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14:聖女との出会い

「......という流れになったんで、国王様と面会したいんですけど」

「駄目に決まってるだろ」


 市街地をさらに進んだ先の王城前にたどり着き、見事にパラおじは門番と交渉決裂した。ちなみにこの時にようやく国の名前がガリベインという事が判明した。


 国の名前すら知らないのに、いきなり国王に面会するという暴挙が許されるはずもない。ましてハーフエルフの子供とよく分からん獣のコンビである。


「どうしても駄目?」

「どうしても駄目。我らの王は貴様らのような下賤(げせん)の者に割く時間は無い」


 門番たちは取りつく島もない。微粒子レベルで謁見できる可能性があると思ったが、しょせん微粒子レベルであった。


(強行突破して王に会う事は出来るんだけど、それだと交渉とかにならないしなぁ)


 門番を無視して城壁をよじ登り、護衛をなぎ倒して王のもとにたどり着くことは可能だろう。だがそれではただの暴漢である。それにマリマリもいるので危ないことはしたくない。


「そうだ、そんなに権力者と交渉したいなら王じゃなくてもいいじゃないか。この城から少し離れた所に”聖女様”が住んでいる。彼女は国民から信頼が厚いし、それなりに影響力もある」

「おお! そりゃナイスアイディアですな。細かい場所を教えてもらってもいいですかな?」

「構わんぞ」


 門番は笑みを浮かべながら、聖女様が住んでいる屋敷のありかを教えてくれた。パラおじとマリマリはお辞儀をし、さっそくそこへ向かうことにした。


 離れていくパラおじ達の姿を眺めつつ、門番はにやにやと笑みを浮かべる。同じような表情を浮かべながら、もう一人の門番が口を開く。


「おいおい、お前もワルよのぅ。”聖女様”に会いに行かせるとか悪魔かよ」

「俺は間違ったことは言ってないぜ? 実際、家柄も大したもんだしよ。どうせあいつら田舎かどっかから出てきた魔獣使いだろ? 都会の怖さを味わってもらわねぇと」


 門番たちはパラおじ達の未来を想像しながらゲラゲラと笑いあった。その姿は、城を守るという任務に就いているわりに、まるでならず者のように見えた。



 ◆ ◆ ◆



「ここが聖女さまのおやしき?」


 マリマリは首を傾げながらパラおじに尋ねた。というのも、控えめに言っても幽霊屋敷としか呼べないようなボロボロの屋敷だったからだ。


 教えられた場所は城からさほど離れてはいなかった。中心部ほど建物が立派になっていったので、ここも間違いなく一等地ではあるのだろう。事実、屋敷そのものは大きい。だが、まったく手入れされておらず、コケとツタで覆われ緑色のカーテンのようになっている。


 かつては庭園であったであろう場所も、石像が倒れて草は伸び放題。マリマリの背丈よりも高い雑草に覆われていた。


「それはその......自然を大切にするタイプの人なんだきっと」


 パラおじは自分に言い聞かせるように大声を出した。大抵の事には驚かないパラおじだが、苦手なものがある。それはオバケだ。科学者であるパラおじは、幽霊とかホラーとか、説明できないものが怖いのだ。


 なお今のパラおじを見たら幽霊たちが逃げ出すだろうが、あいにく本人は気付いていない。


「お、お邪魔しまーす」


 錆だらけのドアをノックするが返事がないので、パラおじは挨拶をしながらドアを開ける。中は薄暗く、パラおじがドアを開けた光で、色あせた絨毯(じゅうたん)から(ほこり)が舞い上がるのが見えた。


「死ねえええええええええええええ!」

「うおっ!?」


 パラおじが一歩踏み込んだ瞬間、上空から女性の声が聞こえた。その直後、地面に斧が突き立てられ、床の一部が木っ端みじんになる。


「オバケ!? いや足がある! よかったー」

「チッ、外したか」


 パラおじがズレた安心の仕方をしていたが、両手斧を握った女性は舌打ちをし、軽々と地面にめり込んだ巨大な斧を引っこ抜いた。


「命が惜しかったらここから出ていきな。ここは聖域。あんたたちみたいな薄汚い権力者にやるものは何もない」

「ちょっと話が見えてこないんですけど。俺たち、別に権力者じゃないですが」

「嘘つくんじゃないよ! 次から次へと略奪者を送り込んできてるじゃないか! あんたたちもそうなんだろう!」

「ちがうよ! わたしたち、聖女さまに会いに来たの!」


 臨戦態勢の斧女(おのおんな)に対し、マリマリがパラおじの後ろから顔を出す。すると、女性はびっくりしたように目を見開いた。


「あら? あんたハーフエルフかい? てことは、ガリベインの連中じゃないのは本当なのか」

「さっきからそう言ってるのに。そんな斧喰らったら普通死にますよ」

「あたし一人しかいないんだ。先手必勝だよ」


 パラおじの文句を軽く流し、女性は笑った。どうやら戦闘する意思はもうないらしい。


「それでですね、俺たち、聖女様に会いに来たんですけど」

「目の前にいるだろ」

「えっ!?」

「まあ、あたしが名乗ってるわけじゃないんだけどね。世間の連中は何故かそう呼ぶ。ああ、自己紹介が遅れたね。あたしはナターシャ・ガリベイン。この国の王女だよ。一応ね」

「王女様?」


 王女とも聖女とも言えない振る舞いにパラおじ達は面食らったが、嘘を吐く理由も無い。


「まあ、あたしと話したところで何がどうなるわけでもないけど、無礼な事をしたし話くらいは聞いてやるよ。ま、入りな」


 そう言って、ナターシャはさっさと屋敷の奥へと引っ込んでしまった。若干不安に思いつつも、パラおじはそれに追従する。


「あいにくお茶なんて大層なもんは用意できなくてね。水で我慢してくれ」


 入口の大広間は埃まみれだったが、案内された奥の部屋はボロボロだがよく手入れされていた。おそらく、居住スペースだけはなんとか片付けているのだろう。


 割れたティーカップに水を注いでくれたので、パラおじはマリマリにそれを渡す。喉が渇いていたのか、マリマリはそれをちびちびと飲み始める。


「で、あんたたち一体何者なんだい? どうせ”聖女様”にお願いごとでもあるんだろう?」

「なぜそれを......まさか......超能力者!?」

「そんな訳ないだろう。そうやって城の連中はあたしたちに嫌がらせするのさ、時間を割かなきゃならないからね」


 ナターシャは苦笑しながらそう答えた。改めて見直すとナターシャはかなりの美人だった。すらりとした肢体を修道服ですっぽり覆っている。金髪碧眼ではあるが、手入れをしていないのか髪色がだいぶくすんでいる。


 もしもきちんと身なりを整えたなら、確かに一国の王女にふさわしい容姿となるだろう。斧を振り回す点を除けばだが。


「そんな聖女様で王女様にお願いがあるんですがね、単刀直入に言うと、エルフ狩りとかいう非人道的な行為をやめさせて貰いたいわけですよ」

「あー、申し訳ないけどあたしは見ての通りの立場でね。元王女様と言っていいのかな。つまり、何にも権限が無いのさ」

「元王女? 趣味で聖女やってるんじゃないんですか?」

「あんたね......簡単に言うと、あたしは王族の腐った世界が嫌で放棄をしたのさ。で、その結果与えられたのがこのボロ屋敷一軒だけ。それからは......」


 そこまで言いかけると、不意に部屋のドアが少しだけ開く音が聞こえた。全員がその方向に目を向けると、瘦せこけた子供の姿が数人、不安そうにこちらを見ているのが見えた。


「ナターシャ様、その人たち誰?」

「ああ、心配しなくていい。いつも来る怖い人たちじゃないからね」


 そう言ってナターシャは席を立つと、不安そうな子供に目線を合わせながら頭を撫でた。よく見ると、ナターシャの修道服もところどころほつれている。恐らく自分で補修して使っているのだろう。


「この子らを見てみな。みんな貧しくて捨てられた子たちだよ。それでも王族は何もしない。だからあたしが拾ったのさ。そしたら街のみんなは”聖女様”とか呼ぶようになった。といっても、みんな余裕が無いから生きていくのがやっとでね」


 そこまで言うと、ナターシャは立ち上がってパラおじ達の方に向き直る。


「あたしだってエルフ狩りなんて下衆(げす)な事は大嫌いさ。でもね、今はそっちに割いてやれる余裕も力も無いんだ。今日自分と子供に食わせていけるかどうかすら瀬戸際でね」


 パラおじは黙って聞いていた。だが、突然下を向くと、ぶるぶると震え出した。


「な、なんだいいきなり? 言っとくけどいくら暴れたってあたしに出来ることはなんにも......」

「なんて人道的なんだ!」


 パラおじは顔を上げると滂沱(ぼうだ)の涙を流して叫んだ。ギャン泣きする巨大ライオンを見てナターシャもマリマリもちょっと引いている。


「よし分かった! エルフどうこうは後回しだ! おじさんがナターシャさんと子供たちに腹いっぱい食わせてやろうじゃないか!」

「い、いや、申し出はありがたいけどさ、あんたらどう見ても金持ちに見えないよ? 狩りをするにしてもこの国は許可制なんだ。やたらめったら動物を狩っていいわけじゃない」

「つまり金を使わず、動物を傷つけずに食材を用意すればいいわけでしょう」

「そんな魔法みたいな事できるもんか!」

「出来るとも!」


 先ほどの国王の面会の時とは全く違い、自信たっぷりでパラおじはそう答えた。

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― 新着の感想 ―
まさか、パラおじ……その肉はどこから?
アンパンを真似るのかな? いや、と言うか魔法がある世界だろ!
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