俺とお前のキーコード③
着いて行くと、そこはオシャレなアジアン風の居酒屋だった。
照明がオレンジかと思うと、店全体がオレンジ色だった。
なんだこの場所は…
なんて、心の中で戸惑っていた。
まるで、初デートで趣味じゃないコスメブランドをプレゼントさせられた…様な。
そんな感じ。
嬉しかったはずだったんだけどね。
その時、もうすでに帰りたかった。
ひとしきり、居酒屋の店長らしき人物と喋った後、私の方を向いて口を開いた。
「姫ちゃん楽しい?」
楽しいわけ、あるわけねぇだろ!
とは言えず。
あーしは、作り笑いをしていた。
作り笑いは嫌いだ。
口角が痛くなるのも、そうなんだけど。
無意識に反射的に作り笑いをしてしまう、あーしの人生を物語ってしまう。
つまり、嘘をついているのが悲しくなってくる。
「そういえば、明日も練習来るの?」
「あ…はい」
「よかった。明日俺最後なんだよね」
「えっ…?最後ってどういうことなんですか?」
「引っ越すんだよ俺。バンド辞めて結婚して実家を継ぐんだよ」
「はぁ…」
あーしに、なんでそんなことを言ったのか、わからなかった。
キョトンとしたあーしに、彼は、すごく笑っていて、ただ嫌な人なのかな、なんて思った。
「そんな人が、女誘って飲みに行くなんてキモいです」
「えっ!?あ…ごめん。そんなつもりなかったんだけどな」
そう言って彼は、長い髪の頭をポリポリとかいていた。
「明日、練習見に行っていい?いつもの時間でいいからさ」
「は…い」
あーしは、言われるがままに頷いてしまった。
整理ができなかったし、本当に何を考えているのかわからなかった。
それから、彼は自分のバンドの良さを延々と喋っていた。
まだ、知らなかった彼らのことを。
その日は、そのまま2時間ぐらいで別れた。
というか疲れた。
次の日。
いつもの時間に彼は、いなかった。
腹が立ちつつも、待って見ることにしたあーしは、バンドメンバー募集の掲示板を見つけた。
そこには、
『スターブルーGt募集!!男女問いません!年齢制限ありません!やる気のある方、アットホームな雰囲気のバンドなので、すぐにあなたも馴染めるはず!
めざせ!武道館!!!』
そんなことが書かれていた。
彼のバンドだった。
なんだよ。こんな詐欺みたいな文章じゃ怖くて誰も入らないんじゃないか…
そう思った。
「ごめーん待ってくれてた?」
彼は、たくさんの荷物を持ってあーしの前に現れた。
「いえ…別に…」
「じゃぁ行こっか」
あーし達は、そのままスタジオに入った。
ギターと、ボストンバッグにスーツケースを引いていた。
本当にこの人は、ここからいなくなるのかと思うと、あーしと似てる人なのかもしれないとも思った。
「さっきのバンド募集興味あるの?」
「んー、まぁ一応」
いつかちゃんとバンドに入ってみたいと思っていた。
学生気分のお遊びなんかじゃなくて、真剣に音楽に向き合っている様なそんなバンドに。
「俺さ、スタジオから漏れてくる音よく受付で聞いてるんだけど、君、うちのバンドの募集受けてみなよ」
「え?あーしがですか!?」
「まぁ、まだまだな部分も多いけど、君のレベルならやっていけると思うよ」
そんなことを言われて純粋にうれしかったけど、あんな音楽を一緒になんて考えられなかった。
このバンドにあーしが入れるなんて思いもしなかったし、バンドやりたいって出てきたけれど、あーしは、そんな一歩も踏み出そうとしない自分に嫌気がさしていた。
「俺が思ってることなんだけど、音楽を届ける。なんてよく言うけど、自分の音楽を知ってもらうってことだと思うんだよね。初めて会った人に自己紹介するでしょ?知ってほしい自分を音に乗せて伝える。君は、誰かに自分を見つけてほしいんじゃないのかな」
なんだかよくわからなかったけど、
でも、少しだけ理解できたこともある。
音楽を聞いている時、瞼を閉じると、ステージに立っている様で世界が変わった様に感じていたから。
見つけてほしい。
なんて言うのかは、わからないけど、それでもあーしは、考えて…
今ここにいるんだよ。




