第9話 入学式
魔導学院編スタートです。
アルヴェリア王立魔導学院の試験に、無事合格した俺とアルシェリア。
入学式当日を迎えた朝は忙しない。
「あと、忘れ物ないかな?」
「大丈夫。仮に忘れても何とかなるから」
「まあ、それもそうか」
「はい緊張終わり」
アルシェリアが俺の頬を軽くパチンと叩く。
痛みは全くなく、緊張だけが弾けた感覚だ。
「OK?」
「OKだ」
「よろしい」
緊張がほぐれる。肩が軽い。
心臓の鼓動が緩やかになり、落ち着きを取り戻した。
「じゃあ行きましょう」
「ああ」
荷物を全て纏めて、お世話になった宿を出た。
魔導学院までゆっくりと二人歩いていく。
それくらいゆとりを持って宿を出た。
「そういや俺よく合格できたよな」
試験結果の詳細を見た時、驚いたことが二つ。
一つは筆記試験が半分以下だったこと。
もう一つは実技試験がほぼ満点だったこと。
「ユニークスキル持ちを落とすような事は、まともな頭脳の持ち主ならしないわ。それほど貴重なのよ。特にヤレンの複製はね」
「そんなに貴重なのか?」
「少なくとも魔導学院でも片手で数える程しか居ないはずよ」
「そんなに?」
貴重な事は聞いていたが、まさかそこまでとは。
やっぱり安易に見せるべきではなかったのか?
「まあ、今更隠し通すのは無理だから堂々としてなさい」
「はーい先生」
「誰が先生よ。頬つねるわよ」
「冗談だって」
仲良く他愛の無い会話を続け、気づけば魔導学院に到着していた。
「もう一度ここに来れるとはな」
「退学しないように気をつけなさい」
「え? そんな厳しいの?」
「さあどうでしょう」
アルシェリアが俺を揶揄いそれを見て心底楽しそうにしている。
ここまで来て退学になってたまるか。
学院側で用意された仮上靴、仮制服を着用し、案内された講義室に向かう。
階段上に並ぶ長机と席が、既に新入生で埋まりつつあった。
「おい、例の受験生だ」
「やっぱり合格してたのね」
「ユニークスキル持ちなんだから当然でしょ」
「どこの家系だ?」
講義室に足を踏み入れた瞬間から、鋭い視線と微妙に聞き取れる程度の声量の会話が聞こえてくる。
気にするな。大丈夫だ。
指定された席に座り、軽く深呼吸をする。
「何、君緊張してるん?」
「え? まあ、少し」
「そんなに緊張せんくても大丈夫よ。物珍しがってるだけだから」
横の席に座ってる少女が、砕けた口調で話しかけてくる。
不思議と聴き心地がいい声で不安が消える。
「えっと……」
「あっ、名乗るの忘れとったわ。うちはフィオナ・ラクス。よろしゅうな」
「ああ。俺は大凪夜蓮。宜しく」
まさか入学初日でこんなにアルシェリア以外と会話できるとは思っていなかった。
思ったよりいい人が多いのかもしれない。
「では先ずは皆様この度は合格おめてごうございます。これより、大広間にて入学式を行います。では指示に従って移動してください」
教師の指示に従い、講義室を出て大広間へと案内される。
アルシェリアと目が合い、少し微笑んだ。
それに反応した彼女はウインクしてくる。
「何? 仲良いのルミナリアのお嬢ちゃんと」
「え? まあ」
「ふーん。人たらしやねえ、ヤレン君は」
「は? 何言って」
「何でもないよ」
何なんだこいつ。
人たらしって、別にそんなんじゃ。
アルヴェリア王立魔導学院の大広間は、想像していた以上に広大だった。
天井は見上げるほど高く、幾重にも重なる白銀の梁と魔法紋が、静かに淡い光を放っている。
それは照明というより、空間そのものが蠢き呼吸しているような不思議な明るさだった。
段状に用意された座席には、新入生たちが整然と並んで座っている。
年齢も出身も、身に纏う雰囲気すら違う、合格者約2500人が一気に一堂に会する。
だが不思議と場の空気は纏まっていた。
「また隣やね。よろしくやね」
「フィオナさんは緊張してないのか?」
「同じ新入生やしさんはいらんよ。緊張はあまりしてへんね」
「凄いな。俺はやっぱり緊張するよ」
「凄かないよ。こういうのはね、慣れなんよ」
そんな会話を続けていると、やがて大広間の奥から、一段高く設えられた演壇の前に、白と蒼を基調とした長衣を纏った一人の老人が、ゆっくりと姿を現した。
「新入生諸君」
その第一声で生徒の注意が一斉に前へ向く。
決して大きくはない声、しかし不思議と大広間の隅々まで染み渡るように届く。
「アルヴェリア王立魔導学院への入学を許可されたことを、まず祝おう」
たった一言発しただけで格が違うとわからされる。
決して威圧しているわけでもないのに。
「そしてこれだけは君達に伝えておかなければならない」
場の空気がさらに引き締まる。
「ここは決して安全な学舎ではない。自主性を忘れたものから脱落する場所と」
その言葉が俺には衝撃的だった。
不安が増大する一方、好奇心が刺激され胸がドキドキする。
その後も学院長の長い演説が続き、学院の理念などを語られる。
「魔法とは力だ。 だが同時に、責任でもある」など小難しい事を言っていた。
「では最後に諸君らは、選ばれた。だが同時に、試され続ける存在でもある」
「この四年間で、何を得るか。何を失うか。そして──何者になるか」
「それを決めるのは、学院ではない。諸君自身だ」
そう言い終わると、学院長は杖を床に軽く突く。
その瞬間、床の魔法陣が静かに起動した。
「これより生徒諸君に証を刻印する」
そう言うと俺たち生徒の利き腕の手の甲に、六角形の中に羽根が二つ記された刻印が刻まれる。
その刻印を見るや生徒たちは嬉しそうな表情で安堵する。
「では生徒諸君の活躍を期待する」
入学式は大々的に幕を閉じた。
(始まる……俺の学院生活が)
────
入学式の余韻が残る中、新入生達は再び講義室に移動させられる。
そこからはクラス分け、寮説明、授業体系など。
四年生の学院でクラスは8クラス。ただ各々興味のある講義を取る形式のため、あまり仲間意識は感じなそうだ。
成績、魔力、適性を加味してクラス分けされる。説明はそれだけ。
俺はEクラスに配属された。アルシェリアも同じEクラスで、他にはルーヴァやフィオナも同じクラスだ。
「大体説明は終わりました。後は各自配られた紙で詳細を確認してください」
その後も暫く紙に目を通す。
大体を把握した俺は頭の中で整理する。
まず授業体系について。
授業は座学・実技・演習に分かれる。
そして、演習には常に危険が伴う。
「怪我は自己責任。死ななければ問題なし」
その言葉に、何人かが顔を青くした。
次にクラスについて。
クラスは全部で1学年8クラス。
A〜Hまでの8つ。
寮は敷地内に全部で4つ。
白銀寮、紅蓮寮、翠星寮、月影寮。
各々特色が異なるが、俺が泊まれるのは一般寮である月影寮だ。
ちなみに何故かアルシェリアが同じ寮である。
てっきり王立寮の白銀寮かと思ったのに。
と、まあこんな感じである。
他にも禁止区域や、制服についても書かれていたが追々覚えればいいだろう。
「おい、貴様」
「え?」
俺が席を立とうとした瞬間、どこからともなく現れたそいつは俺が座っていた長机に両手を勢いよくつけて音を出す。
「おい、ユニークスキル持ちと言うのは本当か?」
「え?」
「本当かと聞いている」
「ああ、そうだけど」
何だこいつ?
仮制服ってことは同じ新入生か。
関わり合いになりたくないんだが。
「だったらどうなんだ?」
「あまり思い上がるなよ。お前みたいな貧相な成り立ちのやつが、神に選ばれるわけない。何かの間違いだ」
何言ってんだこいつ。
勝手に突っかかってきて、貧相だとか、思い上がるなとか。
つーか、この世界にも神はいるんだな。
「そこまでにしなさい。貴族ともあろう者が見苦しいわよ」
「私を誰だと──」
俺に突っかかってきた少年が、思わず振り向くと、そこには可憐で白銀の女神の名が相応しい美少女がこちらへ近づいてきていた。
「アルシェリア・ルミナリア。君はこんなやつの肩を持つ気か」
「ええ、少なくとも勝手に突っかかる恥ずべき人間よりはね」
「くっ──」
俺を睨みつけながら消えていく名も知らぬ少年。
「悪い助かった」
「別に礼を言われるほどじゃないわ。見ていて不快だったし」
「ありがとう」
俺は軽く優しく微笑む。
アルシェリアも思わず笑い返した。
「何や、お二人さんホンマに仲良しなんやね。うちびっくりやわ」
俺とアルシェリアの間に割って入ってくるフィオナ。
「仲が良かったら何かまずいかしら?」
「いやいや別に不味くないよ。ただ接点がイメージできんかっただけやから」
「そう安心したわ。あなたはまともそうで」
「まともかはわからんけど、折角の同級生やし、仲良くしようや。うちも一人は寂しいから」
「ええ、よろしく」
何か腹の中を探ってるみたいで少し怖いな。
「ほら寮に行くわよヤレン」
「あ、ああ」
何はともあれ無事に入学式を終えた俺。
そしてここから始まる──平穏とは程遠い学院生活が。




