似た者同士
ミカさんが来るまで散策がてらアインスルトを観光しているのだが、アインスルトの目玉はやはり魔王国第三図書館なんだろう。それ以外は目立ったところはあまりない。
歩いていると気になったのだが、アインスルトは研究者が多い街だ。あとアインスルトというか魔王国は、人間プレイヤーでも国に入っていいので、人間の探索者もそれなりにいる。魔物ばっかの街を想像してたが、魔物と人間が共存してる街って感じだ。
目玉が図書館しかないとはいえ、市場はそれなりに活気があるな。
「そこの鎧の騎士さん、魔牛はいらないかい?」
鎧の騎士って俺だろうな。まぁ種族がリビングナイトアーマーだから騎士に見えても普通か。
「1つ貰おう」
「ありがとう。1本500シルだよ」
やはりこういう市場ってのは食べ歩きをしながら見て回るのが楽しい。満腹度を回復する料理は大量にあるが、ついつい買ってしまう。
店の人は魔牛って言ってたけど、焼き鳥みたいな感じで売られている。味をつけ、焼いた牛の肉を串に刺して売っている。こういうの牛串って言うんだけど、店員の人は魔牛だけしか言ってなかったな。
恐らく店員の人は味をつけ、焼いた肉をただ串に刺して売っているだけだから、料理名とか何もない感覚なのだろう。だから料理名というか何の肉なのかしか言わないのかな。普通なら魔牛の牛串とか言うのだろうが、ここは言わば異世界だから牛串って言葉がないのかも。
ちなみにお金はある。少し前に風の草原のダンジョンで手に入れ、ワールドマーケットに出してた土の結晶とガマの油が全て売れてて、650万になった。
メティスに借金してたお金220万(獣の鎧の足りない分と高級馬車)を返したから、今は430万ぐらいあるからな。
俺は魔牛の牛串を食べながら市場を抜け、そのまま散策していると
「いい加減にしろ!」
んー?なんだ?男の怒鳴り声がする。周りを見渡して見ると、プレイヤーらしき男二人がエルフ?っぽい俺様系男と喧嘩している。
「いい加減にしろって俺様はあの可愛子ちゃん達からもう手を引いてるんだぜ?」
「なら何故、今度ご飯を食べる約束なんかしてるんだ!」
「おかげで予定が狂っちまっただろう!」
「そりゃ可愛子ちゃん達からの誘いを断るなんて事が出来るわけないだろ?誘ってきたのは可愛子ちゃん達からだ」
「それは手を引いてないと同じだろ!」
「今すぐご飯の誘いを断われ!」
「ん〜?もしかして嫉妬か?可愛い美女、美少女からの嫉妬は嬉しいが、野郎達に嫉妬されても嬉しくないぜ…」
「な、何だと!?」
「あの可愛子ちゃん達が好きなら、もっと積極的になれよ。じゃないといつか誰かに盗られるぜ?例えば…俺様とか?なーんてな、だぁーはっはっ」
そう笑いながら踵を返し、去っていくエルフっぽい男だが
「お前ぇー!」
「もう許さねぇ!」
野郎二人組が剣を抜きエルフっぽい男を後ろから斬りつける!が――
「おいおい、後ろを向いてる男を斬りつけるなんて、ダサい真似するじゃねぇの。男の嫉妬は犬も食わないぜ?」
何だあれ!?水魔法か?水が生き物の様に動いて、二人の剣を防いでる。
「くそっ!」
「やれやれ、俺様が忠告してやってるのに救えねぇなぁ。まっ、この性格じゃダサ男君達に振り向かないのも納得だわなー」
「貴様達、何をしている!」
野郎二人とエルフ男が言い合いをしていると、アインスルトの衛兵達が走ってきた。誰かが通報したのかな?
「何って俺様、この野郎共に襲われたのよ」
「なっ!?ちがっ!」
「俺達は何も――!」
「違うわけねぇだろ。周りに見てる人がいんぞ」
すると一人の衛兵がこちらにくる。しまったな、こうなるなら無視して離れればよかったか。面倒に巻き込まれたな。
「すまないが鎧の騎士殿、彼の言ってる事は本当か?」
「⋯⋯彼の言ってる事は本当だ。やろ――そこの二人組が彼に斬りかかり、それを彼は防いだだけで、彼は何もしていない」
「なるほど、ありがとう。だそうだが?」
俺の言葉に野郎二人組は俺を睨む。そんなに睨んでもダメだぞ。確かに俺が野郎共の立場なら腹立つが、ここはアインスルトの街だ。街中で剣を抜いちゃダメだよな。
って事で衛兵達に連れてかれる野郎共。さて、野次馬も多いしさっさと離れるか。
⋯⋯⋯
⋯⋯
⋯
さて離れたのは良いものの、散策もほとんど終わったな。特にやることも無いし、忘却叡智の墓所のボス前に戻るか。散策してから1時間ぐらいか。後はどうするかなーと考えながら歩いていると
「そこの鎧の騎士さんよ」
その言葉に俺は振り向くと、さっきのエルフっぽい男がそこに立っていた。しっかしこのエルフっぽい男、近くで見るとめっちゃ顔立ちが良いな。
確かこのゲーム、顔とか体型はほとんど弄れないはず。体型をシュッと見せたり、顔をそこそこの青年や美女にしたりとかは、元々AWFに備わっている機能だからな。
だがこのエルフっぽい男はそこそこどころではない。街頭インタビューで100人の女性に、このエルフは格好いいかと聞いたら、間違いなく100人とも格好いいと言うだろう。男の俺ですら嫉妬してましまうぐらいイケメンだ。だからこそ、さっき言い合いしていた男二人組には同情する。
「なんだ?」
「あんたプレイヤーだろ?さっきは助けてくれて感謝するぜ」
「別に助けたわけじゃないが」
「えっ!?俺様が可哀想だから助けたんじゃねぇのか?」
「むしろあの二人組に同情してるな」
「おい、そこは俺様が可哀想だからと言ってくれよ。俺様ショック〜」
何だこの軽そうな男は。俺とは正直、相性が合わなそうな人だな。早めに会話を終わらせよう。
「あんまりガッカリしてなさそうだけどな」
「まぁな。まっ、またどっかで会ったらよろしくな」
そう言いながら去っていく。またどこかで会ってもよろしくされたくないが。だが意外だったな。もっとダル絡みされるかなと思ったけど、案外あっさりしてた。そういえば名前聞いてなかった。まぁ聞いてもどうせもう喋る事はないだろ。んじゃ、忘却叡智の墓所のボス部屋まで戻るか。
………
……
…
「ルヴァンシュさんこんばんは!」
「ミカさんこんばんは」
忘却叡智の墓所のボス部屋前に置かれている、メティスの何処でもセーフティルームに戻ってのんびりしているとミカさんがログインしてきた。ミカさんも変わらず、この何処でもセーフティルームでログイン、ログアウトしてるみたいだ。
「調子はどうですか?」
「ようやく一個ゲットしてな、今はのんびりしてるよ」
「それはおめでとうございます!すごく時間が掛かりましたねー」
「そうだなー。正直、一個出すのに一週間以上は流石に大変だな。でもそれに見合った性能で、レア度もレジェンドで――」
「そうなんですか!それで――」
「んで、こういう事なんだ!あとは――」
「凄いですね!じゃあ――」
「ってな感じの効果で、もうめっちゃ嬉しくてさ!」
「ふふっ」
「ミカさん?」
「あぁ、ごめんなさい。貴重なアイテムを集めるのが本当に好きなんだなって」
しまった、グイグイ話しすぎたか。趣味の話になるとついつい話しすぎてしまう。ちょっと恥ずかしいな。
「すまない、少し夢中になって話しすぎた」
「違うんです。たぶん私が虫の話をしている時も、今みたいに夢中になって話をしているのだろうなって思ってしまって、何だか自分と似ているなって、嬉しくて笑ってしまいました」
好きな物はお互い違えど、好きになって夢中に話すとこは似てるか。似た者同士で嬉しいと言ってくれるなんて、照れるな。俺もミカさんと似た者同士で嬉しいけど、それを言葉に出すのはちょっと恥ずかしい。
「そ、そうか。そういえばミカさんは俺に何か話したい事があったんじゃないのか?」
「あっ!そうなんですよ!実はですね、このアインスルトで虫の情報を集めていたら、近くの森に虫の魔物が出るっていう情報を聞きまして」
「なるほど。その森に行きたいと?」
「はい。ルヴァンシュさんと一緒に行きたいなと……あの…その…ダメですか?」
ぐっ!?その下からの上目遣いが可愛すぎる!そして何故かウルウル目になっている。心の準備なしに唐突にこんな事されると、まともにミカさんの顔を見れないけど、俺の顔が鎧兜でまじで感謝だわ。
ちなみに従魔のシルクちゃんはミカさんの頭の上に乗って、ミカさんみたいに上目遣い?で俺を見上げてる。なんかミカさんに似てきてない?
まぁ答えはもう決まっている。当然手伝うだな。というか旅に出る前に約束したからな。ようやくミカさんに少しは恩返し出来るのだから願ってもない事だ。
「約束したからな。当然良いに決まっている」
「本当ですかっ!?」
「あぁ。それにいつも助けてもらっているから、むしろ手伝わせてほしいぐらいだ」
「ありがとうございます!」
「そういえばメティスは一緒に行くのか?」
「メティスちゃんも誘ったのですが、今回はパスするって言ってました」
気を使ってくれたのかな?俺が少し前に、ミカさんに感謝の言葉を伝えるのは恥ずかしいと言ったからか?
メティスには気軽に言えるのだが、ミカさんにはなんか緊張するんだよな。ミカさんと二人でいる時でこれなのだから、メティスと三人でいる時なんかは以ての外だ。まぁ、だからこそメティスは気を使って二人になれるようにしてくれたのだろう。メティスに感謝だな。
「そっか、それは残念だな。なら二人で行こうか」
「はい!」
「ただ、もう少し待ってくれないか?もうすぐ健康タイマーの時間だ」
「分かりました!では待ってますね!」
VRヘッドギアにログインしてからもう5時間ぐらいだ。いまは19時ぐらいだから、次は20時からログインする。
読んでいただきありがとうございますm(_ _)m




