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星紋の守り手―そして、運命は動き出す。癒しの力と星の記憶―  作者: 高梨美奈子
王都への旅路

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託される星の遺産

イリスは箱を開ける。

その箱には――

漆黒の石が嵌め込まれた、繊細な銀細工の指輪があった。

石の周りに、淡く星の瞬きが漂う。


光にかざすと、青白く星型の紋が浮かび上がる。

指に嵌めると、かすかに震えたような気がした。


「これは、”星影の指輪”と呼ばれ、かつて、封印術に長けた者が遺したものとされている。

初代の時代から、この塔に守られてきたものだ。

いずれ君が”選ぶ時”が来たときに、きっと導きになるだろう」


「そんな大事なものを……ありがとうございます。先生」


イリスは深く頭を下げた。





空はまだ淡く、朝焼けが東の空を金色に染め始めていた。

星紋の塔の中庭に、ゆっくりと魔道飛行船(シルフィオン)が降りてくる。


巨大な鳥の羽根を思わせる帆を広げ、静かに停泊するその姿は、

まるで古の神話から抜け出したようだった。


「……準備は、整っているな?」


「「「はっ!」」」


ラーデンが短く告げると、監察官たちが静かに整列した。

彼の緋のマントが微かに風に揺れる。


イリスはその様子を見つめながら、深く息を吐いた。

右手の薬指には《星影の指輪》が、朝の光を受けて鈍く輝いている。


「……もう、出発だね」


そう呟いたイリスの隣に、セフィルが静かに現れる。

彼は一瞬、彼女の手元に視線を落とした。


「……それは?」


「これ? ゼルファード先生が渡してくれたの。

いつか導きになるだろう、って……」


セフィルは言葉を返さず、指輪をじっと見つめる。

黒曜石のような漆黒の石に、ほんのわずかに青白い光が走った瞬間――


「……不思議だな」


「え?」


「……いや、なんでもない」


セフィルは視線を外し、ふっと空を見上げた。

その横顔に、どこか考え込むような影が差していた。


(……見覚えがある。けれど、それはどこで――?)


彼の記憶の奥底、長い眠りの中に沈んでいたある“感覚”が、小さく脈打っていた。


(……ダメだ……思い出せない)


セフィルは頭を振ると、隣に立つイリスを見つめる。


「……イリス。どんな時も、俺は君の傍にいる。それだけは忘れないで」


「うん……ありがとう」


彼女が微笑み返すと、飛行船の扉がゆっくりと開いた。

風が吹き抜け、遠くで鳥の声がした。


星の巫女と鍵守は、再び世界の舞台へと歩み始める。

そして、その手にある指輪が告げる未来は、まだ誰も知らない。

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