出会いは選ばれし者の間で
第2話、いきます!
階段を上り切った先ーーそこは星紋の塔のなかでも立ち入りを禁じられた最上階だった。
扉には古代文字で《星の記憶、封ぜられし場所》と刻まれている。
そこには、魔法によって封印された書物ーー強すぎる知識や、過去の禁忌ーーが眠る場所と言われている。
そして誰もが近づかない、忌まわしくも神聖な場所。
けれどその日は、何かが違っていた。
扉の前に立ったイリスの胸元、あの魔導書が淡く金の光を放ち始めた。
「……これって……まさか」
扉に手を触れた瞬間、彼女の魔力が脈打つように広がった。
ーーキィィィン……ッ
共鳴音が響き、封印の魔法陣がゆっくりとほどけていく。
光の粒子が舞い、重々しい扉が、まるで意思を持つかのように、静かに開いた。
部屋の中は異様なほど静かだった。
まるで時間すら止まっているかのように空気が張り詰めている。
中央に置かれた石台には、光を宿した大きな魔法石が浮かんでいた。
「……こ、れは……?」
イリスが一歩、近づいたその瞬間。
ーーぱあぁぁぁっ……!!
魔法石がまばゆい光を放ち、部屋全体に銀と金の輝きが広がった。
空間が揺れ、風が巻き起こり、魔法陣が宙に浮かび上がる。
思わず腕で目を覆ったその瞬間、イリスははっきりと感じた。
「来る」
ーーそんな確信めいた気配を。
「えっ……な、なに……!?」
光の渦の中から、ゆっくりと ”誰か” が現れる。
まるで星の雫から生まれたような、月光のような銀髪の少年。
彼はそっと目を開けた。
ーー金色の、深い瞳。
凛とした静けさを纏う彼の視線が、まっすぐイリスを捉える。
「……やっと……会えた」
時間が止まったような沈黙の中で、彼は一歩、イリスに近づいた。
声は低く、けれどどこか懐かしい響きで。
「君が……”鍵”なんだね」
「え……?」
声が震えた。言葉の意味は分からないのに、その響きに心がざわめく。
「俺の名前はセフィル。”鍵守の使い手”。
君の魔力が俺を呼んだんだ」
「私が……呼んだ?」
言葉を紡ぐ彼の瞳が、どこか悲しげに揺れる。
「無意識だったとしても、君の魔力が、君の魂が……俺を呼んだ」
戸惑うイリスに、セフィルはそっと一歩、近づいて言った。
「君が俺を呼んだ。だから俺は君に誓う。
この命は……君の魔法のためにーー生きる」
その瞬間、イリスの胸の奥で”何か”が共鳴した。
その言葉に、なぜか胸が熱くなる。
ずっと前から彼を知っていたような。
ずっと前から彼をーー探していたような。
そしてずっと昔に、誰かと交わした誓いをーー
それが、星と運命に導かれたふたりの始まり。
そしてまだ知らぬ過去と、逃れられぬ未来への、扉が開いた瞬間だった。