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静かなる封印と、囁く闇の声

夜の帳が下りる頃。

魔導飛行船シルフィオンは、星紋の塔上空に静かに浮かんでいた。


甲板に近い司令室で、ラーデン・ノアクレストは、魔力計測盤を覗き込んでいた。

黒衣の礼装の下に魔導軍服を隠し、硬質な指で結界制御に触れている。


何度目かの確認を終えた直後ーー警報が鳴った。


【ピィィィィ――……ッ】


「魔力計測盤、第六層に異常値……? これは……?」


ラーデンの表情が引き締まり、彼の背後に控えていた魔導士たちが顔色を変える。


「波長識別を急げ。……この数値、封印級だ。通常の歪みとは異なる」


「「「はっ!」」」


船体が静かに揺れる。


「……やはり、”鍵守”の覚醒だけでは終わらない。これは”呼応”だ。

星の巫女が目覚めたなら……“彼ら”もまた、目覚めるか」


彼の呟きは誰にも届かない。

だがその声音には、深い覚悟と、過去に触れた者だけが知る、”闇の奔流”への予感が滲んでいた。





同じ頃、魔法学園の学園長室ーー


高く積まれた魔導書と、星図の浮かぶ天球儀が微かに唸りを上げる。

ゼルファード学園長は、薄く開いた魔力窓を通して南東の空を見つめていた。


「……これは……まさか、闇の波動……?」


魔力盤の針が大きく跳ねる。


「“あの子”に向けて、呼んでいる……? いや、違う。

”彼女の記憶”に呼応するように、何かが……外側から、這い寄っている」


天球儀が、突如として逆回転を始めた。

古代星脈の象徴たる光点が、中央で交差し、まるで警告を告げるように煌めく。


ゼルファードの顔に、苦渋が浮かぶ。


「目覚めたか……“闇纏い”」





イリスはひとり、寮の自室で目を閉じたまま膝を抱えていた。

ベッドの上、眠れぬまま時だけが過ぎてゆく。


朝から始めた荷造りも、どう進めたらよいのか分からず、荷物が散乱している。


王都へ行く――彼女の胸は、得体の知れぬ不安に締め付けられていた。


「……怖くなんてない。怖くない、はずなのに」


そう呟いた瞬間だった。

視界が、白く染まり、意識が、落ちるように引き込まれた。





次の瞬間、彼女は黒い霧に包まれた空間に立っていた。

床には濡れたような光が走り、何もかもが沈黙している。


遠くから、誰かの足音が近づいてくる。


「また……君か」


その声に振り返ると、そこにはひとりの少年が立っていた。

黒い外套に包まれ、顔の半分を仄暗い影が覆っている。

だが、その瞳だけはひどくまっすぐで、痛みと哀しみを滲ませていた。


「あなたは……誰?」


そう問うイリスに、少年はゆっくりと微笑んだ。


「忘れたの? 君が……僕を封じたのに」


「封じ……た?」


「君が呼ばなかったから。君が選ばなかったから。

僕はただ……君の隣にいたかっただけなのに。

だから……僕は……壊れた」


冷たくも、壊れそうなその声に、イリスの胸が締めつけられる。

何か、大切なことを置き忘れてきたような痛み。


彼の言葉のひとつひとつが、奥底に眠る記憶の扉を叩く。


その時、空間が淡く歪み、別の光が差し込んだ。

右手の紋章が光る。

ルミナウルが顕れ、威嚇するように旋回する。


「イリス……戻れ」


柔らかな光が空間を裂き、セフィルの声が届く。


「それ以上、彼に近づくな。まだ……間に合う」


光が包み、視界が反転する。


イリスは息を吐きながら、寮の自室のベッドで目を覚ました。

動悸が収まらない。


「……私は……すべてを思い出したはずじゃなかった……の……?」

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