契約、星へ
星環が静かに脈動していた。
黒き偽りを拭い去られ、蒼と銀の深い光が、波のように堂内を包む。
その中心に立つのは、星の巫女――イリス。
そして、両翼には、鍵守たるセフィルとルヴィアン。
後ろには、調停者たるラーデンが控える。
祭壇の空気が変わっていく。
重苦しかったはずの結界が、まるで夜がほどけるように消え去り、
広がるのは――静謐な光。
イリスは、胸元のペンダントに手を添える。
そこから溢れるのは、ただ温かい光。
争いや力とは異なる、生命の奥に響く“癒し”の波動だった。
「星よ……この大地を、もう一度、繋いで」
イリスが静かに祈りを口にする。
巫女の祈りは、言葉の意味よりも先に“意志”として星へと届く。
彼女の魔力が、魂の深奥から器へと流れ込み、星環の魔陣を揺らした。
その瞬間――
天蓋が開けた。
神殿の最上部、閉ざされていた星の間に一筋の光が射し込む。
そこから降り注いだのは、無数の小さな“星の欠片”たち。
光粒のように舞い降りるそれは、かつて世界の均衡を司っていた、星の加護の痕跡。
ひとつ、またひとつと、イリスたち四人の肩や胸元に降りては、
静かに光となって溶けていく。
祭壇の床に浮かぶ星陣が、淡く揺らめいた。
複雑な陣形が展開し、ついに“契約の印”が浮かび上がる。
セフィルとルヴィアンが、片膝をつき、イリスの前にそっと手を差し出す。
「イリス・ヴァレンティア。星の巫女、癒しの王よ。
君が”星の記憶”に選ばれし巫女であること。
そして我らが、君を通して星と大地を結ぶ鍵であること――
今ここに、誓おう」
「……うん」
イリスがうなずき、彼らの手に、そっと自らの手を重ねた。
ラーデンがそっと進み出る。
「――我は、光と影を、過去と現在を結ぶ、調停者。
星を繋ぎ直す、星環の守人。
今ここに、その力を――」
四者の手が重なった瞬間――
星環が、強く、深く、ひとつの光を放った。
神殿の空間全体が共鳴する。
空気が震え、星の鼓動が、この大地の奥にまで響き渡る。
――契約、成る。
その瞬間、神殿の床を走っていたひびが、音もなく癒えていった。
揺らいでいた空間の魔力が安定し、
記憶を操られていた神官長や騎士団の目から、靄が静かに取り除かれてゆく。
世界が、呼吸を取り戻す。
それは「奇跡」などではない。
本来あったはずの“繋がり”を、正しい在り方に戻しただけ。
それでも、そこにいた者たちは――皆、確かに感じていた。
これは、癒しだと。
これは、赦しだと。
静かに立ち上がるイリスの姿が、神殿の中心で光に包まれていた。
王の瞳に、涙が滲んでいた。
レオノール王子は、静かに頭を垂れる。
エスラ公爵だけが、祭壇の前で呆然と立ち尽くしていた。
その顔に、あの傲慢な影はなかった。
彼の支配も、呪も、星の力の前では、ただの“誤り”でしかなかった。




