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星紋の守り手―そして、運命は動き出す。癒しの力と星の記憶―  作者: 高梨美奈子
ルヴィアンの目覚め

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言葉無き会話

昼下がりの光が、学園の廊下をやわらかく照らしていた。

星脈の扉から戻った翌日――けれど、イリスの心は、すでに次なる戦いを見据えていた。


静かな客間の奥、彼女は窓辺の椅子に座り、そっと右手の指輪に視線を落とした。

レオノールから、彼の”陰”を通じて託された日のことを、静かに思い出す。


王の血に連なる者が継ぐ、王家に伝わる秘宝。


(……確か、王家の血と、星の巫女の力に反応する、と――)


イリスは指輪を胸元に引き寄せ、そっと瞳を閉じた。


(お願い……届いて……)


微かな魔力の糸が張られる。

途端に、胸の奥が震えるような感覚が走った。


奥深くから、応えるような“何か”があった。


(――誰だ)


それは、声なき声。警戒を含んだ気配が混じる。


イリスは心を澄ませる。

言葉ではない、“心”の対話――


(私です、レオノール第一王子殿下。イリス・ヴァレンティアです)


(ーーイリス・ヴァレンティアだと……!

なぜ君がその力をーー?)


指輪が微かに震え、空気の層が揺れる。

イリスは、指輪にそっと魔力を流した。


意識の波が広がっていくと同時に、

まるで水鏡を覗き込むように、景色が意識に流れ込んできた。


そこは、王宮の執務室。

積まれた書類、静かな執務室。窓辺には、午後の陽が差し込んでいる。

資料を手にしたレオノールが、軽く眉をひそめていた。


同時に、レオノールの方でも何かを感じ取ったようだった。

彼の視線がふと宙を見つめ――次の瞬間、その瞳がイリスと重なった。


レオノールの目が、驚愕に見開かれる。


(これは……!何ということだ……!)


声は届かないはずなのに、心の中に確かに響く。

イリスは頷き、心で語りかける。


(はい。レオノール第一王子殿下。

少しだけ、お時間をいただけないでしょうか)







――イリスは語った。


国王の寝所を辞してからの出来事を。


そして――

星脈の泉で覚醒したことも……全て。


(指輪に祈りました。

私がこのように殿下とお話しできるのも、

星の巫女の力が……覚醒したためだと思っています)


一拍置き、イリスはゆっくり問いかけた。


(陛下のご容態は……いかがですか)


レオノールの瞳がわずかに翳った。


(……眠り続けている。

時折、意識を取り戻しそうにはなるが、そのたびに闇の気配が暴れるように揺れる)


(そうでしたか……)


(……陰の鍵守が、目覚めたと言ったな)


(はい。彼は自分の記憶を取り戻して、私たちと一緒にいます。

今度こそ、魂の“闇の根”まで届くはずです)


レオノールの瞳に、ふっと希望の光が差した。


(それを聞けただけでも、嬉しい。

……それで、君は)


(……陛下のもとへ伺いたいと思っています。

今一度、陛下の魂に触れて……今度こそ、救いたい)


イリスの視線がまっすぐに彼へ注がれる。


(……殿下。今宵、殿下の執務室を訪れても良いでしょうか)


レオノールは静かに頷いた。


(もちろんだ……待っている)


そして、ふっと微笑む。


(月が天頂に昇る頃、執務室で待つ。

前と同じ時間だ……覚えているか)


(――もちろんです。

忘れるはずが、ありません)


イリスはふと緊張を和らげ、かすかな笑みを浮かべた。


幻影のように、二人の意識の交差が静かにほどけていく。

けれどその余韻は、温かいまま残った。


──すべての手は、揃った。

あとは、夜を待つだけ。


国王の魂を救うために。

光と影と、星の誓いを胸に。

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