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星紋の守り手―そして、運命は動き出す。癒しの力と星の記憶―  作者: 高梨美奈子
魔法王国――王都アルセリオ

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36/82

神殿内――星紋の間

神殿の内部は、外からは想像もできないほど荘厳だった。

天井には星を模した無数の紋章が輝き、

白金の壁には、精霊のような魔力の軌跡が浮かんでは消える。


イリスは、静かな導きに従って、ひとり“星紋の間”と呼ばれる神聖な区画へと通された。


「今宵、巫女様はここで一夜を過ごし、

星の記憶(セレス・メモリア)”との交感を試みていただきます」


案内役の神官がそう言い残すと、音もなく扉が閉じられる。

部屋の中央に、淡く輝く水鏡のような魔法陣が広がっていた。


――“選ばれし星の記憶(セレス・メモリア)、封じられし魂よ。巫女の器に触れよ”――


ふと、誰かの声が耳元で囁いた気がして、イリスはぎゅっと胸元を押さえた。

その瞬間、魔法陣がふわりと光を放つ。


(……なぜだろう。この光……懐かしい)


理由もわからず、涙が滲んだ。

イリスはそっとひざまずき、魔法陣に手を触れた。


そして――意識は、深い深い、眠りのような“記憶の層”へと沈んでいった。






同時刻、ラーデン・ノアクレストは、神殿の地下通路を静かに進んでいた。

そこは一部の高官しか通れない、

王家と公爵家の“連絡通路”だった。


奥の扉を開けると、すでにディアストレ・ヴァン・エスラ公爵が一人、椅子に腰掛けていた。


「ご苦労だったな、ラーデン。巫女の様子は?」


「……順調に“適応”しているようです。

今宵、初めての”星の記憶(セレス・メモリア)”との交感を試みます」


公爵は沈黙のまま、卓上のワイングラスを回した。


「巫女が“正しく目覚め”た場合、我々の計画は次の段階へ移行する」


「王家による“儀式の掌握”ですね」


「……わかっているではないか。

封印に関わる者は、全て王家の管理下に置かねばならない。

巫女も、鍵守も。」


ラーデンの瞳が、一瞬だけ揺れる。


「お前には、引き続き“忠実な”振る舞いを期待しているよ、ラーデン。」


「……畏まりました、閣下」



深々と頭を下げるその姿に、表情の揺れは一切なかった。

だがその心には、確かな怒りと焦燥が渦巻いていた。


ーーラーデンが静かに退出する。


閉じられた扉に向けて、

ディアストレは、ふっと息を吐くと、

自嘲するように呟いた。


「ーー王家の管理下、だと?

…違うな、私の、管理下だ」





水の中にいるような、音のない空間。

イリスはそこで、誰かの声を聞いた。


「……イリス。会いたかったわ。

とうとう……来てくれたのね」


その声は、かすかに震えていた。優しく、哀しく、懐かしい響き。


「あなたは……もしかして?」


「そう。

私は、かつて“星を守った者”。そして、あなたの中にいる“記憶”。

――ニーナと呼ばれていた頃の、魂」


「ニーナ……」


「ついに、ついに……”星環の守り人”と出会えたのね――

あなたは、“星の器”として目覚めようとしているけれど……それだけでは不完全。

――星を開く鍵が必要。そして、“影を抱く魂”も」


「それは……セフィルと……。ルヴィアン?」


問いかけた瞬間、白い光の中に――微笑みながらもどこか哀しい目をした少年の面影が浮かぶ。


イリスははっと息を呑んだ。


「目覚めて、イリス。すべてが動き出す前に――あなたが、選ばなければならない」


光が溢れ、記憶の層が崩れていく。





神殿の鐘が、低く一度だけ鳴った。

それは“星の巫女”が、初めて“記憶に触れた”ことを告げる、神殿の伝統。


その音を聞きながら、エスラ公爵は誰にも聞こえぬ声で呟いた。


「目覚めよ、巫女。さもなくば――」

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