忘却叡智の墓所
ダンジョンストーンでワープしたところは小さな小部屋になっていて、周りは石の壁で特に何もない。あるのは大きく、ボロい木の両扉があるだけだ。
だがその両扉も朽ち果て、所々に穴が空いており、その隙間から見えるのは朽ち果てた図書館といったような様相である。画面左下にミニマップがあるのだが、そのミニマップにこの隠しダンジョンの名前が表示されている。
忘却叡智の墓所、それがこの隠しダンジョンの名前。名前の通り、人々の記憶から忘れ去られ、ここを訪れる者はこの世ならざる者だけか。とまぁそれっぽい事を考えたけど、俺が興味あるのはレアなアイテムだけだな。
「メティス、その金策のレアアイテムを落とすのはここのボスなんだろ?」
「そうなのよ。私は戦闘職じゃないから道中は任せたのよ」
「ちょっと不気味ですね〜。私怖いのダメなんですけど…」
「安心するのよ蟻ちゃん。例え幽霊でもこの世界では倒せるのよ!」
「墓所と書いてるけど、敵はゾンビとかスケルトンとかじゃないのか?」
「どうなのかしらね。私も最低限の知識しか入れてないから、敵の種類もボスの名前も分からないのよ。全てを知ってから来るなんてつまらないのよ」
「だな」
「シルクちゃん!眷属召喚!」
「ギチチ!」
早速ミカさんの従魔のシルクちゃんが卵を産み落としている。今回は非戦闘員のメティスがいるから正直仲間は多いほうがいい。俺もメティスを肩に戦うのはやり辛いからな。シルクちゃんの眷属でメティスを護衛出来ればそれが一番安心だろう。
ちなみに俺とミカさんの歩幅はメティスの歩幅が違うから、移動はどうしようかなと
思っていたら、眷属蜘蛛の上にメティスが乗っちゃってるよ。なんか浦島太郎がウミガメに乗ってる光景が思い浮かんだ。
眷属蜘蛛と言っても大型犬並みにデカいし、最初はメティスも抵抗してたけど、眷属蜘蛛のフサフサな毛の誘惑にまけて素直に乗っている。もちろん壁とかも移動できるけど、それだとメティスが落ちそうになるから極力地面を移動する形だ。
「さっ、行くぞ。魔物誘引で魔物が集まってくるだろうから注意してくれよ」
俺の言葉にミカさんが頷く。俺はボロい木の両扉を開けて先を進む。いきなり大きな部屋か。少し暗いが暗視があるから問題ないな。暗視はミカさんもメティスも持っているので、二人も大丈夫そうだ。
大きな部屋の隅には本棚があるのだが、中央辺りには何もないな。恐らく戦闘の邪魔にならないように何も無いのかもな。
っと、早速気配察知に反応が。遠くから敵が近付いくる気配だ。
「敵が遠くから近付いてくる。準備は――」
「君っ下なのよ!」
「えっ?」
「これは…」
地面というより床からゾンビやスケルトンが湧き出てくる。ちっ!厄介な!俺はすぐさま剣を握り――
「囲まれるぞ!《回転斬り》!」
「《力の音色》!《防御の音色》!シルクちゃん、眷属ちゃん硬糸!」
俺の回転斬りでゾンビやスケルトンを纏めて倒して、シルクちゃんと眷属が硬糸で切り刻んでいく。
流石、シルクちゃんと眷属だ。今眷属は11匹で、1匹はメティスを乗せて、5匹はメティスを護衛。もう後の5匹は戦闘に参加している。護衛に5匹は過保護かと思うが、戦闘要員の5匹でも十分に押し返してる。
スケルトンやゾンビが弱いってのもあるけど、やっぱこの能力チートじゃね?まぁこちらとしては助かるが、問題は数だな。こいつら際限なく出てくるぞ!
「くっそ、キリがねぇ!おらっ!」
「まだダンジョンストーンから出た部屋なのに、数が多すぎて前に進めません!」
風の草原のダンジョンも魔物誘引で数が集まってきたが、だがここは風の草原の比じゃないレベルで敵が沸く。しかもリポップか知らんがそこら辺でリポップするから次から次へと――っ!?
――ドォーン!
「火魔法!?大丈夫ですかルヴァンシュさん!」
「問題ない!」
「厄介なのよ!ゾンビやスケルトンで私達の動きを止めて、火魔法で周りのゾンビやスケルトンごと焼き尽くすつもりなのね!」
隠しダンジョンとはいえこんな厄介な戦法を使ってくるのかこのダンジョンは!だが、幸い魔法防御はSPで結構振ってるから大したダメージじゃない。
火の魔法は蜘蛛には恐らく大ダメージだろう。ここは俺が前に出て、先に魔法を撃ってくる敵を倒すのがいいか。
「ミカさん!俺は前に出て魔法を撃ってくる敵を倒す!ミカさんはメティスを護ってほしい!」
「わかりました!」
俺はそう言うと走り出す。目の前の敵だけ倒して周りは無視だ。どこだ?魔法を撃ってくる敵は。そんな事を考えながら走っていると、俺の視界の右端に赤い光が光ったのを捉える。その直後、また火魔法が飛んでくる。
「見つけたぞ!」
俺は火魔法を受けながら魔法を飛ばしてくる敵に向かって走る。魔法を飛ばしていた正体はスケルトンメイジ!
「《スラッシュ》!」
スケルトンメイジ、この辺りに結構固まっているな。すべて倒しておこう。
「おっし、これで――「きゃぁー!!」――ミカさんの声!次は何だ!?」
ミカさんの周りにはシルクちゃんに眷属がいるはずだ。数で押されそうになっても、最悪メティスの護衛眷属も戦いに参加させれば何とかなるはずだが、あの悲鳴は何かイレギュラーが起こっていることなのだろう。
俺はすぐさまミカさんの場所まで走って引き返す。見えた!なんだあれは?ミカさんの周りを人型の何かが浮遊している。敵だとは思うが、浮いているのか。なら
「《念動》!からの《スラッシュ》!――なにっ!?」
念動で浮かせた剣をスラッシュで浮遊している敵を斬り裂いたが、手応えが全くなかった。斬り裂いた身体が修復されていく。
「君!こいつはレイスなのよ!物理攻撃は効かないのよ!」
「ちっ!こいつも厄介だな!」
「わ、私のシルクちゃんは魔法攻撃なんて覚えてません!」
「なら、《空間属性付与》!《スラッシュ》!」
空間属性付与を施した剣を念動で浮かせ、スラッシュで斬り裂くとレイスは真っ二つになり、それ以上復活することはなかった。
「よしっ!」
「すごいですルヴァンシュさん!」
「だけど喜ぶのは早いのよ!」
部屋の奥から更にレイスが5体、こちらに向かってくる。くそっ!空間属性付与は消費MPが激しい。今の俺のMP総量なら5回は使えるが、この先もレイスが出てくるとなると連発は出来ない。
かといって放って置くことも出来ないし……仕方ない。
「ミカさん、メティス、一度引き返そう!」
「そ、そうですね!」
「仕方ないのよ」
ダンジョンストーン付近は魔物誘引効果は無いから、一旦そこまで戻る。とは言っても、すぐそこだから撤退自体は問題なく出来た。
「墓所と書いてたから、まぁ何となく予想してたけど、敵は死霊系か。みんな体力とかは大丈夫か?」
「私はレイスに少し削られただけで大丈夫です!」
「私も眷属蜘蛛がレイスの攻撃を避けながら走り回っていたから体力は減ってないのよ。ただジェットコースターみたいで怖かったのよ」
壁とか走らないっていう条件だから動き回るしかなかったのだろう。
「しかし、あのレイスはどうする?結構厄介なのだが」
「それにはいい考えがあるのよ」
「いい考えですか?」
「そうなのよ。君には前にも話したけど、魔法攻撃でしか倒せない魔物がこの世界にはいるって言ったの覚えてるの?」
「あー覚えてるな」
「魔法攻撃でしか倒せない魔物を物理攻撃で倒せるアイテムがあるのよ」
「メティス、それもうちょい早く言ってほしかったのだが」
「レイスがこっちに来て眷属蜘蛛から一気にジェットコースターになったから言えなかったのよ!」
「な、なんかごめんね…」
まぁメティスはメティスで眷属蜘蛛に振り落とされないように必死だったのだろう。
「で、その物理攻撃で倒せるようになるアイテムってのはどうやったら手にはいるんだ?」
「それは私が錬金で作るのよ!」
「錬金術を見れるんですか?楽しみです!」
「材料はなんだ?持ってたら渡すぞ?」
「別にいいのよ。ワールドマーケットで買うのよ。別に大した素材じゃないし」
といいながら、メティスは持ち運び錬金釜を出す。
「メティスちゃんの5分アルケミー!」
「なんか始まったな」
ミカさんはすごく興味津々で拍手までしているな。
「まずは錬金釜にワールドマーケットで購入した神聖の水をいれるのよ!」
神聖の水、確か首都ノルジストの大教会から無料で手に入れることが出来る。大教会で無料で手にはいる物をワールドマーケットに売るなんて、大教会の人達が知ったらめちゃくちゃ怒りそうだな。
ちなみに無料で手に入るから、神聖の水はそこまで高くない。神聖ユースティア皇国でも簡単に手にはいるのだが、いちいち汲みに行くのが面倒だからワールドマーケットで買ったのだろうな。
「次にワールドマーケットで買った妖精の朝露を入れるのよ!」
「なんかレアそうな素材だけど高くなかったのか?」
「これも簡単に手に入る素材なのよ。まぁでも、妖精の国まで行けたらの話なのよ」
「妖精の国があるのですか!?いつか行ってみたいですねぇー!」
「妖精の国は魔族領から近いところにあるから、いつかは行けると思うのよ」
ちなみに妖精の朝露は、妖精の国のそこら辺に咲いてる草花から普通に採取できるし、妖精の国で普通に売られているのだとか。
「最後にワールドマーケットで買った清められた塩を入れて、後は5分間かき回すのよ!こまめに温度調整とか、かき回すスピードとか変えないといけないから、注意するのよ!まぁ錬金術を齧ってる人なら常識なのよ」
ちなみに清められた塩は死霊系、特に霊的な魔物から簡単にドロップする。レイスもその一匹だな。
………
……
…
「って事で完成したのよ!二人に渡しておくのよ」
そう言いながら、小瓶に入った液体を渡される。ちょっと鑑定して見るか。
・聖水(高品質) レア
妖精の朝露で魔力を持ち、塩で清められた聖なる水。聖水を振りかければ、悪霊なら浄化し、物なら一定時間魔力を宿らせる効果がある。
「これシルクちゃんに掛けたら、シルクちゃんにも魔力を宿らせる事ができるのでしょうか?」
「流石に無理と思うのよ」
ミカさんはシルクちゃん聖水を掛けてみるが、案の定効果はなかった。掛けて効果があるとしたらシルクちゃんの糸なんだろうけど、現実的ではない。ミカさんはサポート役で武器は笛だしな。つまりレイスは俺が処理しないといけないってことか。
「この隠しダンジョンを攻略するなら、もっと聖水がいると思うのよ。もっと作るから時間が欲しいのよ」
「それもそうだな。今は18時ぐらいか。健康タイマーもあと1時間で時間がくるし、ここで一回落ちてもいいな」
「そうですね!でも、ダンジョンストーンの近くで安全だと思いますけど、このまま落ちるのは少し不安ですね」
そうなんだよな。いつもは宿屋で落ちるからな。今から宿屋を探しに行くのもいいのだが
「安心するのよ!この日の為に課金して買っておいた物があるのよ!その名もどこでもセーフティルームよ!」
メティスがインベントリから出したのは木材で出来たどこでもドアの様な扉だ。俺はこれを知っている。
このAWFにも、勿論課金要素がある。装備合成の成功確率UPのチケットとか。その課金アイテムの中にどこでもセーフティルームというアイテムがあった。
その名の通り、宿屋の様にどこでもログアウト出来るアイテムだ。宿屋みたいな場所でなければ、ログアウトしてもキャラはその場に残ってしまう。
その場に残ってしまうという事は、知らないプレイヤーに何かされる可能性があるという事だ。こういうパーティでしか入れなく、安全なダンジョンストーンの近くであってもやはり抵抗はある。
ミカさんやメティスが、ログアウト中に何かするとは思えないが、こういうのは理屈じゃない。地面に寝るっていうのもそうだし、女性なら寝顔を見られるのは嫌とか思う人もいるだろうし、やはり抵抗あるだろう。
そんな時に便利なんだよな。ただ、これ高いんだよ。一人用とパーティ用があって、一人用で5千円だからな。パーティ用だと、人数分×5千円である。
パーティを組める人数は最大で六人。つまり六人用なら3万円になる。俺も一人用を買おうとしたけど、初心者だからまだいいかとスルーしていたが。
「これはパーティ用なのか?」
「その通りなのよ!」
「こんなアイテムがあるなんて!」
すごいですねー!とミカさんがメティスを褒めている。ミカさんは知らかったみたいだな。純粋に楽しんでるみたいだし、課金要素は知らないのも無理はないか。
「さっ、はいるのよ!」
俺とミカさんは木のドアを開けて入る。このどこでもセーフティルームの良い場所は、木のドア分の場所を確保すればいいから、場所を取らない。
一瞬の浮遊感を感じるが、それもすぐ収まる。
「おぉー!」
「結構広いですね!」
中は至ってシンプルだが、ミカさんの言う通り結構広い。入ってすぐ、大きな机と椅子があるリビングに、その奥に六台のベットが置いてある寝室。キッチンとかお風呂は置かれてないみたいだ。
ってか六人用かよこのセーフティルーム。
「おいメティス、これ高かっただろ」
「これぐらい何でもないのよ」
「ってか何で六人なんだ?俺達は三人だろ?」
「そ、それは……これからパーティが増えるかもしれないのよ」
「……まさか、このゲームを始めたぐらいに買ったはいいが、ずっと倉庫で埃をかぶってたんじゃ」
「そ、そんな事ないのよ!それよりも早くログアウトするのよ!」
そう言いながらメティスは一番置くのベットに横になると、ベットの上からメティスが消える。ログアウトしたってことだな。
俺は試しに、メティスが寝てるベットでログアウト出来るか確認。すると※このベットには既に使用者がいます。とチャット欄に出てきた。しかも、謎の力でメティスのベットに腰掛ける事すら出来ない。なるほどこうなるのか。
「ルヴァンシュさん……そんなにメティスちゃんと寝たかったのですか…?」
「ご、誤解だミカさん!ちょっと試したい事があったんだ!」
俺は焦りながら慌てて説明する。何とか理解してもらい俺達もログアウトする。さて、次ログインしたら本格的にダンジョン攻略だな。
読んでいただきありがとうございますm(_ _)m




