表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星紋の守り手―そして、運命は動き出す。癒しの力と星の記憶―  作者: 高梨美奈子
王都へ戻れ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/82

闇の終焉

崩れ落ちたエスラ公爵の周囲に、赤黒の煙が立ち込めていた。


「……まだだ。私はまだ……終わってなど……!」


傷ついた腕を引きずりながら、公爵は呻くように呪文を紡ぐ。

けれどその呪詛は、イリスたちには届かない。


星環の力は、偽りを拒絶する。


それでも彼は、何かを呼び出そうとした。

最後の賭けのように――。


「この身を喰らってでも……術を……!!」


彼の胸元が強く輝いた。

それは、闇と契約した者にしか持てぬ“呪の核”。


直後、異音が鳴り響いた。


ゴゥッ、と空間が歪み、彼の足元の大地が割れ、

そこから暴走した闇の術式が吹き上がる。



──術が主を呑んだ。




「う……あ……ああああ……ッ!!」




地を這うような絶叫。

それは、術が己に牙を剥いた男の末路。


全身を走る黒い亀裂が、彼の意識も言葉も、徐々に喰らっていく。

まるで、自分が仕掛けた罠に自ら堕ちていくように――


「やめて……!」


イリスが一歩前に出ようとしたその時、レオノールが静かに制した。


「彼の術は、止められない。

それは“星に逆らった者の代償”だ。……哀れではあるが」


「それでも、何か……!」


「イリス、君は優しすぎる」


ルヴィアンがそっと言う。


「だが……これは、止めることは、できない」


黒い光が閃いた。

エスラ公爵は自らの術に飲まれ、消えた。


音もなく、大地が、静かに閉じる。

そこに残ったのは、ただひとつ、焼け焦げた呪布の欠片。


彼の権力も、企みも、偽りの契約も――全てが消えた。







神殿の天蓋が、微かに揺れた。

外の夜空に、星の光が戻ってきた。


そして――


夜が明ける。


星祈の儀は、終わった。


巫女の祈りと鍵守たちの誓いによって、

星の器は“正しき姿”を取り戻し、王の魂はその座に戻った。



神官長は静かに膝をつき、

騎士団長も剣を納め、王と王子に深く頭を垂れた。


そして。

静かに、一歩を踏み出す者がいた。


――王。


まっすぐに伸ばすその背に、いまや“星の光”が重なっていた。

まるで、真に主君たる者にだけ与えられる神聖が、彼を包むように。


「……見届けたぞ」


その声は、神殿の隅々まで澄み渡る。


「星は、再び我らに加護を与えた。

それは、かつての約束が“果たされた”証である」


王は、イリスに視線を向ける。


「星の巫女、そして癒し手の王よ。

貴女の祈りと、若き鍵守たちの誓いが、

この国を、そして我が魂を、再び目覚めさせてくれた」


ゆっくりと膝を折り、深く頭を垂れる。

レオノールもまた、隣で跪く。


王と王子が、共に巫女に膝をついたその姿に、場にいた者たちは息を呑む。


「ありがとう。

君たちがいなければ、私はあのまま“名ばかりの王”として、滅びていた」


イリスは、戸惑いながらもそっと一歩前に出た。


「そんな……私は、ただ……」


「謙遜しなくていい。”ただ”というだけで、できることではない」


レオノールが穏やかに言った。


「これより、“星と巫女と王家の契約”は、正式なものとする。

この国は、新たな時代へと入る」


王が再び立ち上がり、祭壇を見上げた。


そこには、星環が静かに輝いている。

もう、黒き呪も歪みもない――ただ、夜明けの色を讃える器。


「この国を覆っていた闇は、祓われた。

だが、まだ終わりではない。

我らは、星との契約を守り、この先を歩まねばならぬ」


王の声は、最後まで静かだった。

けれど、その重みは誰の心にも届いた。


こうして――


星祈の夜は、終わりを告げた。

星の巫女と鍵守たちによる“新たなる誓い”が、この国を包んだ。


完全なる夜明けが、訪れたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ