二十六話 天才という名のレッテル
今回の話はめちゃくちゃ悩みましたね。正直どういう話にするかとか、どう着地するかとか。
天才なんて俺には理解出来ないから、天才を表現するのは無理だとは思うんだけど、何となくこんなイメージかな?で書きましたね。
「あのなぁ、メティス…」
「何なのよ?君も褒めてくれるの?」
まぁミカさんは優しいし、そもそも初対面だから何も言わないと思う。だけどな…
メティスは間違いなく天才だ。そう思う根拠は二つある。一つは俺らと違う視点をみているから。そしてもう一つは理解出来ないからだ。これはあくまで俺の持論だがな。
俺が高校生の時、この人天才だって思う人がいた。そいつはメティスと違って絵の天才だった。勉強や運動は全然駄目だったけど。
そいつが風景画を描いていたら、絵が上手くなりたいクラスメイトが声を掛けた。その風景画は適当に描いているのか?って。確かに何も見ずに描いていたからな。でもその天才は「数年前の風景を描いている」と言ったのだ。
俺には理解出来なかった。言葉では理解出来る。だが数年前の絵を覚えていて、しかも細かい細部まできちんと描いているのだ。しかも天才にとってその風景は特に衝撃を受けたものでもなく、ただ日常の風景と何ら変わらないものである。
質問した者も理解できなかったのだろう。そして、次にどうすれば絵が上手くなれる?と聞いたら天才は「一度見たら描けるでしょ」と言っていた。その言葉通り、天才は絵の練習なんてした事がない。
俺達には理解出来ない領域である。天才が見ている視点は俺達と違うのである。天才というのは、その分野に特化した、まさに天から贈られた才能であると俺は思っている。
今の話で言うならそのクラスメイトは絵の天才だし、メティスは知識の天才だろう。ただ頭が良いや、練習して絵が上手いは天才ではなく秀才だ。
だから凡人や秀才は天才を理解出来ないし、天才は凡人や秀才が理解出来ない。理解出来ないからこそ、話が噛み合わなく、喋るのも面倒になり孤立する。そのクラスメイトも常に一人だった。
全ての天才がそうではないとは思うが、俺が見た天才はこんな感じだった。
だが、一つだけお互いが理解出来る方法があると思っている。いや一方的な理解だが、孤立しなくなる方法だ。
それは天才が凡人の考えを理解出来ずとも、凡人の考えに歩み寄ってくるやり方だ。情けない話だが、俺達凡人は天才を理解出来ないし、理解しようと努力しても無理なのだ。努力したところで秀才止まりで、やはり天才の考えは理解出来ない。
ならば天才から理解してくれるよう歩み寄ってもらうしかない。だが、天才が歩み寄る事はほとんどない。凡人の考えが理解出来なくとも、天才には何ら影響ないからだ。
だがその点、メティスはどうだ?凡人の考えを理解しようと歩み寄って来ているのではないのか?と思うのだ。
その根拠は、メティスが興味ある物は全てを知りたがる人物だと思うからだ。俺が初めてメティスと出会った日、メティスはこの世界は未知だからこそ知りたいと言っていた。
興味があるからこそ、凡人の考えも理解しようとしたんじゃないのかな?メティスは頭が良いからな。
それにメティスは錬金術ではトッププレイヤーだ。それこそクランだったり、パーティでは引く手数多だと思う。それにクランとかなら欲しい素材も優遇してくれるだろうし。なら俺とフレンドになるよりそっちの方が良いはずだ。だがメティスはパーティやクランすら入っていない。
それは理解しようとパーティやクランに入ったが、駄目だったからじゃないのか?だが、俺と接触してきた。もちろん希少素材が欲しいっていう理由で近付いたと思うが、俺も凡人だ。俺と絡むということは、理解できなかった凡人と絡むと言うことだ。今回はその天才と凡人の違いが出たわけだが。
まぁメティスが凡人の考えを理解しようとしたけど駄目だったとかは、これは完全な俺の妄想で、独りよがりな考えだけどな。
でももし、俺の考えが当たっていたのなら、凡人の考えを教えてあげた方がいいのではないのか?理解出来ずとも、こういう考えをしていると。まぁ正直、お節介だとは思うが、ここで教えないとメティスは孤立するのではないのかと思ってしまう。
「確かに運営の真意?に気付いて、そこまで考察したのは凄い事だ」
「フフン!」
「だけどな、今の運営の真意が仮に本当だったとして、だから何だって話なんだ。一般人はな、ダンジョン縮小、ダンジョン個別サーバー、魔物誘引を気にせず狩りが出来るやったぁ!ぐらいにしか思っていないんだよ。運営の真意?どうでもいいって思っているし、俺もそう思っている」
まぁ、検証班あたりは何のスキルを調整したのかぐらいはまだ考えているだろうが
「ど…どうでもいい……」
「メティスが俺達の為に話してくれた事は理解しているし、そこは感謝している。だけど、俺達はメティスの話に共感出来ないし、理解も出来ない。それはメティスが一番分かっているんじゃないのか?ここではっきり言おう、天才と凡人では見ている視点が違うし、考え方も違う」
メティスを孤立させないという事で、絶対に言わなければならない言葉。考え方は人それぞれというが、考え方が違えば、共感する事も出来ない。今後一緒にいるという中で、必ずそれは軋みを生む。
共感出来ない、してくれないと言う事は不安になったりするものだ。その度に悲しんだり、落ち込んだりすれば精神も削れていく。だからこそ言わないといけない。だからこそ、理解出来ずとも心に留めてもらいたい。
「……」
「ルヴァンシュさん…」
ミカさんが心配そうな顔でこちらを見てくる。分かっている、言い過ぎなんだろ?でもな、ここで言わないと何も変わらないんだ。ここで言わないと、取引をする関係だけになってしまうし、孤立してしまう。自分から距離をとってしまう。そんなの悲しいだろ?せっかく知り合えたんだ、普通に雑談とかもしたいだろ。
「考え方が違うということは、お互いが理解出来ないという事だ。その上で俺はメティスに提案する。俺達とパーティを組まないか?一時的なパーティではなく、イツメンって奴だ」
天才の考えや苦悩を理解してやる事は出来ないが、孤独は理解してやれるからな。孤独は淋しいもんだ。人と関わりたくなるもんだよ。
「私は…でも……」
「メ、メティスちゃん!私はメティスちゃんと初対面で、まだメティスちゃんの事をよく知らないけど、ちょっとずつ理解するから、だから一緒にいませんか!」
「……蟻ちゃん」
俺はミカさんの言葉に驚いた。ミカさんは凄いな。そっか、簡単な事だったのかもしれないな。純真無垢なミカさんだから言えた言葉だ。
なにを俺は理解してやる事が出来ないだ?これからイツメンになるんだろ?なら何で最初から俺は理解する事を諦めてる?違うだろ!イツメンになるのなら、このゲームがサービス終了するまでに、天才の考えを理解してみせるってぐらいの気概見せろよ!少なくともミカさんはそのつもりだろう!何を最初から諦めているんだよ!しっかりしろ、俺!
「メティス…さっきの言葉は取り消す。情けない話だが、俺は自分の中で限界を決めてたよ…すまない。俺は天才の考えてる事を必ず理解して、メティスを一人にはさせない!だから俺達とパーティを組んでくれないか?」
「……ククク。自分でも分かっているのよ……私の考えは皆と違うって事を…。天才の考えてる事はよく分からない…。天才が理解出来ない…。いつも天才というレッテルが私に貼り付いているから、誰も私を理解しようとしない…!理解してくれない…!」
初めて見せたメティスの苦悩に俺とミカさんは黙って聞いているしか出来ない。
「だったら私を持て囃して近付かないでほしい…!期待しちゃうじゃない…!私を理解してくれるのかって…!でも…やっぱり…皆から出る最後の言葉は…天才だから俺達とは違う…」
まだ少ない日数しか経ってないけど、メティスがここまで感情を顕にしている。それほどまでに苦悩していたのだ
「みんな私を化け物の様に見るのよ…。私と一緒にいると全てを見透かされているようで、居心地が悪いのよ…。天才の前だから失敗は出来ないとか…気を遣いすぎて本来の調子が出ないとか…。だから私は一人でいいのよ…。だから私は一人を選んだのよ…。私がいると迷惑を掛けちゃうから…」
「本当にそうなのか?メティス、俺の肩の上にいる時、凄く楽しそうだったぞ?」
「そ、それは……」
「俺がメティスにミカさんを紹介した時、本当はメティスもパーティになりたかったんじゃないのか?」
「――だったら何なのよ…!そうよ…そうなのよ…!羨ましかったのよ!遠目から楽しそうなパーティを見てる事しか出来ない!私はソロの生産職だから冒険すら出来ない!この世界の広さをこの目で知る事が出来ない!だから羨ましかったのよ!……でも連れて行って言えないじゃない…私がいるだけで迷惑掛けちゃうから…きっと…君達も――」
ミカさんがメティスに近付き抱きしめる。
「迷惑じゃありません。いつか理解出来ないからと、メティスちゃんから離れたりもしません。だから一緒に、この世界を見に行きましょう。そしてメティスちゃんの事、もっと教えてください」
抱きしめながら優しく諭す。メティスの目から涙が零れ落ちる
「本当に…?私を…理解してくれる…?私を…連れて行ってくれる…?」
俺はゆっくり近付き
「あぁ、絶対に理解してやるし、孤独にはさせない。だって勿体ないだろ?せっかく知り合えたんだ。楽しい事も一緒に共有したいだろ。俺はメティスと冒険したい。だからその為にメティスの事を教えてほしい。俺達の事も少しずつメティスに教えていくからさ」
「分かったのよぉ……」
そう言ってメティスは少しの間、静かに泣いた。この涙を見たからにはもう後戻りは出来ないな。
「……グスッ。そ、そこまで言うならパーティになってあげるのよ!」
「おっ!いつものメティスに戻ったな!」
「それはそうと、いつまで私の頭の上に手を置いているのよ!フレンドだから通報画面は出てないけど、フレンドじゃなかったら通報してたのよ!」
「おい、やめろ!いまからパーティを組むんだろうが!」
「それに蟻ちゃんもいつまで抱きしめているのよ!離れるのよ!」
「えぇー!?可愛いからもう少しだけ抱きしめててもいいですか?あっ!いつもルヴァンシュさんの肩に乗ってますよね!これからは私が抱っこしてあげますよ!」
「ふむ、ミカさんがメティスを抱っこか…。凄く可愛い絵面ではないか?」
「嫌よ、恥ずかしいのよ!私は肩でいいのよ!」
「肩は俺が恥ずかしいのだが…」
とはいえ、これから賑やかになるな。そうだ、ロックゴーレムの周回素材とか色々と話さないといけないんだったな。まぁ落ち着いたら話すか。今は――
「ルヴァンシュさん!メティスちゃんのパーティ加入の祝賀会をしましょう!何か美味しい物はないですか!」
「さっき食べただろうが…」
「では私の祝賀会は無しという事なの!?許さないのよー!」
「ちょ!?引っ付くな!歩き辛いだろうが!ってミカさん!?」
「私も肩に乗せてください!」
「いや祝賀会の話は!?」
「だから今からするのよ!何か出すのよ!」
ちょ!?カオスカオス!なんか急に暴走した二人を宥めるのに30分も掛かった。祝賀会はまた改めてすることになった。
メティスの過去についてはもう少し後で書きます。幕間にでも
読んでいただきありがとうございます!




