ルヴィアンの力
塔の影に隠れた、小さな孤児院で。
三人の子供がいた。
一人は、すでに“星の巫女”としての兆しを見せていた少女ニーナ。
もう一人は、未来の“鍵守”となる安定した力を持つ少年セフィル。
そして最後の一人――影を纏うように、誰とも違う力を持った少年がいた。
「ルヴィアン」
それは、ニーナが彼に贈った名前だった。
名前を持たなかった彼にとって、初めて与えられた“意味”だった。
だがその名前は、同時に彼の運命を縛るものとなる。
*
幼い頃から、ルヴィアンには特別な力があった。
未来に迫る災厄の影を視る力。
そして、人々の心の闇に触れ、共鳴してしまう体質。
その力は、あまりにも未成熟な彼の心を蝕み、
人々の絶望や恐怖の波動を、彼自身が受け止めすぎてしまった。
その頃、ニーナは“癒し手の王”としての力も覚醒し始めていた。
まばゆい光を放つ彼女のそばで、ルヴィアンは自らの内に生まれる闇を知る。
ある日、魔法評議会の陰で密かに議論が交わされた。
「鍵守の適性は、やはりセフィルのほうが安定している」
「ルヴィアンは精神の不安定さと影への共鳴が過ぎる。危険だ」
「しかし、彼もまた見捨てられぬ存在だが……」
評議会は決断した。
鍵守はセフィルであるべきと。
記録にも何も残らない秘密の会議。
――ルヴィアンは、その道から外された。
ニーナはそんな彼に語りかけた。
「あなたにも意味がある。あなたはいつか朝に導いてくれる存在だもの」
その時、彼女はまだ知らなかった。
その名前が、彼を世界の秩序に縛り、封じることになるとは。
名前を持つことで、ルヴィアンは“鍵守にもなれぬ者”として“固定”され、
生きる場所を失っていった。