星脈の儀ー魂の誓いー
魔法評議会が動きます!
星紋の塔に刻まれる静寂は、やがて別の形で破られた。
魔法学園の空に、黄金の紋章を掲げた評議会の飛行船――《シルフィオン》が現れたのは、翌朝のことだった。
王都から派遣された使者たちは、魔法評議会直属の執行官であり、
同時に王家の意思を体現する存在。
彼らの目的は明確だったーー
「星の巫女」イリス・ヴァレンティアの確保。
星紋の塔の大広間に響く、厚いブーツの音。
黒衣の魔導士たちが整列し、その中心に立つのは、緋色のマントを羽織った男ーー
筆頭執行官・ラーデン。
「我々は、魔法評議会よりの命に基づき、
この塔に存在する星の巫女候補ーイリス・ヴァレンティア嬢の身柄を保護し、
王都へ護送する。ご協力を願いたい」
静かながらも、有無を言わせぬ口調に、場の空気が凍り付く。
だが、彼の前に一歩踏み出たのは、白銀の髭をたたえた、ゼルファード学園長だった。
「……その判断は尚早だ。執行官ラーデン殿」
「……ゼルファード様。いえ、元議長閣下。
ご健在と伺い、こうしてお顔を拝見できるとは光栄の至りです」
ラーデンは一礼し、言葉を丁寧に整えた。
「その件については、評議会としても細心の注意を払っております。
ただ……覚醒の兆しを示す者を、早期に保護し管理するのが我々の使命かと」
ゼルファードの瞳が鋭く光り、静かに言葉を返す。
「……それが危険なのだ。イリス・ヴァレンティアの覚醒は、いまだ不完全。
彼女の力は、古の封印と共鳴したばかり……。
このまま評議会に移送すれば、力が暴走する可能性すらある」
ラーデンは言葉に詰まり、一瞬視線をそらしたのち、問い返す。
「……つまり、彼女が真に”星の巫女”として目覚めつつあるというのであれば、
その証を――我々にも示していただけると。そういうことでしょうか?」
ゼルファードは頷く。
「――いかにも。イリス・ヴァレンティアをここへ」
執行官たちの間に緊張が走る。
やがて大広間の扉が開き、少女がゆっくりと足を踏み入れた。
淡い金色の髪。少しおびえた瞳。
そして、その右手の甲には星の紋章が淡く輝いていた。
「……来てくれたか、イリス」
ゼルファードが優しく語りかける。
彼女が不安げに頷くと、彼は静かにその背に手を添えた。
「彼女は、我らが守るべき希望だ。
巫女としての真価を示すには、ある場所へ向かわねばならない。
ーー星脈の泉。封印の最深部に眠る、星々と魂を結ぶ地へ」
「……まさか、星脈の扉を?」
「その扉を開けられるのは、
星の巫女にして癒し手の王の魂を受け継ぐ者ーーイリスだけだ」
ラーデンはしばし沈黙したのち、静かに頷いた。
「……良いでしょう。猶予は3日。その間、我々もここに滞在させていただきます」
「感謝する、ラーデン殿」
ゼルファードの表情に安堵が浮かぶ。
こうして、イリスはゼルファードに導かれ、塔の最深部へと向かうことになった。
いよいよ、試練です!