表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/15

キャシディ 第3章①:駆け抜ける戦場

 夜明け前のまだ暗い森。


 木々の間を縫うように、三つの影が素早く動いていた。

 キャシディ、マキシマス、そしてシルヴェスター。

 彼らの逃避行は、既に数週間に及んでいた。


 寒気が肌を刺す。

 森の湿った土の匂いが鼻をかすめる。

 キャシディは息を切らせながら、一瞬立ち止まった。


 彼女の目には深い疲労の色が宿っていた。

 頬はこけ、服は所々破れ、指先には小さな傷が無数に刻まれている。

 だが、その目だけは未だ強い意志を宿し、前を見据えていた。


「大丈夫かい?」


 マキシマスが彼女の肩に手を置いた。

 その温もりが、かすかに彼女の凍えた体に染み込む。


 キャシディは無言で頷いた。

 だが、その瞳には迷いがあった。

 過去を捨てる覚悟をしたはずなのに、心にはまだ重くのしかかるものがある。


 何度も追っ手に襲われ、何度も戦いを繰り返してきた。

 逃げ続ける日々の中で、自分がどこに向かおうとしているのか、分からなくなる瞬間があった。


 その時。


 静寂を引き裂くように、数人の刺客が目の前に飛び出してきた。

 黒い装束、無駄のない動き。

 彼らの手には、それぞれ鋭い刃が光っていた。


 キャシディは反射的にナイフを構えた。

 だが、指先が僅かに震えていた。


「キャシディ、任務を放棄した者を我々が許すことはない」


 刺客の一人が冷たく言い放つ。


 キャシディは彼らの顔を見た。

 かつての同僚たちだった。

 決して親しい仲間とはいえなかったが、同じ境遇で育ち、同じ訓練を受けた者たち。


 冷たい部屋で孤独に過ごした日々。

 無慈悲な訓練と、ただ生き残るために身に刻み込んだ技術。


 それらが、一瞬にして蘇る。


「私は戻らない」


 キャシディは低い声で答えた。

 以前のような無機質な響きではない。

 だが、そこにはまだ微かな揺らぎがあった。


 刺客たちは躊躇うことなく、武器を構えた。


「ならば排除する」


 一斉に襲いかかる刺客たち。


 キャシディは身を翻し、ナイフを振るった。

 鋭い刃が闇を裂き、迫る攻撃を受け流す。

 その動きは相変わらず正確で、無駄がない。


 だが——どこか迷いがあった。


 刃が交わるたびに、彼女の心の中で葛藤が渦巻く。

 敵対するはずの相手は、かつての自分と同じ者たち。

 感情を殺し、命令に従うだけの存在。


 まるで、過去の自分自身と戦っているようだった。


「……私たちは、同じだった」


 キャシディは呟いた。

 それは、敵にではなく、自分自身に向けた言葉だった。


 それでも——。


 彼女は刃を握り直し、目の前の刺客に向き直る。


「でも、今はもう、違う」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ