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星紋の守り手―そして、運命は動き出す。癒しの力と星の記憶―  作者: 高梨美奈子
王都へ戻れ

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王の寝所――闇に囚われし魂

厚い石壁に囲まれた、王の寝所。

淡い月光の光がそっと差し込む、静寂の空間。


そこに横たわる王は、変わらぬ眠りの中にあった。


目を閉じ、浅い呼吸を繰り返すその姿は、

前に見たときと、何ひとつ変わっていないようだった。

ただそこに“在る”だけのような、深い眠り。


深く、重く、意識の底から浮かび上がれぬまま、

まるでどこか遠い場所を彷徨っているようだった。


レオノールは寝台の脇まで歩み寄ると、静かに言葉を落とした。


「時折……意識が戻りかけることがある。

だがそのたびに、何かに引きずり込まれるように……再び深く沈む」


レオノールの声は、低く、苦しげだった。

魂の光は灯っているが、その魂そのものが、“何か”に絡め取られているのだと、彼は語る。


言葉を交わす者もなく、しばし一行は王の姿を見つめていた。

その中で、ただ一人――ルヴィアンが、少しだけ前へ進み出る。


じっと、王の胸元に視線を注ぐ。

彼の眼差しは深く、何かを見透かすように、じっと見つめる。


「……見える」


低く、しかし確かな声。


イリスがはっと振り返ると、ルヴィアンがその瞳を王から外さぬまま、静かに言った。


「僕には……王を縛っている“闇の鎖”が見えるよ。

黒くて、重くて……深いところから伸びてきてる。

きっと、魂の奥底にまで入り込んでる」


部屋の空気が凍りついたような沈黙。


ラーデンとセフィルが思わず息を呑む。


レオノールの指先が、わずかに震えた。


「……どうか……!」


その声は、かすれていた。


「……その鎖を、断ち切ってくれ。どうか……頼む……!」


そのまっすぐな叫びに、ルヴィアンは顔を上げると静かに頷き、イリスを見る。

イリスも静かに頷いた。


イリスはそっと王の寝台に近づくと、傍らに膝をつき、レオノールを見上げた。


「……殿下。また、陛下のお手を取っても……よろしいですか?」


レオノールは静かに頷き、何も言わず、ただ場所を譲った。


イリスは王の側に座り、そっと手を取り包み込むと、目を閉じて静かに祈った。

額の星紋が輝き、イリスの手から光が溢れる。


魂の深奥へ――揺らめく闇の気配が広がっていく。


その瞬間――

彼女の肩に、柔らかな手のひらがそっと重なる。


ルヴィアンだった。

黙って、そっと手を置いたその指先から、温かな魔力の流れが伝わってくる。


それは強い力ではない。

けれど、深く静かに、イリスの魔力と溶け合い、意識を“ひとつ”にしていく。


ルヴィアンは目を閉じ、微かに唇を動かす。


「行こう――イリス」


そしてふたりは、王の魂の奥へと、重く沈む“闇の核”に触れてゆく。





二人の魔力が静かに広がり、空間がわずかに揺れる。

イリスの意識は、ルヴィアンと重なり合うようにして深く沈んでいった。


感覚が薄れていく。

現実の音も気配も、すべて水底へ沈むように遠ざかっていく。


やがて――


目の前に広がったのは、色を失った世界だった。

灰色の空、色のない大地。風もなく、音もない。


ひとけのないその場所に、イリスはひとり立っていた。

否――すぐ近くに、確かな気配がある。


「……ここは……?」


イリスが小さくつぶやくと、背後からルヴィアンの声が返ってくる。


「……ここは、王の魂の中だよ。

そしてーー王の“記憶と想念”が閉じ込められた場所……。

すごく深い場所にある。外からじゃ、たぶん見えなかった」


振り返ると、ルヴィアンが穏やかな顔で立っていた。

けれどその目は、強い光を宿している。


彼が前を向いたまま、指さす。


「……見て」


遠く、灰色の空の下に、人影があった。

ただ立ち尽くすだけのその影は、まるで霧のようにぼやけていて、はっきりとは見えない。


だが、イリスは直感で悟った。


――あれが、王。


その魂が、闇に囚われている姿。


「――行こう」


ルヴィアンが、前に立って歩き出す。


二人はゆっくりと歩を進めた。

そのたびに、足元の大地がわずかに波打ち、空気がひび割れる。


ルヴィアンが振り返り、静かに言う。


「近づけば、もっと強い“拒絶”がくると思う。

この闇は、ただの呪いじゃない。……陛下自身の中にある“恐れ”や“悔い”が、鍵になってるんだ」


「……鍵?」


「うん。僕たちは、無理にこじ開けることはできない。

でも――光を灯して、“開けてもいい”と思ってもらえれば……」


「……そう……」


イリスは静かに頷いた。


王が王であるために背負ってきたもの――

そのすべてが、今、闇となって彼を縛っている。


――王の影の周囲に、黒い鎖が幾重にも交差しているのが見えた、その時。

風もないはずの空間に、突如として闇の渦が巻き起こった。


「……来るよ!」


次の瞬間、黒い鎖の一部が牙のような形となって、イリスへと伸びかかる。


だがその直前――

ルヴィアンが眉をひそめ、イリスを引き寄せると片手をかざす。

その手に、光が集まる。


「……大丈夫。

闇よ――退け!」


ルヴィアンは手を横に薙いだ。

放たれた光が、周囲を包み込み、黒い鎖の動きを押しとどめる。


「これ以上近づくのは危険だ。

だけど、君なら、きっと届く」


ルヴィアンの声は穏やかだった。

彼はイリスにすべてを委ねるように、静かに目を合わせると微笑み、そっと手を繋いだ。


ルヴィアンの魔力が、静かに流れ込む。

イリスは、不安な心が次第に落ち着くのを感じた。


イリスは顔を上げると、鎖の中の王の魂へ、そっと魔力を伸ばす。

闇のただ中で、なお消えずに灯る――


ひとつの光が、そこにあった。

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