じる。
「組み終わったようだな。では、これより聖獣を4匹学院内に放つ。制限時間は70分だ。捕獲したら俺の元へと還る仕組みになっている。学院内は結界を張っているから好きに攻撃して構わない。が、敷地の外への攻撃は一切禁止だ。ルール違反は問答無用で落単させる」
レオンハルトが聞き取れない程度の小声で詠唱をすると、自身の足元に複雑な魔法陣が展開する。
その魔法陣から5匹の聖獣と呼ばれるモンスターが召喚され、学院内へと散らばっていく。
「では始め」
その合図と共に演習場に集まった生徒たちが慌ただしく行動し始める。
「ほんで、どうやって捕まえようか?」
「聖獣には特徴的な魔力が流れている。場所を特定するのは容易だ」
「流石やねえ。後の問題は捕獲方法やね」
「それならヤレンが適任だよ」
え!? 俺?
何故? ルーヴァの方が適任だろ。めっちゃ優秀じゃん。
「俺に何を期待してるんだ?」
「君の雷魔法の1つに移動速度を上げる魔法があっただろ」
「自身の移動速度しか上げられないぞ」
「十分さ。君がメインで僕たちはサポートだからね」
ルーヴァが勝手に話を進める。
こいつ実技試験の時から思ったけど、俺を買い被りすぎてないか。
俺に何を期待してるんだ。
「うちはかまへんよ。攻撃はそない得意やないからね」
「私も異議はないわ。ヤレンが適任だと思う」
「だそうだが?」
3人の表情と意見を聞いて、大きくため息をつく。
「わかったよ。どうなっても知らないからな」
作戦会議が終わった俺たちは、演習場を後にして聖獣捕獲に挑む。
だが俺はこの実習を甘く見ていた。
まさかあんな大事件が起きるとは。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
入学式を終えて、いよいよ学院生活スタートです。
今回は実習前の準備回ですが、次話から一気に動きます。
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マイペース更新ですが、よろしくお願いします!




