周回は一人で黙々とするより、誰かと話してた方が楽だ
初めてミカさんとメティスとで忘却叡智の墓所のボス、動く呪いの剣を攻略してから6日が経った。
攻略した後は時間も結構良い時間なので、三人でお喋りしてログアウトした。メティスはまだ起きてるって言ってたけど。
あの日は色々と濃かったもんだ。メティスをパーティに誘い、そこから馬車の旅だ。そして、忘却叡智の墓所攻略と。その後にじゃ、周回始めますかという気持ちになれなかった。なので次の日から周回を始めた。
森熊周回や、ロックゴーレム周回もそうだったのだが、お目当てのレアが出るまで何体倒したとか、何体目で出たとか記録するのも楽しい。
まぁ中には周回するけど、記録はしないって人もいる。例えば500回でレアが出たとして、またそのレアを出す時にあと何回とか、あと半分か…みたいな事を思うのが嫌な人もいる。
記録を付けてる人の中には、周回を習慣付けてる人もいるのだとか。例えば1日100回するという意味で記録を付ける人。後は正確にどれぐらいの確率で落ちるかを調べる為とか。
配信しながら周回してる人は、誰かの道標として何回で出たのを記録する為とかね。
俺は別に誰かの為に記録しているわけじゃないけど、これだけ頑張ってレアを出したという事を、後で記録を見ながら思い出したいから。それを見て懐かしんで、大変だったと振り返りたい。
でも記録って結構励みになるんだよ。前回はこれだけ周回したんだから、今回のは余裕だろうなみたいなモチベーションになるし。まぁ記録を付けるのは楽しいってのもホントだけどな。
さて、6日分のリザルトを思い出しながら整理しよう。
まず毎日14時間の周回をした。朝は9時に起きて、朝食を食べて30分ジョギングをしたらAWFにログインして周回。ちなみにあの時のおばあさんはやっぱりいなかった。
昼12時にログアウトして昼食、13時にログインして19時にログアウト。夕食を食べて20時からログイン、深夜の2時まで周回してログアウトし、就寝。こんなローテーションだ。
この6日間で動く呪いの剣を狩れた数は883体。1体狩るのに大体5分ぐらい掛かるのだが、これは俺が何回も倒してタイムを縮めた結果だ。
初日は8分ぐらい掛かってた。まぁ一言でいうとすげぇ面倒な敵だ。まず大死霊を倒さないと呪いの剣は動かない。
エルダーレイスを無視して呪いの剣を攻撃したのだが、どういう訳かダメージ判定がない。つまりエルダーレイスを倒さないと、呪いの剣とは戦えないという事だ。
不幸中の幸いは、エルダーレイスが俺の念動からの不意打ちスラッシュを毎回覚えていない事だ。前の戦闘を覚えていたとしたら、もっと時間が掛かっただろう。
で、エルダーレイスを倒したら本命の呪いの剣だ。まずソロでどうやったら倒せるか、模索するのに時間が掛かった。
まず呪いの剣は不意打ちの攻撃ですら剣と剣が打ち合った判定になる。つまり、どれだけ隙を作っても意味がない。
呪いの剣自体の攻撃は普通にいなせるのだが、それでは全く進展しなかった。目も慣れてきたし、回避で攻撃を躱してた時に攻略法を見つけた。
呪いの剣が突進のような突きを回避したところ、壁に呪いの剣が突き刺さった。俺はその瞬間を見逃さず、叩き割る様に剣を振り下ろし、攻撃するとダメージが入った。
まぁこれを数回繰り返すと倒せるというギミックだ。呪いの剣が刺さった時に、鋼戦鎚でも攻撃してみたが、そこまでダメージは変わらなかった。
ちなみに、空間属性を武器に付与してスラッシュで攻撃しても、ダメージが少し上がったぐらいで大して変わらなかった。呪いの剣が壁に突き刺さった時に攻撃を与えた時のダメージはある程度決まってるようだ。まぁ魔法を当てた時はどれぐらいダメージが入るかは分からない。俺達のパーティに魔法使いはいないからな。
つまり、まずエルダーレイスを空間属性+スラッシュで一撃で倒して、呪いの剣を壁に突撃させて、突き刺さってるところを叩き割る。これを、4回繰り返せば終わり。
周回1日目にこの倒し方を見つけるのに結構時間がかかったからな。倒し方が分かれば、後はどれだけ時間を詰めれるかだ。
エルダーレイスを空間属性+スラッシュで倒せる時は大体3分ぐらい。MP切れの時ならスラッシュ2回で大体5分ぐらい。
ちなみにMP回復ポーションを買おうか迷ったが、そもそもお金なかったわ…と諦めた。
この呪いの剣はタイムが安定しない。エルダーレイスを空間属性付与出来るか問題もあるが、一番の問題は呪いの剣の攻撃パターンがランダムだという事。
呪いの剣の突進を誘発しないといけないのだが、まぁこれが狙って出来ないのだ。デレる時もあるが、デレない時は6分以上掛かる。
そんなこんなで6日間、883体のリザルト
◆動く呪いの剣
・呪いの剣の破片 アンコモン
・闇の結晶 アンコモン
・呪いの血 レア
・??? ???
はい、実はまだレア装備はまだ出てません。ちなみに普通の装備ならレア度は表示されているのだが、ユニーク以上だとレア度も?になるのだとか。つまりこの装備はユニーク以上確定である。
とはいえ、6日間周回してまだ出ないとは相当レアドロ率が低いな。まぁメティスからかなり出にくいとは聞いてたから、覚悟はしていたが。
俺はこの6日間周回していたが、ミカさんやメティスがどうしているかというと、ミカさんはアインスルトを満喫したり、アインスルトから程近いダンジョンに赴き、シルクちゃんや自分のレベル上げをしているとか。
離れていてもボイスチャットは何時でもできるからな。俺も最近はボイスチャットで話しながら呪いの剣をしばいていたし。
メティスはアインスルトを拠点にして錬金活動したり、このアインスルトの人達と交流しているみたいだ。メティスにとってプレイヤーよりもNPCと喋ってる方が気が楽なのだとか。
俺は金策の為に、このアインスルトから当分は動かないから、ミカさんやメティスを縛ってないか心配だったが、二人とも結構楽しそうだ。
色んなとこをもっと旅したいかなと心配になってたが、そもそも俺は蒐集家としてプレイするって決めている。それを承知でパーティになってくれている二人なのだから心配する必要はないのか。だが、まだまだ周回は続きそうだ。そんな事を忘却叡智の墓所のボス部屋前で考えていたら
「周回は順調なの?」
「メティスか。順調…なのかな?もうすぐで900体だ」
「やっぱりなかなか落ちないのね」
「確かにこうもでないと辛いが、ミカさんやメティスがいてくれてよかったよ。正直俺だけならやめてたかもな。だからありがとな」
一人で黙々と周回するより、誰かと話しながらしてる方が精神的に楽なんだよな。だからこそ二人の存在はかなりデカい。
「き、急になんなのよ…」
「こういう時しかお礼を言えないと思ってな」
今は深夜の1時30分ぐらい。ミカさんはすでにログアウトしているから俺とメティスだけだ。ミカさんがいる時はなんか恥ずかしくて言えないからな。
メティスはログイン中、ほとんどアインスルトの街にいるが、どこでもセーフティルームをボス部屋前に置いてくれているから、俺はそれについても感謝している。ちなみに今はどこでもセーフティルーム内のリビング?でお互い椅子に座ってのんびりしている。
「そういう事なら感謝されてあげるのよ!」
「ははっ、感謝されてあげるってなんだよ」
「君、それは蟻ちゃんには言ったの?」
「いやまだだな」
「ちゃんと蟻ちゃんにも言うのよ?」
「分かってる。けどなんか、ミカさんには言うのが恥ずかしくてな…」
「蟻ちゃんには?それって私に言うのは恥ずかしくないってことなの!?」
「ほら、メティスはなんか…何でも話せる友達みたいな感じっていうかさ。外見幼女だけど」
「最後の言葉余計だけど、まぁ褒め言葉として受け取るのよ」
メティスが照れながら言って、少しの沈黙が流れる。こういう落ち着く時間はいいな。するとメティスの口が開く
「こんな事を聞くのは失礼だと分かっているのだけど、君はいつもログインしているのよね?仕事はしてないの?」
「あー仕事か…」
「ごめんなさい。こういうゲームでリアルの話なんてタブーだと思うのよ。でも気になってしまったのよ…。その…さっき何でも話せる友達みたいって言われたから、君の事をもっと知りたくて…」
そう言いながら下を向き、申し訳なさそうな顔をするメティス。こういうオンラインゲームでリアル事情を聞くのはあまり良しとしない。だからこそのこの顔なのだろう。
だがメティスの性格上、知りたくても知る事が出来ない事を良しとしないだろうな。言うなれば、知りたいという気持ちに嘘をつけないのだろう。
確かにタブーな質問だが、逆にメティスは俺の事を知ろうとしてくれているのは嬉しい事だ。
「そうか、なら少し話すよ。俺は運送会社の営業部で働いていたのだが――」
………
……
…
「あの勅使河原の…すまない、社長のバカ息子がもう少しまともならな」
「それは災難だったのね」
「悪いな、愚痴みたいになってしまって」
少し話すつもりが20分ぐらい話してしまったか。しかも最後は愚痴みたいな事も。メティスはその話を遮らず、最後まで聞いてくれた。ありがたいが少し申し訳ないことをしてしまったな。
他人の愚痴なんて聞いてもつまらないなんて俺もよく知ってる話だろ。会社の後輩や先輩の愚痴を酒の席で嫌というほど聞かされたものだ。
そういう人達の話は、話半分に聞くのが正解で、相手もただ愚痴を聞いてほしいだけなんだよ。たまに相槌を打ち、たまに共感してあげると相手も気持ちよく話す。だからこそ聞いてる側の気持ちはよく知ってるはずなんだけどな…。
「別にいいのよ。君の事を知りたいと言ったのは私なのよ」
「そう言ってくれるならありがたい。悪いがそろそろ健康タイマーが迫っている。そろそろ落ちるわ」
「お疲れ様なのよ」
「お疲れ様。じゃまた明日」
俺はどこでもセーフティルームに横になりログアウトする。
「また明日なのよ」
そう呟いたメティスの顔は少し綻んでいるが、その顔を知る者は誰もいない。本人のメティスでさえも。
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