キャシディ 第4章③:INTO THE LIGHT
大聖堂に張り詰めた空気が漂う。
キャシディは周囲の議論を聞きながら静かに目を閉じた。
彼女の心の中で、新たな想いが形を成していく。
——私は、何のためにこの力を手にしたのか。
——この力を、誰のために使うのか。
幹部たちの動揺と混乱、そして恐怖。
そのすべてを感じながら、キャシディは深く息を吸った。
ゆっくりと目を開き、真っ直ぐにマキシマスを見つめる。
「マキシマス」
彼女の声は静かだったが、その響きには強い意志が宿っていた。
「私が進むには、あなたが必要です」
マキシマスは驚いたように目を見開いたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
キャシディは続ける。
「あなたと共に歩むことで、私はこの力を真に理解し、使いこなせる。だから、私を信じてください」
その言葉に、マキシマスは一瞬だけ目を伏せ、そして深く頷いた。
彼の手がキャシディの手をしっかりと握る。
「キャシディ、君の意志を尊重しよう。その力が正しく用いられるように」
二人の手が触れ合った瞬間——
突如、大聖堂全体を震わせるほどの魔力が溢れ出した。
まばゆい光が二人を包み込み、その輝きが天井のステンドグラスを突き破るかのように広がっていく。
幹部たちが息を呑む。
「な、何だ……?」
光の中で、キャシディの「|INTO THE LIGHT」とマキシマスの強大な魔力が融合し、新たな力が生まれようとしていた。
「これは……」
まるで、天と地を繋ぐかのような力の奔流。
キャシディとマキシマスの周囲で、魔法陣が共鳴し始めた。
それは、二人の意志と力が繋がった証。
—— DOUBLE REC——
未完成ながらも、その片鱗が僅かに垣間見えた瞬間だった。
大聖堂全体が、聖なる光に包まれる。
それは闇を打ち払い、新たな時代の到来を告げるような、神々しい輝きだった。
幹部たちは、立ち尽くした。
まるで、信じがたい奇跡を目の当たりにしたかのように。
「これが……彼女の真の力……?」
誰かが震える声で呟く。
光が徐々に収まっていくと、キャシディとマキシマスはゆっくりと互いを見つめた。
彼らの瞳には、これまでにない確信と希望が宿っていた。
しかし、静寂を破ったのは、幹部の一人の怒声だった。
「この女の力は危険すぎる!」
男は叫びながら杖を振り上げる。
「今のうちに殺して、その力を封印すべきだ!」
他の幹部たちが戸惑いの表情を浮かべる中、別の男が慌てて遮った。
「馬鹿か!そんなことをしてみろ、我々が真っ先に消されるぞ!」
彼の声には、恐怖が滲んでいた。
幹部たちの間で論争が始まる。
彼らの顔にはもはや威厳などなく、焦りと混乱だけが浮かんでいた。
「しかし、このまま彼女を放っておけば——」
「ならば従わせればいいではないか!」
「どうやって? 彼女を拘束する術など持っていないのに?」
「それでも、彼女の力を我らの支配下に置かなければ——」
その言葉を遮ったのは、マキシマスだった。
彼は一歩前に出て、静かに口を開いた。
「皆様、ご自身の発言がいかに無謀か、ご理解なさっておりますか?」
その一言で、大聖堂内に再び沈黙が訪れた。
マキシマスは淡々と続ける。
「キャシディを従わせるとおっしゃいますが、一体どのような手段をお持ちですか?」
幹部たちの顔が一斉に強張る。
「彼女の力は、すでにあなた方の制御を超えています。これほどの魔力を抑え込む術は、どこにも存在しません」
さらに一歩、マキシマスは前へ進む。
「では、殺すおつもりですか? それこそ、無謀を通り越して愚行というもの」
幹部たちが息を呑む。
「彼女は、自らの意志でここに立っています。命令ではなく、自身の選択で」
マキシマスの言葉には、一切の揺らぎがなかった。
「皆様は、支配することしか考えておられない。しかし今ここで皆様がすべきことは、やみくもに力を恐れるのではなく、彼女を理解し、あなた方自身の未来を選ぶことではないでしょうか?」
幹部たちは、誰も言葉を発しない。
「キャシディは、もう縛られる側の存在ではありません」
マキシマスは、最後に静かに告げた。
「彼女を抑え込む術も、殺す覚悟もないのであれば、彼女を縛ることなど到底叶いません。あなた方はそれを認めるべきだ」
沈黙。
もはや幹部たちに、明確な答えを持つ者は一人もいなかった。




