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星紋の守り手―そして、運命は動き出す。癒しの力と星の記憶―  作者: 高梨美奈子
魔法王国――王都アルセリオ

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第一王子――レオノール・ヴァン・アルセリオ

彼は幼い頃から、感情よりも理を好んだ。

熱くなることを恥じ、涙を流すことを覚える前に、「沈黙」を学んだ。


王家に生まれた者として、それは当然のことだと思っていた。


レオノール・ヴァン・アルセリオ――第一王子。


物心がつく頃には、父王から帝王学を叩き込まれていた。


民の上に立つ者は、声を荒げるな。

剣を抜くより、言葉を選べ。

悲しみを語るな。沈黙で抗え――


そうしてレオノールの理性の刃は、極限まで磨き上げられていった。


父王が異変を見せ始めたのは、十二歳の頃だった。

最初は、体調不良。次に、記憶の混濁。


やがて“目”が変わった。視線は虚ろに、返す言葉は空回りするように。

かつての威厳も、明晰な思考も、霧に覆われるように失われていった。


それでも、誰も気づこうとはしなかった。


「お疲れがたまっておられるのだろう」

「年齢的にも、無理はできぬ」


皆がそう言って目を逸らした。


だが、レオノールは見逃さなかった。


彼の“魔法”が通じなくなったからだ。


言葉を使わず、意志を伝える――王家にだけ伝わる秘術。

それが、ある日を境に、父に届かなくなった。


(……魂が、閉じられた――)


レオノールは恐れた。


同じ頃、ディアストレ・ヴァン・エスラ公爵が、レオノールに近づいてきた。

貴族派の筆頭、古より王に続く魔術の家系。


その男は、沈みゆく王の影に寄り添うように立ち、

柔らかい笑みを湛えて、レオノールに囁いた。


「殿下。あなたは王になれる器がある。星の巫女も、鍵守も。

すべてはあなたの掌に集う運命にあるのです。

――私が導きましょう。あなたが、真に王たるその日まで」


それは誘惑の声だった。

しかしレオノールは、耳を貸すふりをして心を閉ざした。


(分かっている。あれは……。

……王の意志を奪い、私を“傀儡”に仕立て上げようとしている)


レオノールは確信していた。


(父上の異変には、絶対にディアストレが関わっているはずだ――

……だが、どうやって?)


――だが、この時のレオノールは、誘惑の声を断つすべを持たなかった。


父を救うには、まだ力が足りない。

王宮の構造も、魔術系譜の根も、すべてがディアストレによって包囲されている。


その中で戦うには――


”甘言に乗せられているふり”をするしかなかった。


レオノールはあえて、彼を重用した。

第一王子たる自身の補佐役、評議会への橋渡し、表向きの権力の均衡――


あらゆる理由を並べて、周囲の目を欺いた。


(父上を救える力が、私にはない)


(けれど……星の巫女なら……)



その希望の名は――イリス・ヴァレンティア。

星の巫女が持つ癒しの力は、光のように魂へ届くという。


ディアストレの使う、“心を蝕む魔術”に対抗しうる唯一の光。

王の魂の奥深くにある“異物”へと届く、たった一筋の道。


謁見の場で、レオノールはあえて冷たく彼女に告げた。


「王家として、君の力を”管理”させてもらう」


その言葉が、イリスをどれほど傷つけるか……わかっていた。

わかっていても、言うしかなかった。


あの男――ディアストレが席にいる限り、

彼女を“道具”として扱っていると見せかけねばならない。


……それが、自分の役目だった。



(君にしかできないことがある。私には届かない場所がある。

すまない……星の巫女……。どうか……あの人を。王を。

父上を……助けてくれ……頼む)


そう願ったとき、彼の魔力が、かすかに揺れた。


自分は、仮面を捨てるわけにはいかない。

まだ“救えていない”からだ。


王を――そして、この国を。


その夜、レオノールは執務机に向かって小さく呟いた。


「星の巫女……イリス・ヴァレンティア。

君にこの手が届かなくても、どうか……私の代わりに、父上を、救ってほしい」


月の光が、静かに書棚の上に降り注いでいた。


その仮面の裏の表情は、誰の目にも映らなかった。

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