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星紋の守り手―そして、運命は動き出す。癒しの力と星の記憶―  作者: 高梨美奈子
王都への旅路

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30/82

飛行船の片隅で 2

窓の外を、雲がゆっくりと流れていく。

かすかにきしむ飛行船の音と、魔力炉の低い唸りが、船内の静けさに紛れていた。


イリスはニーナの手記を胸に抱き、セフィルをじっと見つめる。

聞きたいことは明確なのに、うまく言葉が出てこない。


「……セフィル……。

実はあなたに――聞きたいことがあるの」


イリスは意を決して言葉を紡ぐ。


「ニーナが……書いていたの。

”彼らは、塔の対極に封印され、決して交わることのない隔たりの中にいる”って。

あなたは……知っていたの?」


セフィルの瞳に、大きな戸惑いの影が走り、小さく息を呑む。


「……ルヴィアンが……あの塔に、俺と同じように封じられていたと……?

そんな気配、感じたこともなかった。

どこに……彼は、どこにいたんだ……?」


その名を口にした瞬間、セフィルの瞳が深く揺れた。


「……俺は、彼を置き去りにしたまま目覚めたのか……」


彼の声音には、痛みがにじんでいた。


ぽつりとこぼしたその声に、イリスは言葉を返さなかった。

ただそっと、彼の隣に立ち、窓の外の空を見つめた。


飛行船の軌道の先、遠くに見える雲の切れ間から、微かに光が覗いていた。


セフィルは、額にそっと手をあてた。

思い出せない――けれど、確かに心が騒いでいる。


「……なぜ、思い出せない?」


誰に問うでもない独白が、静かな船内に落ちる。


イリスはそっと隣でその様子を見守っていた。

セフィルは遠い記憶を探るように、瞳を閉じる。


「星紋の塔の中には、俺がいた”封印の間”とは別に……。

誰も足を踏み入れぬ、重い沈黙の場所があったように思う。

けれど、そこに魔力の気配はなかった。

まるで空間そのものが閉ざされていたような……」


セフィルは記憶の奥を、慎重になぞっていく。


「……わからない。

けれど、今思うと、俺が眠っていた場所とは、まったく異なる“気配”が確かに塔の奥にあった。

でもそれは、深い結界に包まれていた。

そうか。あれは、ニーナの力……俺と、分け隔てるための……」


言いながら、セフィルは言葉の意味を自分の中で咀嚼していく。

やがて、確信が形になりはじめていた。


「彼が……そこにいたなら、なぜ……俺は何も……」


「……それは、きっと封印があまりにも強かったからよ。

互いの気配すら遮断されていたんだわ」


イリスの声に、セフィルはゆっくり頷く。


「……もう一度、塔に戻る必要があるかもしれない。

彼がそこにいるのなら、今度は……俺たちが迎えに行かなくちゃいけない」

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