キャシディ 第2章③:新たな生き方
シルヴェスターは静かにキャシディを見つめていた。
燃えるような瞳には、彼女の内面を見透かすかのような鋭さが宿っている。
「キャシディにはまだ準備ができていないようだ」
落ち着いた口調だったが、そこには否定でも拒絶でもない、ただ事実を告げるような響きがあった。
マキシマスが僅かに息を呑む。
シルヴェスターは一歩前に進んだ。
その声は森の静寂に溶け込むように低く深い。
「キャシディをエニグマから解放したいのなら、まずキャシディ自身が運命を選ばなければならない」
キャシディは困惑したまま、シルヴェスターとマキシマスを交互に見つめる。
選ぶとはどういうことなのか。
これまで命じられることが当たり前だった彼女には、その言葉の意味がすぐには理解できなかった。
マキシマスはふと視線を落とし、再びキャシディの目を真っ直ぐに捉えた。
「君の道を決めるのは君自身だ」
深い静けさが漂う。
森の中の空気が張り詰め、ただ風のざわめきだけが遠くに響いていた。
「キャシディ、君には選択する権利がある」
選択。
その言葉が、彼女の胸の奥に沈み込んだ。
「エニグマに戻るか、それとも私たちと共に新しい道を歩むか。それは君次第だ」
キャシディは息を詰まらせた。
彼女の目に映るのは、シルヴェスターの厳しくも温かい瞳と、マキシマスの優しい眼差し。
「選択? 私に、そんな権利が?」
声が震える。
自分で決めることなど、今まで考えたこともなかった。
マキシマスがそっとキャシディの手を取る。
その手は温かく、迷いを受け止めるかのようだった。
「君には選ぶ権利がある。そして、どちらを選んでも、僕は君を支える」
柔らかな言葉が、冷えた心を静かに溶かしていく。
キャシディの胸の奥に、微かな何かが生まれ始めるのを感じた。
けれど、すぐには答えを出せなかった。
選ぶことの重みを、これほど実感したのは初めてだった。
「私は……」
声にならない言葉が、唇の奥に引っかかる。
彼女の中に、新しい感情が生まれようとしていた。
それが何なのか、まだ分からない。
けれど、このままではいられない。
キャシディはゆっくりと顔を上げた。
マキシマスが静かに微笑んでいる。
シルヴェスターは何も言わずに待っていた。
そして、彼女は決意を込めて言った。
「私は、新しい道を選びたい」
その瞬間、森の風が優しく吹き抜けた。
キャシディの頬を撫でる風は、どこか新鮮な感覚を伴っていた。
シルヴェスターは静かに頷く。
「その選択が、お前の新たな人生の始まりだ」
彼の言葉が、まるで祝福のように響いた。
キャシディは自分の胸に手を当てる。
鼓動が静かに高鳴っていた。
これは恐怖ではない。
今まで知らなかった、新たな一歩を踏み出す感覚だった。