キャシディ 第4章②:秘められた力
キャシディの宣言と、それを後押しするマキシマス、シルヴェスターの言葉は、幹部たちに衝撃を与えた。
キャシディの放つ光はますます強まり、魔法陣全体がその輝きに包まれつつあった。
長老が杖を握り締め、震える声で問いかけた。
「キャシディ、お前は本当に我々の元を離れようというのか?」
キャシディは迷うことなく答える。
「私は、ここに縛られるつもりはありません」
かつての自分なら、この言葉を口にすることさえできなかっただろう。
だが今、彼女は確信をもって言い切る。
「私はもう、誰かの命令に従うだけの存在ではありません」
その瞬間、彼女の光がさらに強まり、魔法陣の文様が輝きを増していく。
マキシマスが前に出る。
「彼女は自らの力を知り、それをどう使うかを決めました」
シルヴェスターが静かに続ける。
「彼女の力は本来、暗殺のためのものではない。それをここにいる者たちが歪めてきただけだ」
幹部たちの間で動揺が広がる。
一人が声を荒げた。
「だが、キャシディの力を解き放つことは危険だ! このまま見過ごせば、何が起こるかわからない!」
別の幹部も同調する。
「そうだ!彼女を放つなど馬鹿げている。我々の管理下に置くべきだ!」
シルヴェスターが低く、しかし鋭く言い放つ。
「お前たちはまだそんなことを言うのか」
幹部たちは息をのんだ。
「管理する? それは力を押さえつけることと同じだ」
シルヴェスターは大聖堂を見渡しながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「これまで、お前たちはどれだけの者を支配し、利用してきた?」
誰も答えない。
「キャシディだけではない。お前たちは、どれだけの者に『忠誠』を強要し、どれだけの者を意のままに操ってきた?」
大聖堂の空気が張り詰める。
幹部たちは互いに視線を交わしながら、答えを探すように口ごもる。
「そしてその果てに、一体何を得た?」
シルヴェスターの声が、大聖堂に低く響いた。
「今、この場にいる者の中で、自らの意思で戦っている者はどれだけいる?」
幹部たちの顔がこわばる。
その沈黙が、答えだった。
「……つまり、そういうことだ」
シルヴェスターが静かに言い放つ。
「お前たちは、人の心を縛り、ただ従わせることで秩序を保とうとしている」
幹部の一人が息を詰まらせながら反論する。
「だが、それが組織というものだろう。強い力を持つ者が支配し、それに従うことで秩序が守られるのでは?」
シルヴェスターは、その言葉を聞いて微かに笑った。
だが、それは嘲笑ではなかった。
「それが秩序か。 ならば、今ここにいる者たちは何に怯えている?」
幹部たちの顔色が変わる。
「お前たちの言う秩序が本物ならば、キャシディがこうして立っていることに恐怖を抱くはずがない」
長老が口を開こうとするが、シルヴェスターはさらに続ける。
「力ある者が秩序を決めるなら、今ここで最も強い力を持つキャシディこそが、お前たちの言う支配者ということになる」
シルヴェスターの言葉が大聖堂に響いた。
「だが、お前たちはそれを認めようとはしない。なぜなら、お前たちはただ自分たちの地位と名誉を守りたいだけだからだ」
幹部たちが静まりかえる。
彼らにはシルヴェスターの言葉を否定することができなかった。
「お前たちが守ろうとしているものは、本当に秩序なのか?」
幹部たちは誰も答えない。
それは、彼ら自身が認めざるを得ない現実だった。




