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キャシディ 第1章①:暗殺任務

 月明かりが静かに窓辺を照らしている。

 その光は、薄暗い部屋の中でぼんやりとした輪郭を描きながら、静寂を際立たせていた。


 一人の少女の影が壁に落ちる。

 彼女は窓辺に佇み、手の中で小さなナイフを弄んでいた。


 刃先が冷たく光る。

 無意識に指先を滑らせながら、その軌跡で空中に見えない記号を描く。

 それはまるで、意味のない呪文を刻むようでもあり、無言の対話を続けているかのようでもあった。


 少女——キャシディは、まだ十代とは思えないほど冷徹な目つきで、夜の街を見下ろしていた。

 彼女の長い髪は、月の光を浴びて銀色に輝き、その姿に幽玄な美しさを添えている。

 しかし、それは同時に、どこか危険な雰囲気も孕んでいた。


 しばらくの間、静寂が続いた。


 やがて、ノックの音が響く。

 その音は、夜の静寂を切り裂くように短く、力強かった。


 ドアが開くと、一人の男が姿を見せた。

 彼は無駄のない動きで部屋へと足を踏み入れる。


「キャシディ、仕事だ」


 彼女は振り向くことなく、淡々と答えた。


「標的は?」


 男は無言のまま、一枚の写真を机の上に置く。


「エニグマの高位魔術師で、危険な男だ。彼の存在は幹部魔術師にとって都合が悪い」


 キャシディは写真を手に取り、じっと見つめた。

 そこに映っていたのは、温厚そうな表情の男だった。

 目元には優しさが滲み、冷酷な敵というよりは、ただの学者のようにも見える。


「なぜ彼を?」


 思わず口をついた疑問。

 それはほんの一瞬の迷いだったが、自分でも意識するよりも早く声になっていた。


 男は険しい目つきでキャシディを見据える。


「忘れたか? 質問は許されない。お前の役目は、命令を遂行することだけだ」


 冷たい声。

 それはあまりにも当たり前の言葉で、今さら問い直すまでもないことだった。


 キャシディは、一瞬だけ視線を落とした。

 しかし、次の瞬間にはすでにその迷いを振り払い、表情を引き締める。


「承知した」


 それ以上の言葉はなかった。


 男は何も言わずに踵を返し、ドアを閉めて去っていく。

 足音はすぐに遠のき、再び静寂が部屋を満たした。


 キャシディは窓辺に立ち、再び月を見上げる。


「任務か……」


 小さくつぶやいたその声には、何の感情も含まれていなかった。


 彼女は無駄のない動きでナイフを鞘に収め、黒いマントを羽織る。

 その姿はもはやただの少女ではなく、暗殺者としての貫禄すら感じさせた。


 部屋を出る前に、キャシディはもう一度、机の上に置かれた写真を見た。

 標的の顔をしっかりと脳裏に刻み込む。


 そこには、一つの名前が記されていた。


「マキシマス」

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