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星紋の守り手―そして、運命は動き出す。癒しの力と星の記憶―  作者: 高梨美奈子
王都への旅路

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紅き剣士の記憶

ラーデン・ノアクレスト。


王家の遠縁に連なる名門の生まれにして、幼き頃より卓越した魔導の才を示した青年。

指先からほとばしる小さな光を、誰よりも早く操った。


基礎魔術の習得も、魔力操作も、周囲の大人たちが驚くほどの速さで身につけた。

その才は、王都でも一握りの者しか到達できぬ高位魔術を、十代のうちに習得していたほどだ。


だが何より、彼の資質を決定づけたのは、

”共鳴体質”と呼ばれる、極めて稀な魔法感応の能力だった。


共鳴体質――


それは、他者の魔力、心の波動、記憶の欠片に対して、無意識に反応してしまう体質。

稀に生まれる者がいる、繊細な魂の器。


対象が感情を揺らせば、自身の心も引きずられる。

対象が魔法を発動すれば、自分の魔力がそれに呼応し、時に暴走する。

さらに深く接触すれば、封印された記憶や魔力の“残響”にまで共振してしまう。


王国においては「極めて危険」でありながら、

「あらゆる記録と魔力にアクセスしうる可能性を持つ者」として扱われる。


しかしそれは、“他者との距離を常に保たなければならない”という、

孤独を背負う体質でもあった。


その力に気づいたのは、まだ十歳の頃。

ラーデンの力は、徹底的に管理されることになった。


彼の力は「使える」ものとして、王家の封印管理計画の一部に組み込まれていた。

もし”影”が再び現れた時、共鳴者であるラーデンを囮にする――そのために。


ラーデンはそれを知りながら、黙して受け入れた。






王宮の魔導審問で保護対象となったラーデンは、

唯一その異質な感受性を恐れなかった、一人の魔導士と出会う。


それが、ゼルファードだった。


威圧ではなく、知識と穏やかさで周囲を包む男。

魔導士の中でも名高いその人物は、少年の内にある脆さを見抜きながらも、それを咎めなかった。


「それは“橋”になれる”力”だよ」


彼はラーデンの中に、“自分と異なるものを恐れず繋ごうとする”、純粋なまっすぐさを見出した。

そして、自らの弟子として彼を引き取り、魔導と精神の制御を教え込んだ。


「怖がってもいい。

だが、お前の中にある“共鳴”は、誰より世界を感じ取れる力だ。

それを誇りに変えるか、呪いにするかは……お前自身の選択だ」


そう語るゼルファードの背中は、ラーデンにとって最初の“光”だった。


共鳴体質を理解し、補助魔術の訓練や心の均衡法、瞑想、魂の静定技術――

ゼルファードは惜しみなく知識を与えてくれた。


彼のもとで過ごした数年は、ラーデンにとって宝だった。

共鳴の苦しみは消えはしないが、それを恐れずに向き合う方法を知った。


「俺は、誰かのためにこの力を使いたい」


そう思えるようになったのは、ゼルファードのおかげだった。





だが、それは長くは続かなかった。


青年となったラーデンに目をつけた者がいた。

王国枢密院の重鎮であり、王家に近い貴族、エスラ公爵――


才ある者を手中に収めることを好む策士だった。


「共鳴体質とは、要するに“感応”の天才だ。

星の巫女に触れ、鍵守に近づき、その力の行方を我が手で見極める。

……お前の役割は決まっている。私の“駒”となれ」


ラーデンは、ゼルファードの元を離れた。

それが、星の巫女と鍵守のためになると信じたから。


公爵のもとで、何も知らないふりをして従順に振る舞う日々。

誰よりも忠実に見せかけて、その目はいつも、未来を見ていた。


(駒のふりでいい。影に立つ、それも俺の選択だ)


心の中でそう言い聞かせながら。


「星の巫女と鍵守……この世界を支える二つの柱がいるなら、

誰の命令でもなく、自分の意志で――必ずこの手で守る」


ゼルファードがくれた言葉があった。


「どんな未来でも、お前が“心から“選んだなら、

それがお前の真実になる」


だからラーデンは今、選ぶ。


駒ではなく、柱のひとつとして――

過去と未来を繋ぎ、光と影を繋ぐ、世界の調停者、”星環の守り人”として。

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― 新着の感想 ―
はじめまして。友人にすすめられ、あっという間に最新分まで読んでしまいました! 途中何度か泣きそうになった場面もありました! これからも楽しみにしてます!
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