キャシディ エピローグ②:丘から見た光
柔らかな日差しが、丘のふもとに建つ孤児院を包み込んでいた。
白い壁と赤い屋根の建物の周りには、色とりどりの花が咲き誇り、子供たちの笑い声が風に乗って運ばれてくる。
キャシディとマキシマスは、孤児院の玄関前に立ち、目の前に広がる光景を静かに見つめていた。
庭では、様々な年齢の子供たちが元気に遊んでいる。
彼らのほとんどは、大災害後の混乱で身寄りをなくした子供たちだった。
孤児院の日々は、穏やかで温かいものだった。
朝はキャシディが作る栄養満点の朝食で始まる。
テーブルを囲みながら、子供たちはわいわいと賑やかに食事を楽しむ。
「お母さん、おかわり!」
元気な声が上がると、キャシディは優しく微笑みながら「たくさん食べてね」と応じた。
昼はマキシマスが子供たちに読み書きや算数を教える。
彼の優しく分かりやすい説明に、子供たちは目を輝かせて聞き入る。
「先生、わかった!」
小さな男の子が嬉しそうに叫ぶと、マキシマスは「よくできたね」と頭を撫でた。
午後には、庭で鬼ごっこやかくれんぼが繰り広げられる。
マキシマスやキャシディも時々参加しては、子供たちと一緒に走り回った。
夕方になると、みんなで協力して夕食の準備をする。
包丁を使う年上の子が野菜を切り、小さな子はテーブルを拭く。
その光景は、まるで大家族のようだった。
夜はキャシディとマキシマスが子供たちにおとぎ話を聞かせる。
暖炉のそばで、子供たちは目を輝かせて物語に聞き入った。
「そして、王子様とお姫様は幸せに暮らしました」
マキシマスが語り終えると、子供たちから「もっと聞きたい!」という声が上がる。
就寝時間になると、キャシディが一人一人にキスをして「おやすみなさい」と優しく声をかけた。
子供たちは安心して眠りにつく。
そんな日々の中で、子供たちはすくすくと成長していった。
彼らの笑顔はみな輝いていた。
「見て、あの子たちの笑顔」
キャシディは感慨深げに言った。
マキシマスは優しく微笑んだ。
「ああ、本当に素晴らしいものだ」
やがて子供たちの輪に赤子のトリアが、そして親を亡くしたハロルドが加わった。
甘えん坊のトリアはよくキャシディに抱きついてくる。
ハロルドは最初こそ自分の殻に閉じこもっていたが、マキシマスが根気よく向き合うことで、次第にトリアや他の子供たちと打ち解けていった。
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黄昏時、キャシディとマキシマスは小さな丘の頂に立っていた。
夕日が地平線に沈み、空は深い赤紫色に染まっている。
遠くには、灯りのともった孤児院の姿があった。
中からは子供たちの笑い声が微かに響き、温かな気配が丘の上まで届いていた。
丘の上には、小さな石碑がひっそりと佇んでいる。
キャシディはそっと膝をつき、静かに祈りを捧げた。
風が吹き抜け、草花を揺らしていく。
石碑の表面に落ちた夕日の光が、どこか穏やかに見えた。
マキシマスはキャシディの隣に立ち、彼女を見守るように目を閉じた。
言葉はなかった。
だが、二人の間には確かな理解があった。
沈みゆく太陽が空を染め上げ、夜の訪れを告げる。
丘の上には、静寂が広がっていた。
キャシディは立ち上がり、孤児院の灯りを見つめた。
その目には迷いはなく、ただ未来へと続く道を見据えていた。
マキシマスもまた、彼女の隣で同じ光を見ていた。
やがて、二人は静かに丘を下りていく。
彼らの後ろに続く足跡は、やがて夕闇に溶け込んでいった。
fin.




