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05:魔力について

 ムルムル達とのやり取りをしてから30分ほど歩き続けた。最初は開けた森だったのだが、だんだんと薄暗くなり、最後にはほとんど日の光が届かないジャングルになっていく。


 上空から落下したときは見ている余裕が無かったが、どうやらこの森はかなりの広さがあるようだ。


「着きました。こちらです」


 ムルムルが足を止めた先には、一本の巨木があった。樹齢(じゅれい)数千年は超えているようで、幹の太さは小さな家ならすっぽり覆ってしまうほどだ。


「着いたって、ここが家なんですか? 入口が見当たらないんですが」

「そういう細工をしてあるのです」


 そう言って、ムルムルは巨木に足をかける。ごつごつしているのでハシゴのように簡単に登れるらしく、3メートルほど登ると、ムルムルの姿が巨木にするりと吸い込まれる。


「イリュージョン!?」

「魔力で表面をコーティングしてあるのです。神獣様からしたら子供だましにすらならないでしょうが」

「全然分からんかった......」


 ムルムルが上半身だけ樹から出して申し訳なさそうに説明したが、パラおじは先ほどから仰天しっぱなしである。


「魔力......魔力か! よく分からんが......すごいぞ!」


 パラおじは小学生並の感想をこぼした。地球では空想世界にしか存在しなかった全く新しい力だ。これはもう、なんとしても究極細胞に取り入れて地球に帰らねばならない。


 パラおじは興奮冷めやらぬまま、ムルムルの後を追って樹の幹に手を伸ばす。ちょうど飲食店の暖簾(のれん)をくぐるような感覚で、幹の中に入り込むことが出来た。


「おお、中はなんていうか......オシャンティですな」

「おしゃんてぃ?」


 ムルムル達は小鳥のように樹の穴のなかで生活していると思っていたのだが、幹の中の家は思っていた以上に整っていた。ほとんどすべてが木製だがテーブルや食器棚のもあるし、その他、バケツのような生活雑貨なども用意されている。


 何より、真っ暗だと思っていたのに、まるで照明器具でも付けたように明るかった。樹の幹の中で火を灯すわけにはいかないだろうし、壁全体が発光しているようにも見える。


「これも魔力の影響なんですか?」

「ええ、私は細かい魔力操作が得意なので。もっとも、相手を傷つける魔法は使えないのですが」


 それで先ほどは抵抗できなかったのだ、とムルムルは付け加えた。


「パラオジさま、おりていい?」

「あ、すまんすまん」


 頭の上に乗っけっぱなしだったマリマリを優しく地面に下ろす。彼女は足を怪我しているので、痛みを与えないように慎重にだ。


「おかーさん、いたいのいたいの飛んでいけして」

「そうね。じゃあそこの椅子に座ってくれる」


 ムルムルに促され、マリマリは近くにあった椅子に腰かけ、怪我をした方の足を差し出す。


「痛いの痛いの......飛んでいけ~」


 ムルムルは優しい口調でそう言いながらマリマリの足を撫でる。その瞬間、足首のあたりを緑色の光が包み込み、そして消える。


「なおった! ありがと!」

「痛いのがガチで飛んでいった!?」


 マリマリが引きずっていた足でぴょんぴょん飛び跳ねると、パラおじは叫んだ。


「え? 本当に治ったの? プラシーボ効果とかじゃなく?」

「ぷらしーぼ?」


 病は気からと言えど限度がある。マリマリの言動から考えて、嘘を吐く理由もない。


「し、信じられん。さすっただけで治るとか......神かよ」

「神はあなた様では? この程度の魔法ならいくらでも使い手がいますよ」

「いくらでも!?」


 パラおじが思わずムルムルに詰め寄ると、ムルムルはちょっと引きながら答える。


「え、ええ。回復系の魔法は私は得意としますけど、女王様ならすべての魔法を私以上に使いこなせます」

「なんとまあ!」

「そういえば神獣様は魔法を使わずに毒を無効化したりされていますね。魔力に疎いのも、きっと神に近しい全く別の力をお使いになるのでしょう」


 なんか勘違いしているのか、ムルムルは神を崇めるような、うっとりとした表情でパラおじを見上げる。


 パラおじ的にはムルムルが先ほどから見せている魔力の方がよっぽど常識外だが、ムルムルからしてみれば『皮膚が分厚いからノーダメ』なんて、バカみたいな本当の話の方が信じられないのだろう。


 パラおじがやっているのは100パーセント純粋な地球遺伝子パワー。言い換えれば全てをゴリ押しなので、想像力が働くほど正解から遠ざかっていくのだ。


「おかーさん、お腹すいた」

「ちょっと待ちなさい。神獣様に差し出す分が先でしょう」

「いやいやお構いなく。俺はそこらへんで適当に光合成でもしますんで」

「コウゴウセイ?」


 ムルムルは首を傾げながらも、壁側にあった棚から木の実を取り出してきた。そして、それをパラおじに献上しようとするが、パラおじは丁重に断った。量が少なく、どう見てもパラおじと娘の分しかなかったからだ。


「ですが、助けていただいた上になんのお礼も出来ないなんて......」

「気にしないでくださいよ。困ったときはお互い様です」

「でも......」

「いいから食べてください。俺は本当に平気なんですよ」


 かなり迷ったようだが、結局エルフ母娘が木の実を分かち合うことになった。やはり相当空腹だったのだろう。二人とも黙々と木の実を口に運んでいる。


 二人は椅子に座っているが、パラおじはでかいので地べたで胡坐(あぐら)をかいている。木の実を一通り食べ終え、汲み置きの水で喉を潤すと、エルフ母娘の緊張が解けていくのを感じる。


「みっともない所をお見せしてしまい申し訳ありません。本当は、食べ物の補充をしに遠出をしていたんです。危険なのでなるべく出ないようにはしているのですが、この辺りで手に入る食材だけではマリマリも飽きてしまいますし......」

「なるほど。それで採取に行ってる際に人間と鉢合わせたと」


 パラおじの言葉にムルムルが(うなず)く。


「しかし、一生ここに隠れ住むのも大変でしょう。またああいった(やから)が出てくるとも限らないし」

「その通りですが、私たちには他に行き場がありません。エルフの里を追放され、人には狙われる。正直、投げ出してしまいたいという気持ちはあります。すみません......このような聞き苦しい話を」


 ムルムルの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。心配したマリマリが母を慰めるように寄り添う。


「あのですね! シンボリルドルフってさ......ズンガリプテルスに似てますよね!」

「えっ......あ、はぁ......」

「意味わかんない」

(お、俺の渾身のギャグでも笑わない!? やはり相当追いつめられているようだ)


 パラおじ的には場を和ませようとギャグを言ったのだが、マニアック過ぎて誰もついていけない。ちなみにシンボリルドルフは競走馬。ズンガリプテルスは恐竜である。


「事情は察しました。どうやら相当に苦しい生活のようですな。どうでしょう。俺をエルフの里とやらに案内してくれませんかね? 場所は分かるんでしょう?」

「えっ!? 確かに場所は分かりますが、あそこは私たちは追放されていて......」

「それは聞きましたよ。でもさ、こんな苦しい生活を強いられている。ただ、しきたりを破っただけでそれはあんまりじゃないですか」

「ですが、女王様がそう取り決めたので」

「だから女王様に直談判に行くんですよ。なあに安心してください。『神獣』が力をお貸ししますから」


 パラおじ的には人間扱いされないのは不満なのだが、どうやら神獣とやらは神聖視されているようだし、もしかしたらエルフの女王とやらも説得できるかもしれない。


 そうすればこの母娘が里に住まわせてもらえるかもしれないし、パラおじ的にも魔力という新しい力をより調べられる。一石二鳥だ。


「......分かりました。神獣様の威光があれば、女王様も意見を変えるかもしれません。パラオジ様、どうか私たち母娘にお力添えを」

「おねがいいたします!」


 エルフ母娘は深々と頭を下げようとしたが、パラおじはそれを遮った。


「さっきからかしこまりすぎですよ。おじさんな、虐げられてる生物を見るのは嫌いなんだ」


 それは、パラおじの損得なしの純然たる気持ちだった。

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