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星紋の守り手―そして、運命は動き出す。癒しの力と星の記憶―  作者: 高梨美奈子
【終幕】ー新たなる旅立ち

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― 終章 継がれゆく星の記憶 ―

月光が静かに王都の尖塔を照らしている。

かつて戦火が迫ったこの地に、いまは穏やかな鐘の音が響いていた。


時は流れた。

星祈の夜の出来事から、幾星霜。


アルセリオ王国は穏やかな輝きを取り戻し、今なお平和の中にあった。


王の名は、レオノール。

「賢王」と謳われ、剣ではなく、法と理で国を治めた希代の統治者である。


その傍らに在りしは、王妃イリス。


かつて星の巫女と呼ばれた彼女は、今もなお静かな輝きをたたえ、

王を、そして国を包み込むように支えていた。

人々は彼女を「星の導き手」と呼び、敬愛した。


そして、この二人の間に子どもが生まれた。

母のような黄金の瞳を持つ姫。

そして、父のような灰銀の瞳を宿す王子。


姫は優しく、王子は聡明だった。


姫と王子もまた成長し、

その身体には、古き星の記憶を宿す紋が、微かに浮かび上がり始めていた。





王国の繁栄を支えたもう一人の存在、

宰相、ラーデン・ノアクレストの名は、歴史に深く刻まれている。


かつて星の巫女と歩みを共にした彼は、「王に仕える」という誓いを貫き、

いまや王の右腕として、静かに国の礎を築いていた。


評議会においては言葉少なくとも、その判断は常に的確で、

いかなる陰謀も、彼の眼と耳をすり抜けることはなかった。


彼のペンは法を整え、彼の剣は謀略を断ち、政治と国を動かしていた。


――この国に、これほど王に寄り添った宰相はいない、と後世に語り継がれることになる。







そして、ある年の初夏――

一陣の風が吹き抜ける王宮に、風に乗って、二つの気配が舞い降りた。


夕暮れ時、星々が淡く空に灯り始めるころ。

王と王妃、そしてまだ幼い姫と王子が、

中庭で静かに風に当たっていたときのことだった。


風の中から現れたのは、二つの姿。


ひとりは、銀の髪に金の瞳を持つ青年。

そしてもうひとりは――銀の髪に漆黒の瞳を宿した青年。


――セフィルと、ルヴィアン。


光と影、ふたつの“鍵守”。


彼らはもはや、人の時を越えた存在となりながらも、

王家の血に眠る、星の力を見守り続けていた。


旅の気配を纏いながら、ふたりは王のもとへと歩み寄った。


「久しぶりだな」


王にそう語りかけたセフィルの声は、どこか懐かしさを帯びていた。


レオノールは目を見開き、そして立ち上がる。


イリスの表情には、懐かしさと喜びが満ちていた。

人知れず、涙が頬を流れる。

その身体が、震えた。


思わず駆け寄り、ふたりを抱きしめる。


「……会いたかったわ……ずっと、ずっと……!」


「……久しぶり、イリス」


ルヴィアンの声は、かつてと変わらず柔らかかった。

彼は口元をゆるめ、幼い姫と王子に視線を落とす。


「君たち……父さんと母さんに、よく似てる」


夜はやがて更け、月が高く登る頃――

王宮の奥深く、星の間にて、四人は夜通し語り明かした。


旅で見た地のこと。

星脈の綻び。


光と闇のかけらが、いまも世界のどこかでさまよっていること。

そして、二人がその調律のため、これからも旅を続けるということ。


「けれど……また来るよ」


セフィルは穏やかに言った。


「この子たちの力が目覚め始めたなら、導きの光になりたいから」


その言葉のとおり――


それからというもの、セフィルとルヴィアンは、ときおり王宮を訪れるようになった。


彼らはもはや、時の流れを超えた存在。

人の時間の中には在らずとも、星の導きを求める者の前には、必ず現れる。


王子には、星を詠む瞳と沈着な思考を。

姫には、癒しと祈りの手と、未来を紡ぐ声を。


姫と王子はやがて、二柱の存在に敬意を込めてこう呼ぶようになる。


――「光と影の鍵守様」

そして、「星より遣われし神様」、と。


それからというもの、王宮には不思議な噂が広まるようになる。


「姫と王子には、決して老いぬ“光”と“影”の守護がついている」

「そのふたりが寄り添う夜は、星がひときわ輝く」――と。


それはまるで、星が語り継ぐ伝承のようだった。

だが、それを語る老人たちの目には、どこか確かな記憶が宿っていた。







国は、穏やかに時を重ねてゆく。

王と妃は、最後まで民の傍に在り続けた。


レオノールとイリスは、やがて王座を譲ると、共に静かな森の館へと移り住んだ。


それでも人々は語り継ぐ。


あの時代、空に星がひときわ明るく輝いたのは――

賢王と賢妃、そして二柱の神が並び立つ時代だったからだと。


王家に流れる“星の記憶”と、

神と呼ばれた守護たちは、時を超えてなお、伝説の中で静かに光を放ち続ける。


そして今もなお、星の夜が来るたび、

王宮の高き塔には、遠く旅の気配と共に、銀と黒の影がそっと降り立つという。


それはまるで、星が今もこの地に宿っている証のように――。


――それが、光と影、五つの魂が織りなした星の物語。


遠い未来の子どもたちが、眠る前に語られるようになる、

とても古くて、とてもあたたかな祈りである。

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― 新着の感想 ―
ついに完結されたのですね! とても興味深く、時に涙ぐみながら読ませて頂きました。 表現がとても秀逸で、本当に透明感のある文章だと思いました。 すてきな作品をありがとうございました!
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