プロローグ
「この箱の中にはね、神様がいるんだよ」
根っからのおばあちゃん子だった私はその言葉を疑いもなく信じていた。
「これは、菫が十八の誕生日になったら開けて手を入れるんだよ」
その言葉は今でも鮮明に覚えている。そして、迎えた十八の誕生日。お母さんたちはこの箱のこと、おばあちゃんの話をただの作り話にしか考えていなかったから、あまりいい顔をしなかった。おばあちゃんの遺品袋の中から箱を取り出す。やっと「神様」に会える。同時に涙が込み上げてきた。おばあちゃんが死んだのは去年。私に見守られながらこの世を去った。他の家族は仕事だったり忙しくて病院に来ることもできなかった。箱の開け方は死ぬ直前に教えてもらった。できることなら「神様」に会った感想を伝えたい。私は意を決して箱を開けた。
カチャ
開けるとそこは階段のようなものが連なっていた。サイズからして指が三本くらいしか入らないような箱だ。私は恐る恐る人差し指を突っ込んだ。すると突然体が浮く感覚がした。
「え?落ちる!!きゃーーー」
私は確かに箱の中に吸い込まれていった。急に足に土台ができた。ゆっくりと目を開けると、そこはさっき見ていた階段だった。
「う、嘘。」
おばあちゃんの言葉を疑っていたわけではない。まさか本当に自分が箱の中にいるなんて想像もできなかった。私は階段を降りていく。私が通過するたびに階段のろうそくに火がともる。階段を降りきったその先には人影が見える。鮮やかな長い藍色の髪。整った顔。その人物は着物をまとっていた。