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02:エルフの母娘

 異界への扉を抜けたパラおじは、目の前に広がる光景に感動した。


 雄大な山脈、どこまでも続く大森林、緑豊かな大地に、遥か先には青く輝く美しい海まで見えた。そういった環境は地球にもあるだろうが、パラおじはネットなどで画像を見たことがある程度なので、実物を目の当たりにするのは初めてだ。


 では、なぜそんなに遠くまで状況が見えるかというと、そこが高度1000メートルの空中だからだ!


「うおおおおおおおおおおおおおお!?」


 パラおじが感動したのも一瞬、扉が消えた瞬間、パラおじはきりもみ回転しながら落下していく。異世界転移かと思ったら異世界転生になってしまう。だがパラおじなら大丈夫!


「アイ・キャン・フラァァァァァイ!」


 パラおじは六本の腕を広げると、その間に皮膜(ひまく)を張った。モモンガとかムササビとかに付いている、空を滑空(かっくう)するパラシュートのような役割をするものだ。


 そうしてパラおじは超スピードで落下から滑空へと切り替えた。落ちる角度が真下から斜めになるだけなのであんまり意味が無いのだが、それでも直撃よりはマシである。


 空中を飛ぶのはモモンガのように可愛くて小さな動物がやるから可愛いのであって、3メートルオーバーの6本足のライオンが空を舞っていたら恐怖である。


「行ける! やっぱり俺は天才だった......! あああああっ!?」


 自分の想定通りに細胞が活躍してくれてることに喜んだのもつかの間。パラおじは人間弾丸となって巨岩に突っ込んだ。なにせ滑空してるだけなのでブレーキも何も無いのだ。


「んもー、普通に平地に転移させてくれればいいのに」


 巨大生物がぶつかったせいで岩は粉々砕け散ったが、パラおじは瓦礫の下から平然と這い出た。タフすぎる。


「あ、翼あったんだっけ。まあいいや」


 1000メートルの高さから着地――もとい墜落したというのにパラおじはのんきに流す。とにかく、ここが地球外の世界だとしたら、パラおじは何か地球に無い特性を見つけて帰らないとならない。


「本当にここが異世界なのかね。見たところあんまり変わらない気がするけど」


 パラおじは頭を掻きながらそう呟く。どうやら森の中に墜落したようだが、見たところ地球とあまり変わり映えが無いように見えた。パラおじも地球の植物や動物全てを把握しているわけではないが、変な動物や植物は地球にだってごまんといる。


「すみません。ちょっと失礼しますよ」


 そう断りを入れ、パラおじは近くに生えていた樹木から、赤い果実を一つだけ貰って口に入れる。パラおじの究極細胞は、取り込んだ細胞を分析することもできる。これによって地球外の何か素晴らしい能力を分析することが出来るのだ。


「んん!? 見たところ確かに遺伝子が地球とは全然違う! 見た目はごくごく普通の木の実なのに!」


 パラおじは驚愕した。あの女神の言う通り、ここは本当に地球とは違う歴史を歩んできた世界なのだ。それを実感することが出来た。


「でもなぁ、確かに出来るまでの工程は違うけど、結果はただの木の実なんだよなぁ」


 喜びは一瞬だった。確かに地球外ではあるが、結果が伴わなければパラおじの要求は満たせない。


「なんていうかさ、こう......インパクトが足りないんだよなぁ。この世界で俺を驚かせてくれるような新規発見が欲しいんだけど」


 こいつよりインパクトのある奴を出せと言われても異世界も困るだろう。だが、この世界はちゃんとパラおじの無茶ぶりに応えてくれた。


「ん? 近くで人の声が聞こえるぞ? 知的生命体がいるのか!?」


 そう言って、パラおじはそちらのほうに足を向けた。



     ◆ ◆ ◆


「よっしゃー! エルフ一匹捕獲だぁー!」


 興奮しながら叫んでいるのは、見るからに野蛮そうな筋骨隆々の男だった。薄汚れた腕の中で、不釣り合いな美しい女性が苦しそうにもがいていた。若草色の髪をした女性がか細い抵抗をするが、男は逆にそれを楽しんでいるように見えた。


「は、離してください! 私たちが一体何をしたって言うんですか!」

「うるせえな! おい! そっちのガキも逃がすんじゃねえぞ!」

「おかーさん!」


 少し視線を離すと、よく似た少女が同じようにはがい絞めにされていた。口ぶりからするとこの二人は母娘のようだ。どうやらリーダー格の男が母を、そして部下の三人が子供の方を捕えたようだ。


「親子セットの上玉だ。こりゃ高く売れるぜ! ん? よく見たらそっちのガキ、ハーフか? こりゃ珍しい」

「私たちはあなた達のおもちゃじゃない!」

「お前らの都合なんか関係ねえんだよ。エルフは高く売れるんだ。俺たちだって生きていかなきゃならねえんだ。ま、お前らは俺たちの養分ってとこか」


 山賊のようなリーダーが笑いながらそう言うと、母親の方が涙を流す。エルフは腕力は無いが魔力という力に秀でている。それを使って戦うことも出来るが、あいにくこの母娘たちは攻撃系の能力を持っていなかった。


 人間とエルフでは体力差がありすぎる。その上、エルフの美しさは人間を魅了してやまない。なので人間たちはペット密猟感覚でエルフを捕まえたがるのだ。


 もちろんそう簡単に見つかるものではないのだが、不幸にもこの親子は魔の手に落ちてしまった。そうなった先に待っているのは、人間の下卑(げび)た欲望のはけ口だ。


「ひどい! この人でなし!」

「何とでも言え。それに人でなしはお前らだろ? エルフちゃん。ギャハハハハ!」


 エルフの母娘の気持ちを踏みにじるように、男たちが下品な笑いを上げる。


「確かに君たちは遺伝的に人間かもしれない。だが、君たちは悪魔だ!」

「あん?」


 笑い声を遮るように、怒りに満ちた(おとこ)の声が響く。茂みの向こうから聞こえてくるので姿は見えないが、どうせ正義気取りの狩人か何かだろう。


 エルフ狩りの男たち四人は、深い森に入り込んでエルフを捕えるだけの実力はある。エルフ狩りは良くないと助けようと邪魔をされたこともあるが、今まで全てを返り討ちにしてきた。今回もそのパターンである。


「えらそーな事言いやがって。邪魔しないでとっとと消えれば見逃してやるぜ。それとも、俺たちとやり合うってか。ええ? どうなんだよ正義の味方さん?」


 エルフを腕で捕えたまま、挑発するように茂みの向こうに声をかける。


 ――もしもこの時にパラおじの姿が見えていたら、山賊たちは一生のトラウマを背負わずに済んだだろう。


「喧嘩は嫌いだけど、見捨ててはおけないな」


 そう言って、茂みを割って現れた姿を見て、山賊たちは度肝を抜かれた。冴えない中年男性の声だったのに、自分たちの倍近くある巨体を持った、六本足の怪物だったのだから無理もない。


「な、なんだぁ!? この化け物は!?」

「俺は化け物じゃない! 通りすがりの......人間だ!」

「ど、どこがだぁっ!?」


 言ってる事と姿が何一つ一致しない怪物相手に、盗賊もエルフの母娘も目を見開いた。

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