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星紋の守り手―そして、運命は動き出す。癒しの力と星の記憶―  作者: 高梨美奈子
【終幕】ー新たなる旅立ち

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分かたれゆく、歩み(後編)

「……次は、僕の番だね」


今度はルヴィアンが声を上げた。

ゼルファードの視線が、彼に向けられる。


「僕は……旅に出るつもりです」


イリスが、目を見開いた。


「えっ……旅に?」


「うん」


ルヴィアンはそっと目を閉じると、続けた。


「まだ残ってる。

闇の残響も、封じられていない星の綻びも……。

きっと誰かが、それを探して、手を伸ばさなきゃいけない。

……それが僕の役目だと思うんだ」


「それ……は……」


イリスは息を呑み、ルヴィアンを見つめた。


ルヴィアンは、目を開けるとイリスに微笑む。

その瞳は、優しく、澄んでいた。


「それらを辿って、正していこうと思う。

……それは、その先にある未来を、ほんの少しでも穏やかなものにするために、僕は歩いていきたいんだ。

……それが、僕に与えられた使命だと思ってる」


ゼルファードがわずかに目を細める。


「使命……か……」


「はい。

この世界を包む星の力には、まだ断ち切れぬ闇の名残があるのを感じます。

……僕はそれを、見て見ぬふりはできないんです」


静かだった応接室に、重みのある気配が満ちていた。

それは、若者が背負うには過酷な使命であった。


「……ルヴィアン……」


イリスが小さく名を呼ぶ。

その声音には、理解と、わずかな寂しさと、強い敬意が混ざっていた。


ゼルファードはゆっくりと頷いた。


「……ならば、行くがよい。

使命を帯びてなお、道を選び取るその姿勢こそ、“選ばれし者”の在り方だ」


「ありがとうございます」


ルヴィアンが、そっと頭を下げた。


そして――視線が、最後のひとりに注がれる。





セフィルは黙ったまま、少しだけ俯いていた。

誰も言葉を急かさなかった。


やがて、彼は小さく息を吐き、ゆっくりと顔を上げた。


「……多分、ルヴィアンならそう言うだろうって、思ってたよ」


顔を上げた彼の瞳は、柔らかく、けれど決して揺らいではいなかった。


「だから俺も、決めてた。

俺は……俺もお前と一緒に行く」


「……え?」


今度はルヴィアンが目を見張る番だった。


「待って、君は……イリスのそばにいるんじゃないの?」


ルヴィアンの問いに、セフィルは静かにうなずいた。


「それが俺のすべてだと思ってた。ずっと。

それが“使命”だと、信じてた。

……でも今は違う。

イリスは、もう自分の足で立っている。前を向ける強さを持っている。

俺が傍にいなくても、大丈夫だって……信じられるようになったから」


セフィルはイリスを見つめる。


「それに……王都には、レオノールがいる。

彼がきっと……イリスを守ってくれるはずだ」


「……セフィル……」


イリスの目に、涙が光る。


セフィルは頷き、今度はまっすぐにルヴィアンを見ると言った。


「この世界を、お前一人に背負わせたくない。

そして……俺はもうお前を一人にしたくないんだ」


一呼吸の後、セフィルは続ける。


「俺も、一緒に旅をする。ルヴィアン。

お前となら、できることがある気がする。

……お前が過去を背負っているなら、俺は未来を照らすよ。

道の果てに何があろうと、お前の選んだ使命を守り抜く。

そう決めたんだ。――これが、今の俺の答えだ」


ルヴィアンは、しばらく何も言えなかった。

まっすぐな瞳で向けられたその決意にーーただ息を呑んだ。


「……ありがとう……セフィル。

それは……頼もしい旅路になるね」


ようやく笑みを返したルヴィアンの声は、少しだけ震えていた。


ゼルファードは深く頷いた。


「……そうか。君もそう決めたのだな。

旅路は険しかろう。

だが、その覚悟があるならば、光は決して消えはしない。

離れることは、決して絆を失うことではない……私は、君たちを信じている」


セフィルもまた、静かに礼をした。


ゼルファードは、誰に向けるでもなく、穏やかに言った。


「それぞれの道が再び交わることは……もうあるまい。

だが、始まりの場所はここだった。

そのことを、決して忘れるな」


誰も言葉を発さず、ただ静かに頷いた。



イリスの頬に涙が伝わる。

胸の奥で、何かがすうっと静まっていくようだった。


寂しさも、ある。けれどそれ以上に、誇らしかった。

それぞれの道へ向かうための、最初の一歩。


その光景を、イリスは静かに見つめていた。


「……心は、同じ星の下にいるわ……。

……いつか……きっと……」

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