月が天頂に至るとき
月が天頂を満たした、その瞬間。
淡い光が差し込む執務室の中央に、静かな光の揺らめきが走った。
そこに四人の姿が現れる。
光を払い、音もなくその場に立ったのは――イリス、セフィル、ルヴィアン、そしてラーデン。
「……待っていた」
レオノールはわずかに目を見開き、それから静かに表情を和らげた。
書類の山の前に立っていた彼は、まるで何年も待っていた友を迎えるように、低く言葉を落とす。
月明かりが窓を越えて差し込み、執務机の影に柔らかな輪郭を描く。
「……戻ってきてくれて、ありがとう」
「……レオノール第一王子殿下……」
イリスはその言葉に、わずかに息を呑む。
言葉より先に、彼の“想い”が、胸に触れたような気がした。
レオノールの視線が、イリスの横に立つ人物に移る。
銀の髪、細身の姿。月影に溶けるようなその気配に、彼の眼差しが揺らぐ。
「君が……“陰の鍵守”か――」
名を問うというよりは、確かめるような声音だった。
ルヴィアンはその瞳をまっすぐに見つめ返すと、
静かに一歩前へ出て、深く一礼した。
「……はい……僕が、ルヴィアン、です」
その仕草はどこまでも静かで柔らかく、
それでいて、どこか抗えぬ意志を感じさせるものだった。
レオノールの眉が、わずかに動いた。
視線を合わせるルヴィアンの眼差しには、敵意も畏れもない。
ただ澄んだまなざしで、レオノールを見つめている。
レオノールは一歩、彼の方へと歩を進めた。
「……頭を下げねばならぬのは、私の方だ。
どうか――父を、国王を……よろしく頼む」
そして、レオノールは頭を垂れた。
ルヴィアンは少し目を見張ったあと、優しく微笑んだ。
「……大丈夫です。どうか……任せてください。
僕たちは、癒すためにここに来ました。
陛下の魂に、もう一度、あたたかな光が届くように――全力を尽くします」
その言葉は、慰めではない。
決意、だった。
沈黙の中、レオノールは彼をまっすぐに見つめ返す。
それは、責任を引き受ける者のまなざしだった。
「……ありがとう」
短く、鋭く息を吐き、彼は瞼を伏せた。
窓辺のカーテンが、夜風にそっと揺れ、執務室の奥の扉が微かに鳴った。
それは、王の寝所へと通じる扉。
レオノールがそちらへと視線を向ける。
「こっちだ。……案内する」
その背に、イリスたちが静かに続く。
魂の淀みを解き、真実の目覚めを迎えるその瞬間へと――
すべてを繋ぐために。




