セフィルの心
ルヴィアンが「僕は、旅に出るよ」と告げたとき――
セフィルの胸に、静かな波紋が広がっていった。
(……やっぱり、そう来たか)
驚きはなかった。むしろどこかで、そうなる予感はしていた。
ルヴィアンが星祈の夜のあとも、どこか落ち着かなかったこと。
誰よりも深く、あの“闇”を見つめていた彼が、このまま王都の中で収まるはずがない。
だが――
(もし……もしあいつが行くなら、俺はどうする?)
イリスの傍にいる。それは、ずっと彼の「当然」だった。
生まれた意味も、封じられた時間も、覚醒の瞬間さえも、
すべてがイリスの光のためにあったのだから。
けれど。
星脈の地でイリスが見せた覚悟。
神殿で、自らの意志で立ち上がった姿。
そして、「学園に残る」と言った今の彼女の声は――
もう、誰かの影に守られる存在じゃなかった。
(もう、俺がいなくても、イリスは……ちゃんと、歩いていける)
そこにあるのは寂しさではない。
むしろ、誇りだった。
だからこそ、セフィルは胸の内にもう一つの声を聴いた。
(なら、俺も――ただ守るだけじゃない、自分の道を)
ルヴィアンと共に旅に出るという選択肢が、胸の奥で形を成していく。
ただの同行者ではない。
彼の旅路を、光として照らす存在として。
沈黙の中、セフィルは視線をイリスからルヴィアンへと移した。
心は、もう決まっていた。
(俺は……俺もお前と一緒に行く)
そしてその言葉を口にした瞬間、
胸の奥にあった、“鎖”のようなものがほどけていくのを感じた。
そして、彼は――あえて言葉を絞り出すように、口にした。
「それに……王都には、レオノールがいる。
彼がきっと……イリスを守ってくれるはずだ」
その瞬間、自分の心臓がひときわ強く脈打つのを感じた。
(本当に……そう思ってるのか?)
レオノールという名を出したその刹那、胸の奥に小さな鈍痛が走った。
イリスを託す相手として、彼以上の存在はいないとわかっている。
冷静で、強く、何より、イリスの選択を尊重できる人だ。
だが。
(……それでも)
彼女の隣に立っていたかった。
あの光のもとに、いつまでも在りたかった。
それでも、それ以上に。
イリスの道を、誇りを、自分の手で支えることが、
「守る」ではないと、気づいてしまった。
だから――手放す。
信じて、送り出す。
(……俺は、君の影じゃなくて、“光”になりたい。
自分の足で歩いて、この世界のどこかを照らせる存在に)
イリスはただ、静かに目を伏せていた。
彼女の瞳の奥にも、きっと同じ痛みが宿っている。
セフィルはそっと、ルヴィアンの方を向いて誓う。
(ルヴィアン。旅の先で、お前が見失いそうになった時――
俺が、きっと、光になる……今度こそ)




