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継がれしもの

結界が解け、光の粒が宙に舞う。

星脈の泉から光が立ち、ふたりの間に、淡い蒼銀色の光が集まり始めた。


ゆっくりと現れたのは、ふたつの宝具。


ひとつは、星の欠片を連ねたような細い銀のペンダント。

中央には、星の形を象った透明な結晶が揺れていた。

まるで夜空を切り取って閉じ込めたかのような、微細な星の輝きが瞬いている。


もうひとつは、同じ結晶が埋め込まれた腕輪。

銀糸を編んだような繊細な加工が施され、魔力を帯びて静かに脈動していた。


それらは静かに浮き上がり消えたかと思うと、

次の瞬間にはイリスの胸にはペンダントが、セフィルの右手に腕輪が現れた。

ふたりの魔力が共鳴し、再び光が小さく瞬いた。


「これが……”星の契約の証”……」


イリスが囁くように呟くと、セフィルが優しく頷いた。





石の扉が音もなく開き、淡い光が外の空気を導き入れる。

扉の前には、静かに待っていたゼルファード学園長の姿があった。


彼はふたりの姿を認めると、穏やかな笑みを浮かべ、そっと片膝をついて頭を垂れた。


「……お会いできて光栄です。

あなたが、鍵守ーーセフィル殿ですね」


「そんなにかしこまらなくていい。

こうして迎えてくれて、ありがとう……塔の守護者よ」


セフィルは少し戸惑ったように瞳を伏せると、静かに首を振りながら言った。


「いえ、私にはこの時を待つ責任がありました。あなた様に礼を尽くすのは当然のことです」


老学園長は立ち上がると、その隣に立つ少女を見つめ、深く頭を下げた。


「そして……星の巫女様。よくぞ目覚められました」


イリスはわずかに戸惑いながらも、きちんと姿勢を正し、丁寧に頭を下げ返した。


「ありがとうございます。ゼルファード先生。

ですが……私は、これからも”イリス”と呼んでいただけたら、嬉しいです」


ゼルファードは一瞬驚いたように目を開いたが、すぐに微笑んで頷いた。


「ふふ……わかったよ、イリス。君の望みなら、そうしよう」





ゼルファードが軽く杖を振ると、足元に魔法陣が現れた。

光が二人を包み込む。


「学園長室へ案内しよう。ここでは話せぬこともある」


転移の感覚が過ぎると、次の瞬間、学園長室へと移動する。


重厚な書棚と、古い魔道具が並ぶ室内。

ゼルファードは、書棚の奥の一角に手をかざすと、棚の一部がが音もなく開いた。

その奥には、小さな円形の部屋。


「……改めて、ようこそ。この場所は歴代の学園長だけが知る、もう一つの”塔”だ」


その中心には、古びた机と椅子、そして厳重な結界で守られたガラスの台座があった。


ゼルファードはゆっくりとその結界を解除すると、ふたりに言った。


「ここには、君たちに託すべきものがある。

かつて“星の巫女”ニーナ様が残した手記、そして……星の守護武具だ」


木箱から取り出された杖は、星の結晶と銀の枝を組み合わせた繊細な細工で、

触れると魔力が優しく脈打つ。


イリスの手にすっと馴染むように収まった。


「……これが、ニーナの杖……」


呟くイリスの手元で、ニーナの魔力が呼応するかのように、杖の星の宝珠が小さくきらめいた。


ゼルファードは次に、黒い布に包まれた長い箱を持ち上げた。


「こちらは、鍵守である貴方に――“闇を裂く者”と共にあった、かつての守護剣です」


箱を開けると、深紅の鞘に包まれた細身の剣が現れる。

刃の根元には星を象った印が浮かび、微かに音もなく空気を震わせていた。


セフィルが静かに手を伸ばし、それを握った瞬間――空間が一度、光に染まる。


「……これが、俺の剣……記憶の奥にある感触と、同じだ」


ゼルファードは微笑んだ。


「……本当に、継承されたのだな。

この二つは、いずれも強大な加護を宿している。星の力に応じてその真価を示すだろう」


そして、表情を引き締めると、机に古びた一冊の手記をそっと置く。


「これが、ニーナ様が遺した手記だ。

真実の歴史と、来たるべき闇の存在についても記されているという。

我々には開くこともかなわんが、イリスなら読めるだろう。

だが……読むには覚悟が要るかもしれん」


イリスはその表紙にそっと手を添えた。そして、深くうなずく。


「……私は、向き合います。すべてを、守るために」


そのとき――部屋の天井近くに、淡い光が瞬いた。


「……っ!」


一陣の風とともに現れたのは、ふわりと宙に舞うような白銀の羽毛。

そして静かにイリスの肩に降り立ったのは――星の光を宿した瞳を持つ、

小さなフクロウのような魔獣だった。


「……ルミナウル」


ゼルファードが低く呟く。


「伝承にあった……星の巫女に従う、”星の使役獣”……」


ルミナウルは短く鳴き、イリスの頬を撫でるように翼を広げた。

その仕草に、セフィルは微笑みながら囁く。


「……君の目覚めを、きっとずっと待っていたんだ」


「ふふ……ありがとう。よろしくね」


イリスが言うと、ルミナウルはひと声鳴き――淡い光を残して、右手の甲の紋章に消えていった。


ゼルファードは満足げに目を細めると、表情を引き締めて言った。


「……イリス、セフィル殿。君たちに話さねばならないことがある」

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