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17話 奇跡の代償



雨は屋外の者たちの頭上に容赦なく降り頻っていた。住民達は黒や赤、茶色の髪を濡らし、慌てて屋内へ移動する。その中で一際目立つ金の髪にも雨は平等に雫を垂らした。落ちた雨が額を通り、彼女の目尻を濡らす。深夜なこともあり行き来する人間は元から少なく、無人になった路上には何処か心地よい水音だけが鼓膜を揺らしていた。


酒場を出た後何故か真っ直ぐ帰る気になれず、気付けばぐるぐると同じ路地を回っていた。家を出る前に準備した口紅はよれ、髪のセットは雨に濡れて見る影も無くなっている。


『────依存だよ』


頭の中にはリオの言葉が頑なに残っている。彼は本題の序論のつもりで言い放った言葉だろうが、それだけが心の中に燻り続けていた。


目を閉じると、目尻に溜まった雨の残滓が頬を伝う。普段は心地よい雨の音がやかましくなった気がした。






「東洋のゲームで"スゴロク"という遊びがあるのを知ってる?」


酒場にて、マリーは対面にいるリオの言葉に頷いた。確かサイコロの出目の大きさで決められたマスを進んでいき、先にゴールについたものが勝利するゲームだった記憶がある。


「やったことはないけど、確か調合士の勉強の時に言われてたわ」

「そうだね。僕たち鑑定士の方でもそうさ。大抵の話のオチは"奇跡を信じるな"だった」


教壇に立つものから聞かされる時間潰しの与太話として、これらは広く知れ渡っていた。


内容はこうだ。

サイコロを振り出た目の数だけゴールへ進める。スゴロクで人が意図的に操作出来るのは1〜6の範囲のみ。ならば最短で目標にゴールするにはどうしたら良いのか。


「答えは簡単。賽から手を離さず常に回し続けること────つまりは努力を怠らず常に勉学に励め、っていうのがスタンダードな話だ。これを人は進歩という」


マリーはもう一度、大きく頷いた。


魔法や奇跡といったものがもはや日常的になった世の中。魔法の一つで何もないところから火を灯し、水を宿し、草木を生やし、雷を起こし、風を操る。人は歴史の過程で魔法という奇跡を得たことで、類稀な恩恵を受け続けていた。


「ただ、それは運が良かったの一言に尽きる。言うなれば止まったマスに書いてあったことが偶然良かっただけ。僕たちが振れるサイコロの目が急に100になった訳じゃない。これは進歩ではなく環境の変化による進化だ」


人は魔法に触れたことで、自然の中で操作出来る範囲が飛躍的に拡大したのは事実だ。しかしその身に余るような奇跡を触れ続けていると、ふと人は思うのだ。自分はこの奇跡を操作している万能の人間であると。


「金、愛、力、権力……、それらを持ってるだけで自分の力であるかのように錯覚する馬鹿が存在するのは確かね」

「万物に干渉できることを、万能を手にしたと考える能無しは一定数いる。そうして本来は賽の目が最大6であるところを、新しいサイコロでは連続で100を出せると思い込んでしまうんだ」


今まで魔法なしに地道にサイコロを振り続けてきた人間が、突然手のひらに『100』という数字が全ての面に彫られているサイコロを手にしたらどう思うだろう。もう片方の手には今まで使い続けてきた最大値が6であるサイコロが握られていたとして、それを持ち続けられる者はどれほどいるのだろうか。


「中には今まで通り、既存のサイコロを振り続ける人もいるだろうね。でも一度は頭をよぎるだろう。今までのサイコロを手放して、これこそが自分の本来の力であると。偶然の奇跡が起きて、自分は最強の力を手に入れたのだと」


そうした人間の行き着く先は、一体どこなのだろう。いや、むしろどこにも行かないのだろう。そのマスの効果を自身の力と信じたものにとってそれを手放すことは自己否定に繋がるのだから。

一歩でも外に出れば100の目のサイコロは消え、足元に転がった捨てられた最大値が6の目のサイコロを拾うことになる。


「一度捨てたサイコロを拾い歩き出すかも?絶対にない。人は一度浸かった風呂の温度を忘れないものさ」


マリーの眉尻がピクリと上がったが、リオはそれに気付かず話し続ける。


「そうしたらそいつらが取る行動は一つだけ。そのマスへ留まり続けること。つまり正攻法とは真逆の悪手。前にも進まず、後ろにも下がらず望んでマスへ居座り続ける。その状態をなんで言うか知っているかい」


リオは一呼吸間を置き、リオはこう続けた。


「────依存だよ」



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