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星紋の守り手―そして、運命は動き出す。癒しの力と星の記憶―  作者: 高梨美奈子
闇纏いルヴィアン――選ばれざる者の物語
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闇纏いの誕生

「……ルヴィアン!!」


階段を駆け上がる靴音が、石の回廊に響く。

彼は、嫌な予感に胸を焼かれながら走っていた。

“間に合ってくれ”、ただその想いだけが彼を動かしていた。


ようやく辿り着いたその部屋で、セフィルが見たのは――

影に包まれ、ゆっくりと宙に浮かぶルヴィアンの姿だった。


部屋の中央、影の渦の中に浮かぶのは、もはや“人”とは言えぬ姿だった。

黒い靄が肌にまとわりつき、髪も、衣も、目すらも、闇に染まりかけている。

星々を映していたその瞳には、もはや何も映っていなかった。


その足元で、ニーナが震えながら立ち尽くしている。


「やめろ……ルヴィアン!!」


セフィルの叫びがこだまする。


「戻れ! お前は、そんな存在じゃない! 

ルヴィアン……!! 目を覚ませ! お前は、そんなものに飲まれるような奴じゃない!!」


セフィルが叫ぶ。必死に呼ぶ。

けれど、その声は届かなかった。


ルヴィアンはただ、静かに微笑んでいた。


「セフィル……来てくれたんだね。でも、もう遅いんだ。

僕は……もう戻れない」


「バカなこと言うな!! お前を引き戻すためなら、俺は何だってやる!」


「……ありがとう。でももう……遅いんだよ……」


ルヴィアンの周囲に、黒い結晶のようなものが浮かび始めていた。

まるで世界の法則が崩れ始めているかのように、空間そのものが歪み、軋む音を立てている。


ニーナは、手に持っていた星の紋章のペンダントを握りしめた。

その小さな光が、震えながらも煌いている。


「ルヴィアン……」


ニーナの声は、涙に濡れていた。


「あなたが私の光を守ろうとしたこと、ちゃんと伝わってる。

でも……その方法じゃ、あなたが壊れてしまう」


「もう壊れてるさ。君が“癒し手の王”として覚醒したあの日から……

僕は、君の光を見るたびに、自分が“いらないもの”に思えたんだ」


「“ルヴィアン”!」


その名を呼んだとき、影が一瞬だけ揺れた。

ニーナが、震える手で彼に手を伸ばす。


「私は、……“ここにいていい”って意味を込めてあなたに名を贈ったの!

あなたに生きてほしかったから……!」


ルヴィアンの顔が、苦しげに歪む。


「……その言葉だけで、僕は……生きていけると思ってたよ。

でも……光は、遠すぎた」


黒い結晶が、ついに空間を覆い尽くし始める。


セフィルが叫ぶ。


「ニーナ! 下がれ――!」


影が爆ぜるように空間を裂き、音のない振動が塔を軋ませた。

次の瞬間、ルヴィアンは跳ねるように空を裂き、

塔の外へと、黒い彗星のように飛び出した。


その衝撃で窓が砕け、塔が悲鳴のような音を立てる。


セフィルとニーナが走り出た外――

見えたのは、すでに“世界が呑まれ始めている”光景だった。


燃え上がる村の屋根。

赤く染まる空。


どこからともなく流れてくる血の匂いと、断末魔の悲鳴。

崩れゆく神殿、襲い来る影。


「……こんな……」


ニーナは、膝をついた。


黒い影が、波のように大地を這い、炎とともに人々を飲み込んでいく。

それは破壊ではなく、静かな“終わり”だった。


感情を伴わない、ただの“吸収”。

命という命が、闇に還元されていく。


「……お願い、ルヴィアン……戻って……!」


その願いは風に溶け、答えはなかった。

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