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星紋の守り手―そして、運命は動き出す。癒しの力と星の記憶―  作者: 高梨美奈子
王都へ戻れ

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闇にうごめく策謀

王都の一角、表向きは公爵領の離宮として用いられている屋敷。


その地下深く、魔術によって隠された空間――

かつての戦時、禁呪研究の拠点として使われた地下空間が、今は一人の男の私室となっている。


淡い紫紺の光が石壁に滲み、

冷たい光が滴るような石壁に設けられた紋章が、不気味な脈動を繰り返している。


中央の玉座には、エスラ公爵――ディアストレ・ヴァン・エスラ。


彼は、手元の報告書に目を落としながら、低く呟いた。


「……星紋の塔に仕込んだ“印”は確かに反応した。

だが、騒ぎはすぐに鎮静化。

術式の崩壊も、想定される闇の暴走も――報告されていない。

まるで何事もなかったかのように、だ」


全身に黒衣を纏った側近が、眉を潜めて首を傾げる。


「何者かが、干渉したと?」


「そうでなければ辻褄が合わぬ。

星紋の塔の”闇の封印”は、我らが最も深く結界を張った場所だ。

あそこに仕掛けた〈夜闇の鍵〉の刻印が目覚め、なお異常が表に出ないなど……あり得ぬ」


異様なまでに研ぎ澄まされた眼光が、室内の空気を刺すように貫いた。


「――イリス・ヴァレンティアの目覚めが影響している可能性は?」


「未確認です。

ですが、塔に彼女が立ち入ったという報告はありません。

確認の術が遮断されておりました。何者かによって」


「……ふむ。ゼルファードの奴の仕業か……忌々しい」


長い指が、卓上の杯を軽く撫でる。


彼は指を鳴らす。壁の魔術陣が淡く光り、一人の男が室内へと入ってきた。

黒衣の魔導士――エスラ家の“別の駒”だ。


「進捗を報告しろ」


「は。〈真儀式〉の印紋は、神殿の神官長に渡してあります。

記憶には“正式な更新”として書き換えを施しました。

本来の契約紋は、すでに処分されています。

星祈の夜、“星環の象徴”を移し替える準備も進んでおります」


「ふむ」


「神殿騎士団長についても同様。

すでに“彼が信じる記憶”はこちらの定めたものです。

星祈の夜の当日、巫女を導く役目も予定通り。……問題はありません」


ディアストレは短く頷くと、卓上の黒布をめくった。

そこには、光を吸い込むような黒々とした石の輪――“星環の象徴”が静かに鎮座していた。


「これが、星の象徴として神殿の祭壇に置かれる。

本来の星環――王家と巫女を繋ぐ“正統なる星の器”は、すでに作り替えてある。

星祈の夜、巫女が誓いを捧げた瞬間、この星環が星との“契約”を完了させる」


側近が目を見開く。


「……星を欺くのですね」


「そうだ。

巫女の力はそのまま、我が公爵家との“契約”として星脈に刻まれる。

王家はただの形骸と化す。

……それが、この儀式の本質だ」


ディアストレは高らかに笑う。


側近はわずかに口元を緩めると、静かに問うた。


「神殿内の星の巫女派――そちらの掌握は?」


「問題ない」


ディアストレは言い切った。


「主要な神官、巫女の付き人、衛兵の一部――記憶の改ざんはすでに施してある。

“イリス・ヴァレンティアが星に選ばれた”という記憶だけを残し、

その他の不都合な記憶は全て、“彼女は管理下にある”という印象へと書き換えた」


「彼女自身は?」


「……不用意に触れれば、気づかれる可能性がある。

いずれ封じるが、今は契約の瞬間まで泳がせる」


男は一瞬、躊躇を浮かべたあと、次の問いを投げた。


「……では、ラーデン殿への今後の指示はいかがなさいますか?

彼にしか通じぬ門も、まだ残っておりますが」


ディアストレの目がわずかに細められた。


「――ラーデン・ノアクレストか」


その名が口にされた瞬間、室内の空気が凍った。

ディアストレは椅子に深く座り直し、ゆっくりと杯を傾ける。


「……奴は、そろそろ用済みだ」


「…………」


「共鳴体質という稀有な器は、すでに十分活用させてもらった。

今や、あの星の巫女と繋がりかけている危うさがある。

こちらの意に背くようなら、それは――ただの障害だ」


「……処分を?」


「役目を終えた”駒”には、それ相応の幕引きをさせねばならん」


冷たく笑った。


「そろそろ退場してもらおう。星祈の夜――静かに、確実にな」


――沈黙。


黒衣の側近と魔導士の男は、従順に頷き、命を受けた。


「すべては、“永き星の秩序”のために。私の星が、揺らぐことなど許されぬ」


その声は冷ややかで、ひと欠片の情すら含まれてはいなかった。


王の魂を吸い、黒々と輝く――“星環の象徴”。

ディアストレは笑みを浮かべてひと撫ですると、静かに、杯を傾けた。

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