竜の一族
いま第二章なんですけど、もう少しだけ第二章が続きます。
「やあ、こんにちは」
おいおい⋯。こいつ、いつからそこにいた?俺の気配察知ですら、声をかけられるまで反応しなかった。⋯いや違う。目の前にいる今でさえ反応していない。隠蔽系の能力が俺の気配察知よりも高いって事だ。
ミカさんも気付いてなかったが、何よりシルクちゃんが尋常じゃないぐらい威嚇している。ミカさんの前に立ち、まるでこれ以上近付かせない様にしている。
というか目の前の広い円形エリアがボス戦だと思うのだが、まさかそこのボスがここまで出てきた?近くにポータルストーンがあるとはいえ、本当に安心できるのか?いや、考えるよりもまずは言葉を返さないと。ここで黙ったままだと、不愉快だと思われてもヤバい。
「こんにちは⋯と言いたいところですが、盗み聞きとは感心しませんね。いつからそこに?」
「別に盗み聞きするつもりはなかったんだよ?でも僕、耳が良いからね」
「ちなみに聞きますが、何処から聞いてました?」
「ミカさん、少しここで休憩していきませんか?」
「ほぼ最初からじゃねぇーか!」
「ここは言わばボス戦前のセーフティルームだよ?そんな場所で「いつもありがとうな?」とかこっちがビックリしちゃうよ」
「やめろー!」
くそっ!こいつを口封じに始末してやりたいが、明らかに格上なんだよな。
「でも最後は雰囲気良かったねー。聞いてるこっちが恥ずかしかったよ?」
「じゃ聞くなよ」
ミカさんも恥ずかしいのか、顔を赤らめて下を向いてるし。
「で、結局あなたは何者なんですか?」
「僕は竜の国の風竜一族なんだ。ちなみに竜の国の門番をしているよ。君達がこの森に入った時から気付いていたし、ここまで来たって事は竜の国に入りたいんでしょ?なら僕と勝負して勝たないといけないのだけど、君達なかなかボスエリアに入ってこないしさー、なんかイチャイチャしだすし」
「いやイチャイチャしてませんよ。ミカさんもなんか言ってやってくれ」
「えっ!?えと⋯その⋯イチャイチャしてるように見えましたか⋯?」
「うん、見えたね」
「カップルってこういう風に見えるんですかね⋯?」
「いや俺に聞かれても⋯」
「る、ルヴァンシュさんは私とカップルに見られて嫌でしたか?」
「そ、そりゃ嫌じゃないよ。むしろ嬉しいっていうか。⋯⋯って何の話ですか?」
「ほら!隙あらばすぐイチャリだす!」
「いやイチャリだすって何ですか」
「イチャイチャの略だよ。これ流行ると思うんだ!イチャル」
「なんか⋯すこし卑猥な言葉に聞こえますね⋯」
「はぁー⋯」
話が全く進まない。だが分かった事もある。竜の森に来る前にミカさんから聞いた、この森の迷宮を突破すると、凄く強いドラゴンがいるってのは、このドラゴンの事だろうな。
さっきも思ったが、このドラゴンの口封じをしてやりたいが、このドラゴンから滲み出る魔力、そして圧倒的な存在感が勝負してはいけないと俺の警鐘が大きく鳴っている。
どんな者でも魔力は少なからずある。小さい赤ちゃんでもだ。それを感じ取れる様になるのが魔力察知だ。
魔力察知は敵が魔法を撃つ瞬間、魔力の流れを察知するパッシブスキルなのだが、実はもう一つ効果がある。
それが魔力の質で強さが分かるという事だ。どういう事かと言うと、魔力察知を意識すると、相手の魔力に色が付く。魔力の色が濃ければ濃いほど敵は強く、色が薄いと敵は弱いという事だ。要は魔力察知である程度、自分の適性レベルにあった魔物なのかを判別してくれる。
よくMMORPGのゲームで、敵の名前が真っ赤になっている事があるが、それは自分よりも遥かに強いレベルの魔物で、貴方にとって強すぎるから適正の魔物ではないと教えてくれている。
逆に白や黄緑っぽい色をしている名前がいるのだが、白は自分と同程度レベルの魔物で、貴方にとって適正の魔物、黄緑は自分よりもレベルが低い魔物で、貴方にとってレベルが低すぎて弱いから適正の魔物ではないと教えてくれている。
この魔力察知での、魔力の質で魔物の強さが分かるというのはこういう事だ。もちろん魔力の質が濃いから絶対に勝てないという訳ではない。あくまで自分よりもレベルが高いというだけで、倒せる事も出来る。
俺はレア掘り周回で、ずっと格下を狩っていたから、あまり気付かなかったんだよな。呪いの剣ですら確か白だったはず。
ちなみにだが、プレイヤーはこの魔力の質で強さを測るのはほとんど出来ない。まぁプレイヤーのほとんどが魔力遮断スキル持ってるからな。
とまぁ、魔力察知にはそういう能力がある。自分よりレベルが高くても倒せる可能性があると分かっていて尚、手を出せない。だってあのドラゴンの魔力の色⋯⋯真っ黒だ。ミカさんは気付いてるか分からないけど、怒らせたらヤバそうだ。
「すいませんがドラゴンさん?」
「ドラゴンさん?僕の事かい?」
「他に誰がいるんですか」
「それもそうだね!でもドラゴンさんは嫌だね。他人みたいじゃないか」
「いや他人でしょ」
「何を言ってるんだい!こうやってお話しているんだから、もう友じゃないか!そこのお嬢ちゃんもそう思うだろ?」
「え、えと⋯どうなんでしょう?」
「友って言われても、名前も知らないし」
「確かにそれもそうだね。失礼した、僕の名前は風竜一族のウィルナード。気軽にウィルって呼んでくれ!」
あっさり名前を教えてくれたな。竜の国の番人とはいえ、悪い人じゃないのかな?
「俺はルヴァンシュです」
「わ、私はフォルミカです!」
「ルヴァンシュ君にフォルミカちゃんか!良い名前だね!それで君達は――僕と戦うのかい?」
ゾクリと背筋から汗が噴き出す。返答を間違えれば即殺すと言わんばかりのプレッシャー。誤魔化せば容赦ないと言われている様でもある。大丈夫、俺達は戦いに来たんじゃない。それだけ伝えれば良いだけだ。だが何故かすぐに言葉が出てこない。俺は声を振り絞って
「お――」
「戦いません!私達は他に目的がありますので!」
ミカさん!?す、すげぇー!あのプレッシャーの中で、こんな堂々と言えるのか!そう言われて、ウィルナードから放たれていたプレッシャーがフッと消える。
「⋯⋯なぁーんだ!それならそうと言ってくれよ!てっきり戦うとばかり思っていたから、戦うなら早く終わらしたかったんだよ!」
「そ、それは勘違いさせてすいません」
「でもフォルミカさんは面白いね」
「面白い?」
「うん!僕の竜威圧を間近で受けて尚、堂々と喋れるなんてね!普通はもう少し怯えるよ?」
竜威圧ってのを使っていたのか⋯。正直、喉にナイフを突きつけられている様な感覚だった。VRゲームとはいえ、本当に死ぬんじゃないかと思ってしまった。
「それは⋯私にも引けない覚悟があったので!」
「なるほどねー!まぁでも、驚かしてごめんね?僕と戦いたい人達なら、今の竜威圧でビビって退散するかなって思ってたんだよ。竜の国の番人とは言っても、戦うのは面倒だからねー」
そう言いながら、俺の近くまできて、俺の耳元で「ねぇビビった?ビビったでしょー!」と小声で呟いてくる。
あぁビビったよちくしょう!正直動けないぐらいビビったから、そこを突いて面白がるな!なんて性格の悪い悪竜だ!
心で悪態をつくが、何も言わず黙ってやり過ごす。反論したらまた遊ばれそうだからだ。俺のだんまりを一通り楽しんだウィルナードは俺から離れる。
「それで?他に目的があるって言ってたけど、その目的ってなに?ここは僕ら竜族の庭みたいなもんだから、力になれるかもしれないよ?」
「ウィルさん――「ちょっと待って」――はい?」
「そのさんとか敬語やめないかい?僕達はもう友だろ?」
いや友だろって言いながら、さっき戦うと言ってたら問答無用で殺しに来ただろうし、竜威圧でビビらして、友を追い返そうとしてませんでした?なんか逆らえない人に、無理やり俺達は友達だろー?とか言われてる気分だわ。だが機嫌を損なうと何するか分からないので、反論できない。
「分かったウィル」
「ウィルさん、私はこのままでいいですか?」
「どうしてだい?」
「この喋り方の方が喋りやすいからです」
「んーなら仕方ないね!さっ、ここに来た目的を話して?流石に竜の国の情報を探すみたいなのは力になれないからね?」
って事でここに来た目的をミカさんが話す。この竜の森に生息している蜂の様な魔物を探している。俺はその付き添いって事を伝える。
「その、蜂ってのはどういう虫なんだい?」
ふむ。虫って単語は知られているけど、蜂っていう単語は知られてないのかな。そんな質問にミカさんは地面に蜂の絵を描く。おぉ!上手いな!
「あぁー!甘いミツを作っている魔物の事だね!確かにあれもハチミツっていうね!」
「知っているんですか!?」
「もちろん!何処にいるかもね」
「ウィル、何処にいるか教えてくれないか?」
「いいよ!力を貸してあげる!ただし、条件がある」
「条件ですか?」
竜が出す条件か⋯。なんか難しそうだな。簡単ならいいが、もし難しいなら自力で探すしかないか。
「そんな身構えなくてもいいよ。簡単な条件だからね。でも、条件を言うと、なんでそんな条件?と言われるから、先に少し話をさせてくれ。風竜一族ってのは旅が大好きでね、基本的に風の赴くままに旅をしているのさ。その土地の特産品を見たり、美味しい物を食べたりするのが好きなのさ」
「素敵な趣味ですね!」
「だろ?でも最近、異界の探索者、異邦人が増えてね」
異邦人?それってプレイヤーの事か?
「君達も異邦人なんだろ?」
「何で分かるんだ?」
「そりゃ、魔族であるリビング一族とハーメルン一族が一緒にいるなんて、おかしな話だろ?」
そりゃ確かに。同じ一族同士ならまだ分かるが、別の一族の者達が一緒に旅してるのは不自然だな。
「異邦人が来る前の世界は、多少いざこざがあれど、竜一族が介入する事が無いぐらいには平和だったのさ。僕達が風の赴くままに旅が出来るぐらいにはね。でも異邦人が多く増えた事で、この世界にどんな影響があるか分からない。なんせこんな事は数千年という歴史を見てきた竜帝様でも初めてだって言ってたしね」
まぁそりゃ、リリース日なんてこの世界の住人からすれば何のこっちゃだし、異邦人が雪崩込んで来るなんて思わないだろうな。
というか竜帝?なんか凄いキーワードみたいなの出てきたな。とりあえず話は続くみたいだし、黙って聞こう。
「だからね、竜一族は世界を監視するという、本来の役目に戻ったのよ。おかげで旅も出来なくて、ここで番人をしているってわけさ」
「な、なるほど」
これってまずいんじゃないのか?旅ができなくなって異邦人を恨んでるとかある?
「勘違いしてほしくないんだけど、異邦人が増え、旅が出来なくなったといっても、異邦人を憎んでるわけじゃないよ。旅をしていた時の僕達は、言わば長い休暇を取っていただけって事。竜帝様も認めてくれてたしね」
「長期休暇的な?」
「そういうこと!本来の役目に戻る事については否応は無いんだよ。でもね、さっきも言ったけど僕達風竜一族は旅が好きなんだよ。特に僕は旅先での景色や風景よりも、美味しい物を食べるのが好きなんだ!」
食べるのが好き?もしかして条件って⋯⋯
「異邦人ってのは言わば、違う世界から来た探索者だろ!?なら違う世界の食べ物!料理!食べてみたい⋯!」
ちょ!?急に強風が!ウィルが興奮してるのか分からんが、吹き飛ばされそうなんだが!?ミカさんなんてシルクちゃんが糸を使って、ミカさんが飛ばされないように守っているし、早く止めさせないと!
「ウィル!ちょっと落ち着け!」
「⋯⋯ん?あーごめんごめん!ちょっと興奮して口から風が」
ドラゴンだから口から火なら分かるが風って⋯。流石風竜。シルクちゃんもウィルの前に言って前脚を上げて威嚇というなの抗議をしている。
「ごめんってばー。まぁもう分かったと思うけど、力になる条件は美味しい食べ物を食べさせてほしいってこと!僕いまここの番人だから動けなくてさー。あっ、別にこの世界にある美味しい食べ物でもいいし、君達の世界の食べ物でもいいよ!出来れば君達の世界にある食べ物がいいね!」
俺達の世界にある食べ物か。つまり俺達の世界にある料理でも良いって事だろ?それなら余っている料理が大量にあるからな!
「そういう事なら、俺に任せろウィル!」
「本当かい!?」
「俺は歩く食糧庫と言われているからな!」
さぁ、いざ吐き出さん!俺の余りし食料を!必ず満足させてみせよう!
読んでいただきありがとうございますm(_ _)m




