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04:47さいですけど

 山賊たちを撃退したパラおじは、エルフ母娘を家まで送り届けることにした。


(エルフの個体数がどれくらいか分からないし、守護(まも)らねば)


 内心でパラおじはそう呟いた。人間たちが捕獲しているという事は、エルフの生息数が激減している可能性がある。人間が狩りつくして絶滅した動物は山ほどいる。エルフもその一つなら、パラおじは保全活動に力を惜しまない。


 幸い大きなケガは無かったので、ムルムルはへたり込んだままのマリマリを立たせようとする。


「痛っ!」

「大丈夫!? マリマリ」

「足、いたい」


 先ほどは無我夢中だったのだろう。よく見ると娘の方の右足首が腫れていた。逃げる際にひねってしまったようだ。パラおじは巨体を屈ませ、マリマリの足にそっと触れる。


「骨が折れている訳じゃないな。よし、おじさんがおぶってあげよう」

「ほんと!? ありがとう! パラオジさま!」

「パラおじさま!?」


 パラおじはパラオジ様呼ばわりされ目を見開く。


「さっきそうゆってた。違う? オジサンさま?」

「その二択ならパラオジと呼んでくれたまえ」


 パラおじはこの瞬間、神獣パラオジになってしまった。ちなみにオジサン呼びを辞退したのはおじさんじゃないというアピールではない。『オジサン』という種類の魚がいるので配慮したのである。


 そんなわけでパラおじはマリマリを軽々と抱き上げ、頭の上に載せた。


「わー! たかーい!」

「こ、コラ! パラオジ様になんて失礼なことを!」

「はっはっは! さっきまで怖い思いをしていたからいいんですよ。子供は元気が一番ですから」


 ムルムルは慌てて下ろそうとしたが、パラおじはそれを笑って遮った。母の方も決して余裕があるわけでないだろうし、載せてあげてもよかったのだがパラおじは控える。


(成人女性におじさんの上に乗るかいガハハ! なんて言ったらセクハラ扱いされるかもしれんし......)


 なんとも気の抜ける理由であった。


「申し訳ありません。その子はまだ生まれたての子供なもので......」

「子供じゃないもん! もう! えーっと......47さいだもん!」

「47歳!?」


 パラおじは仰天する。マリマリの見た目はどう見ても10歳前後である。そして、横にいる美女ムルムルは20代前半くらいに見えた。確かに母娘にしては若すぎる気はしていた。


「あの......つかぬことをお聞きしますが。ムルムルさんの年齢は?」

「はっきり覚えていませんが、恐らく150は超えているかと」

「はえ~すっごい」


 パラおじは驚いた。カメだってそんなに長生きしないというのに、しかもまだまだ若々しい。


(こ、これは! 是非とも研究しなければ!)


 パラおじの研究魂に火が付いた! これほど若く美しく長寿ならば、その秘密を究極細胞に取り込めば地球人にバカウケ間違いなしだ!


「よし! じゃあ善は急げだ! 奥さん! 一刻も早くエルフの住処に案内してください!」

「申し訳ありません。エルフの住処には案内できません......」

「なんで!?」


 せっかくの研究チャンスなのに! パラおじが吠えるように問いただすが、ムルムルは悲しそうに顔を(うつむ)かせながら押し黙る。


 すると、頭の上に乗っかっていたマリマリが、先ほどまでの元気ぶりをすっかり無くしながらつぶやく。


「わたしがハーフだから」

「えっ? ハーフ駄目なの?」

「うん」


 意味が分からない。パラおじが視線でムルムルにそう問いかける。意図を察したムルムルは、表情を曇らせながらパラおじの問いに答える。


「私がエルフの里の禁忌を破ったんです。数十年前、私は人間の男性と駆け落ちしたんです。その後、森の中でその子を産みました。ですが、人と交わったエルフは里に住まわせてもらえないのです」

「なるほど。遺伝子汚染対策ですか」


 パラおじは勝手に納得した。遺伝子汚染とは、子供をつくる能力がある別種同士が混ざってしまうことだ。海外産のペットを捨てたりするのが禁じられている理由の一つだ。


 創作だと異種恋愛はよくあるが、なにせ全然違う進化を遂げた奴らの掛け合わせなので、どっちつかずの子供が生まれるのだ。しかも大体の場合、その個体は子供を産めないので結果的に両親とも不幸になる。


「いんでんし? パラオジ様のおっしゃっている事がよく分からないのですが......」

「え? 違うの?」

「はい。そういうしきたりですので」

「しきたり? そんだけ?」

「はい」

(なーんだ。よかった)


 パラおじは心の中でなんだそれだけかと思ったが、一応エルフ達にとっては大事な問題かもしれないので口には出さない。パラおじはノンデリだが、最低限の空気は読めるのだ。


 パラおじ的にはしきたりなんぞどうでもいい。遺伝的な問題とか、環境破壊に繋がらなければ後の事はどうでもいいのである。それはそれでどうかと思うが、パラおじはそういう生命体だから仕方がない。


「事情は分かりました。てことは、エルフの住処じゃない場所にお二人は住んでるんですね?」

「はい。そこから少し離れた場所に隠れて住んでいます」

「まあとりあえずそこに行きましょう。二人とも疲れてるでしょうしね」


 二人とも先ほどまで怖い目に遭っていたのだ、ここで追及するのは酷というもの。まずは二人の安全を確保するのが優先である。


 そうして、ムルムルに先導され、パラおじは彼女たちを守護りながら森の中を歩いていく。無論、このまま黙ってエルフとの接点を終わらせるつもりなどない。


(この二人からエルフの住処の情報を聞き出して、エルフ達の秘密を追求するぞ!)


 絶対にエルフの住処にカチコミしよう。パラおじは胸の中に炎をたぎらせながら、ゆるりとエルフ母娘の家へと足を向けた。

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