星紋の庭
遥か昔――星詠みの孤児院にて。
魔力の薄い夕暮れ時。
塔の裏手、星紋の庭と呼ばれる草花の咲く静かな場所で、
少女ニーナは、ひとり膝を抱える少年のそばに座っていた。
「ねえ……どうして、みんなあなたの名前を呼ばないの?」
そう問いかけると、少年はわずかに肩をすくめて言った。
「もともと……名前なんて、なかったんだ。誰にも、つけてもらったことがない」
「それって、寂しくない?」
「慣れたよ。……名前があると、忘れられるのが怖い」
その返答に、ニーナはしばらく黙っていた。
けれど、小さく息を吸って、ゆっくりと彼の手を握る。
「じゃあ……私がつけてもいい?」
少年は驚いたように彼女を見た。
「名前って……そんなに簡単に決めていいの?」
「ううん。本当は、ちゃんと想いをこめてつけるもの。
だからね……ずっと考えてたの。“いつか君に、名前を贈りたい”って」
そう言って、ニーナは満天の空を見上げた。
「……ルヴィアン。夜明け前にだけ見える、小さな星の名前なんだって」
「……ルヴィアン……?」
「誰にも気づかれなくても、そこにちゃんとあって、
ひとりじゃなくて……いつか朝に導いてくれる星」
その瞳はまっすぐで、何の打算もなく、ただ彼のためだけに言葉を紡いでいた。
少年は言葉を失い、しばらく俯いていたが、ぽつりと呟いた。
「……その名前、気に入った。ありがとう、ニーナ」




