表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星紋の守り手―そして、運命は動き出す。癒しの力と星の記憶―  作者: 高梨美奈子
王都へ戻れ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/82

エピローグ「星の地へ、帰ろう」

その夜。


王宮の塔の最上階。空へと開かれた展望の間には、灯りひとつない。

ただ月と星の光だけが、静かに差し込んでいた。


イリスは、塔の手すりに手をかけながら、夜空を見上げていた。

遠い空に、星々が煌めいている。


かつて祈りを捧げていた時よりも、ずっと近く、確かに感じられる。


「……きれいだな」


後ろから、セフィルの声がかかる。

その傍らには、ルヴィアン、そしてラーデンも立っていた。


「やっと……本当の星空を、こうして見上げられるようになったよ」


ルヴィアンが呟く。


「前は……どれだけ祈っても、心まで届かない気がしてた。

でも今は違う。光も、影も、全部……届いてるって思える」


「星は、俺たちの祈りを覚えてくれてたんだな」


セフィルが返す。


「うん……この手で壊してしまったと思ったものも、

失ったと思っていたものも……

まだ、ここにある。まだ、やり直せる」


ルヴィアンが、ゆっくりと空に手を伸ばす。


「……うん。そうだね……」


イリスは小さく頷いた。

その瞳に、もう迷いはなかった。


すると、誰かが階段を上ってきた気配がした。


「ここにいたのか」


声の主は、レオノールだった。

柔らかく整えられた衣のまま、彼は一人でこの夜にやってきた。


「静かな星空は、神殿のそれとは違うな」


塔の手すりに手をかけ、彼も空を見上げる。


「……やっとだな。父も目覚め、国も癒え始める。

だが、きっとこれからが始まりだ。

私たちにとってはーー」


その言葉は、どこまでも真摯で、静かだった。

一国の未来を背負おうとする者の、まっすぐな意志。


「……私は、レオノール様を信じています」


イリスがそっと言葉を返す。


「ーー祈りを受け取ってくれた星のように、

あなたもこの国の人たちを照らす人になると思うのです」


「ふ……」


レオノールはわずかに目を細める。

その顔には、安堵と、どこか寂しげな色が滲んでいた。


「イリス・ヴァレンティア。……いや、イリス」


「……はい」


「……本当に……王国に、戻ってきてくれて、ありがとう」


それはきっと、王子の立場ではなく、一人の人間としての言葉。


イリスは、ふと微笑んで、そっと礼を返した。


「星が、これからも見守ってくれますように……」


その言葉に皆が空を仰ぎ、

それぞれの胸の内に、願いを浮かべた。


「……これで、本当に終わったんだな」


セフィルがぽつりと呟く。


「いや」


ラーデンが夜空を見上げながら応える。


「ようやく“始まる”んだ。祈りのあとに、歩き出す時間が」


レオノールが目を閉じる。


「ーーそうだな。

その一歩を、私も共に進もうと思う……この国と、この時代のすべての人と」


イリスは、その言葉を聞いて、ゆっくりと頷く。

それは祈りではなかった。

それは、歩んできた道を信じて、前を向こうとする意志のようなもの。


「……きっと、大丈夫です。

私たちの夜空には、もう嘘がありませんから」



――星は、音もなく輝いている。


変わらないものなど、何ひとつないこの世界で、

変わらずに瞬く光が、今日という時間を静かに包んでいた。


そして――


明日が来る。


イリスは、そっと囁いた。


「……さあ、帰ろう。私たちの場所へ」


夜空を微かに流れ星が一筋、

王都の空を、静かに横切っていった。


その光は、まるで国そのものが、新たな未来へと歩み出す合図のように。


「願いを、込めて」


イリスが囁く。

それに応えるように、星がまたひとつ瞬いた。



――やがて、夜が明ける。


そしてそれは、誰かの祈りに応えた、真なる“夜明け”になるのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ