表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星紋の守り手―そして、運命は動き出す。癒しの力と星の記憶―  作者: 高梨美奈子
ルヴィアンの目覚め

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/82

大切な……仲間

夕刻の光へと傾き始める頃。

陽射しは柔らかく、風が花々を揺らし、草を撫でて通り過ぎる。


学園の中庭、その一角にある小さな東屋。

木漏れ日の差すその場所で、イリス、セフィル、ルヴィアン、ラーデンの四人は、

丸い石造りのテーブルを囲んで座っていた。


誰も口を開かないまま、時間だけがゆっくりと流れていた。

聞こえるのは鳥のさえずりと、遠くで生徒たちが笑い合う声だけ。


そんな沈黙を、ラーデンがふと破った。


「……相変わらず、気持ちがいいな、ここは」


空を見上げ、彼はぼんやりとつぶやいた。

風に揺れる栗色の髪。少し目を細めて、微笑んでいる。


「ここだけ、時間がゆっくり流れてるみたいだ」


その声が、張り詰めていた空気をほぐすように響いた。


ルヴィアンが頷いて笑みを浮かべる。


「うん。いい場所だね。

静かで、光がやさしい」


イリスは小さく笑った。

――彼女は、うつむくと右手の指輪を見つめ、静かに切り出す。


「……レオノール王子と、話をしたの」


その言葉に、驚くように三人が目を向け、ラーデンが問う。


「王子と、話を……した?」


「……うん」


イリスはゆっくりと言葉を続けた。


「王家の指輪が反応してくれて……彼と繋がったの。

昼間の執務室の様子も見えた……そして、陛下の容態を聞いたの」


「……”見えた”……だと?」


ラーデンの呟きが、風に溶ける。


「うん……”お互いに”見えていたの。

多分……星の巫女の力が覚醒したからだと思う……」


ラーデンが言葉を失う。


「……陛下は?」


セフィルが問う。


「ずっと、眠り続けているって……。

目を覚まそうとすると、私が触れた“闇”が、暴れる、って……」


ルヴィアンが眉をひそめる。


「”闇”が暴れる……」


「……うん。それで……今夜、王宮に行くことにした。

月が天頂に昇る頃……また、王子の執務室で会う約束をしたの」



一瞬の静寂。

だがその沈黙を最初に破ったのは、セフィルだった。


「行こう、イリス。俺たち四人は揃った。もう、何も迷うことはない」


その言葉に、ルヴィアンが続く。


「……そうだね。王の魂を救わなくちゃいけない。

これは、僕たちが選んだ道だ」


イリスはラーデンを見た。


ラーデンは、イリスと視線を合わせると、黙って頷く。


イリスは、胸がいっぱいになるのを感じた。

この仲間たちの存在が、どれほどの力になっているか──。


「……ありがとう、みんな」


イリスは目を伏せた。

その目に、涙が浮かんだ。


(……今なら――言えるかもしれない……)





イリスは目を伏せたまま、膝の上に重ねた自分の手を見つめていた。

言いたいことがあった。


でも、どこから切り出せばいいのか分からなくて、

胸の中で、言葉ばかりが渦を巻く。


みんなが優しく繋がっているこの時間が、愛おしい。

だからこそ、言わなければならない。


「……あのね……聞いて欲しいの」


全員の視線が、イリスへと向いた。


「わたし……本当は……とても、怖いの」


声が震えた。


けれど唇を噛みしめ、続ける。


「……これから私たちが向かう場所で、何が待っているのかも、

どんな選択をすることになるのかも……全部分からなくて。

でも、それでも進まなきゃいけないって、分かってる。

けれど……」


「――私は“星の巫女”なんかじゃなくて、本当はただの、普通の――」


「違うよ」


それは、セフィルの静かな声だった。


「君はイリスだ。

“星の巫女”だなんて肩書きじゃない。

君が選んで、進もうとしている。それがすべてだよ」


ルヴィアンが頷き、傍らに寄り添うルクスをつと見つめると、

その羽を撫でて言う。


「うん。セフィルの言うとおりだよ。

過去がどうあれ、僕たちは今、君と共にいる。それは変わらないよ」


「……そうだな」


ラーデンがゆっくりと立ち上がった。

東屋の外に一歩踏み出し、空を見上げて軽く伸びをすると、振り返る。


「俺たちは、みんな怖いさ。

でも、イリスが進もうとするなら、俺はその背中を押す。何度でもな」


彼は微笑みながら言った。


「だから、ひとりで抱え込むな。俺たちは仲間だろ?」


イリスの頬に、涙が伝わる。

こらえきれず、でも微笑んだまま、彼女は頷いた。


「……ありがとう……みんな……。

本当に……ありがとう」


その瞬間、風がまた東屋を包み込むように吹き抜けた。

四人の想いを、やわらかく繋ぐように。


夜が、ゆっくりと深まっていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ